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【その後のプロポーズ】《リコ×サラ@Xenogearsパラレル》
2026/01/09 14:21【お題】他CP
「どうしてですかっ?」
「どうしてもだっ!」
時刻は夜半過ぎ。
チープなネオンサインの溢れる場末の酒場で、淡緑色の肌をした屈強な亜人と、この世の至高を体現したがごとき美女が睨みあっている。
否、睨んでいるのは亜人の方だけで、その形相は地獄の悪鬼も裸足で逃げ出すほどの迫力だ。筋骨隆々とした体躯はゆうに2メートルを越え、その腕を軽く振るっただけで、たおやかな美女など真二つに割られてしまうかもしれない。
にも関わらず、彼の正面で一歩も引かず、その白く光る淡雪のような細面を懸命に仰向ける美女は、海色のおおきな瞳をチープなネオンに輝かせながら、拗ねるように形の良いくちびるを尖らせた。
「昨夜は泊めてくださったじゃありませんか。今夜も連れていってください」
「だから……昨夜は、お前が泥酔して、俺の腕にしがみついて離れなかったから、仕方なかったと言ってるだろう! 今日は素面なんだから、大人しくレベッカに泊めてもらえ!」
リコは言って、いましがた出てきた酒場を指差す。
古い馴染みの女主人は、先ほどリコの頼みに頷いたが、なにやら意味深な笑みを投げかけていた。あるいは、こうなることは予想済みだったのかもしれない。
リコは、本日何度目になるかわからない溜息をついた。
「どうしてですか? どうして、一緒に帰ってはいけないのですか?」
サラフィナは、苦々しげなリコを見上げて悲しそうに首を傾げる。絹のような金の髪が、さらさらと音を立てて肩を滑った。その上質な輝きも質感も、深夜の酒場には滑稽なほどそぐわない。
「どうしてって……だから、クソ、面倒臭ェな……」
いい加減、この馬鹿馬鹿しい押し問答にも嫌気がさしてきた。腰に手をあてて思わず夜空を仰ぐリコの、引き締まった喉仏を見やり、サラフィナが言う。
「……わたくし、わがままを言っていますか……?」
その、いままでとは打って変わった弱々しい声音に、リコが視線を戻すと、サラフィナは細い指を組み、祈るような仕草でリコを見つめた。
「わがままでもいいです。今夜だけ、今夜だけどうか、わたくしのお願いを聞いてくださいませ……!」
「今夜だけって……あのなあ」
「お願い、リカルド……!」
その必死の様子に、リコがくちびるを閉ざす。サラフィナは祈りの仕草のまま、長い睫毛をぎゅっと瞑って身を硬くした。
しばしの、沈黙。
ふたりがいる酒場のすぐ近くで、酔漢たちの怒鳴り声が響いた。女たちの嬌声や、若者の哄笑など、下卑た空気が辺りを満たす。
その場末の世界で、一心に祈るサラフィナはまるで一輪の百合のようだった。
「……だめだ」
やがて重々しく、リコが言う。その途端、サラフィナは弾けるように顔を上げ、おおきな海色の瞳を瞠り、零れ落ちそうな涙を懸命に堪えて、白いほほを蒼く染めた。
「……わかり……ました……」
搾り取るようなサラフィナの返答に、リコは深々と溜息をつく。
「おい」
「……はい」
「なにをこの世の終わりみてぇな面してんだ」
「……」
「今更俺が逃げるとでも思ってんのか?」
「っ」
リコの言葉に、サラフィナがはっとして顔を上げる。零れた涙が宙を舞い、きらきらと水晶のように輝いた。
リコは、その無骨な指をそっと伸ばし、恐る恐る、それでも優しくサラフィナのほほを撫でる。指先に、涙の雫がひやりと触れた。
「俺も舐められたもんだ。一度交わした約定を違える男に見られるとはな」
「そっ……そんな、そんなつもりじゃ……」
「心配するな。お前に言った言葉に嘘はない」
改めて、言われ。
サラフィナは、ごつごつとしたリコの掌をそっと両手で握り締め、震える頬を寄せた。
「……申し訳ありません……。信じられないのは、リカルドではないんです」
「あん?」
「信じられないのは、わたくし。こんなわたくしが、本当にリカルドに望まれたのか……いまでも信じられなくて。少しでも、貴方から離れてしまうと、すべて夢に変わってしまうような気がして……」
そう言って、サラフィナはリコの手を抱きしめるようにして涙を零す。
その可憐な様子に、リコはしばし絶句するように硬直し、それからいままでで一番おおきな溜息をついた。
「……ホントに、度胸があるんだかないんだかわからん女だな」
「……すみません……」
「明日、迎えに来てやる。だから今日はレベッカの家に泊まれ」
「……ハイ……」
「……ちっ」
ちいさく舌打ちして、リコは掴まれていた腕を抜き取ると、驚くサラフィナを軽々と抱き上げ、視線を同じくした。
「どうすればいい」
「えっ?」
「どうすりゃ、お前は安心するんだ」
サラフィナは、間近で見るリコの琥珀の瞳に吸い込まれるような面持ちで、その言葉を聞いた。掌に伝わる彼の熱い体温が、ゆるゆると全身を満たす。
やがてサラフィナは、艶やかな赤いくちびるを震わせて、リコの耳にそっと囁いた。
「……名前……」
「ん?」
「名前、呼んでください……」
「名前?」
「サラフィナ、と。お願い、わたくしの名を呼んでください」
大好きなあなたの声で、名を呼ばれたら。
きっと、明日を信じられる気がする。
自分を信じられる気がする。
サラフィナの縋るような眼差しを受けて、リコはしばし逡巡し、それから彼女の金の髪を片手ですくって、柔らかな耳朶にくちびるを近づけた。
「――サラフィナ」
「俺の嫁になれ」
その、耳に溶けるほど低い低い囁きは。
頭上を飾る満天の星に負けないほど、サラフィナのこころを永遠に輝かせた。
《お題8『名前を呼んで』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借
