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【おしえて、せんせい】《ダンデ×ソニア@Pokemon Shield》

2026/01/06 19:57
【お題】ダンデ×ソニア


「う~ん」
 ソニアの唸り声に、まだ生乾きの髪の毛を乱暴に拭きながらやってきたダンデが、ミネラルウォーターの小瓶に口をつけながら視線を向けた。
 彼の家の洒落たコーヒーテーブルいっぱいに、紙の資料が溢れている。その隙間を縫うように置かれた、薄いモバイルとにらめっこしているすっぴんの彼女は、無防備な短パンから白い脚を投げ出し、片肘をついて唸り続けていた。
「うぅ~~~ん……」
「ソニア」
「むぅ~~……」
「ソニア」
「ん~?」
 頭に巻いたリボンタオルの隙間からこぼれる黄昏色の髪が、ふわふわと彼女のほほに遊ぶ。真剣な様子で悩んでいるらしい姿は、ダンデが風呂に入る前から微動だにしていなくて、さすがにそろそろガス抜きをさせた方がいいな、と、ダンデは無遠慮に声をかけ続けた。
「ソニア、少し休憩しないか」
「うぅ~ん……」
 うやむやな返事に、ダンデはくるりと目を回す。恐ろしいほどの集中力だが、そんな彼女のあしらいなど、ダンデには慣れたものだ。
 幼い頃は、目の前で手を打ったり指を慣らしたり、冷たい飲み物をほほに当てたりと、物理的なショックを与えることで彼女の意識をうつつに戻した。
 けれどいまは、公明正大にそのぬくもりに手を伸ばす権利を与えられた立場である。多少役得やらがあってもいいだろう。夕飯のあとから数時間、ずっとほったらかしにされている恋人としては、そろそろこちらを見てもらえないと寂しい。
「ソニア」
 最後に一度声をかけ、ふっと彼女の顔に影を落とす。紙面が急に暗くなったことで、ようやくソニアが顔を上げようとした瞬間、その背と膝の裏に手を入れた。
「ひぇっ!?」
 相変わらず色気のない驚きの声を上げて、ソニアは唐突な浮遊感に目を閉じる。ダンデは素早く彼女を抱え上げると、バランスを失う前にソファへと沈んだ。
「びぃっ……くりしたぁ! なに、ダンデくん! いきなりはやめてって言ってるじゃん!」
 衝撃に眼鏡がズレている。ダンデは膝の上に抱えたソニアが、驚きと羞恥で真っ赤になっているのを正面に、悪戯が成功した顔で笑った。
「いきなりじゃないぜ、さんざん声をかけただろ」
「うぇっ? まじで? あちゃーゴメン、ぜんっぜん聞こえてなかった……」
 家主をほったらかしにしていた罪悪感があるのか、ソニアは素直に苦笑した。それからよいしょ、と声を上げ、少しだけ据わりの悪かった身体を動かし、硬い筋肉質な膝に居場所を作る。
 ダンデは、腕の中でもぞもぞとするぬくもりに満足しながらするりと腕を伸ばし、テーブルの上の資料を持ち上げた。
「明日の資料か?」
「うん。もー、勝手がわからないから四苦八苦だよ」
 眼鏡を外しながらしょぼしょぼと眉間をこするソニアが、ふぅーっとため息をつく。ダンデがもう一方の腕でソニアのうなじを揉みこむと、彼女はチョロネコのような満足の声を上げた。
「うぁ~……きもち……」
「ソニア、イワークより凝ってるな」
「んふふ、ハガネール級~」
「あとでマッサージしてやるぜ」
「おお、最強と謳われるチャンピオンの手持ちをも蕩かせる、超絶技法ですかぁ~贅沢ぅ~」
 はぁ~、と甘いため息をつきながら、ソニアがこてんとダンデにもたれかかる。ダンデはそのまま指を止めずに資料を読み込んだ。
「『みんなで学ぼう、楽しいポケモン講座』……対象年齢が低いな」
「プライマリースクール上がりたての子に、ポケモンの楽しさ、そして怖さを伝える企画だって」
「あぁ、あの年頃の子どもは怖いもの知らずだからな。草むらに突っ込んでココガラに突かれるくらいなら可愛いもんだが」
「誰かさんみたいに、ワイルドエリアに突っ込む寸前で捕獲される子が少しでも減るように、ポケモンリーグからも、博士協会からもお願いされてるからねぇ」
「自分は無関係みたいなトーンで言うなよ。オレと一緒に取っ捕まって絞られたのは誰だ」
「だぁってあれは、わたしはダンデくんを止めようとしてただけだも~ん」
「確かに途中まではな。でも、ワイルドエリアの向こうに珍しいポケモンが見えた瞬間、オレと一緒に走り出してりゃ同罪だぜ」
「はぁ~、子どもって怖いよねぇ」
「ソニア博士の説法が、少しは効くといいんだがな」
 毎年この時期になると、ジムチャレンジをする兄弟や年上の友人たちに触発されるのか、まだ幼い子どもたちが無謀にポケモンと触れ合う事案が絶えない。ガラルのお国柄で、個々の家庭でのポケモン教育は手厚い方だが、それでもすべての国民がポケモンに精通しているわけではなく、彼らとの共生共存を謳うポケモンリーグが舵を切って啓蒙に励んでいた。
 リーグ関係者や、有識者から毎年選出される注意喚起の立役者として、今年はソニアに白羽の矢が立った。知名度も知識量も申し分のない配役だったが、いかんせんソニアは『新米ポケモン博士』である。ひとつひとつの仕事が初めてのものばかりで、まだまだ緊張感が抜けない。
 ダンデの目にも、これ以上ないほどきれいにまとめられた資料だったが、ソニアの不安は拭えないのだろう。あまり緊張しすぎてもよくないな、とダンデは思った。
「毎年同じスタッフが企画に携わっているんだ。多少のトラブルがあっても問題ないと思うぜ」
「そうなんだけど……明日は、公開収録方式だから、生のちびっこと問答するんだよねえ」
「ソニア、子ども得意だろ?」
「まぁねぇ。でも、どんな質問されるかドキドキするよ。ある程度シナリオはあっても、子どもは突拍子がないからさ」
「ふむ」
 ダンデの熱い胸板にほほを寄せて、その体温に安心したのか、ソニアは若干眠そうだ。明日に備えてそろそろ寝た方がいいが、少しでも不安を取り除いてやりたい。
「じゃあソニア、オレが子どもに混ざって質問しようか」
「はぇ?」
 その言葉に、眠たげだったソニアの瞳がくりんと見開かれた。彼女のエメラルドグリーンの先で、ダンデが無邪気に笑う。
「明日はそう立て込んでないから、収録に付き合えるぜ。ソニアが困った時、オレが軌道修正してやる」
「え、えぇ~? ダンデくんが、ちびっこに混ざって?」
 その光景を想像したのか、ソニアがぷはっと噴き出した。ダンデの胸にしがみつきながら、身を震わせて笑う彼女に、ダンデは存外真面目な声で言う。
「……はい! 博士に質問です」
「ぷぷぷっ……は、はい、そこの、元気いっぱいのお髭の男の子、どうぞ」
「草むらにいるポケモンは、どうしていじわるをしてくるんですか!」
「ふふっ、いじわる……いじわるじゃないですねぇ。草むらにいるポケモン、つまり野生のポケモンは、人間には慣れていません。みんなのお家で一緒に暮らしているポケモンとは、違うんですね」
 涙をにじませて笑うソニアに、ダンデは無邪気そうな顔で目を見開いた。
「どうして違うんですか?」
「それはね、みんなのおうちのポケモンは、お父さんやお母さんや、他の誰かの『手持ち』になっているからです。手持ちというのは、ポケモンボールに捕まったポケモンのことを言います。みんな、ポケモンボールは知ってるかな~?」
「はーい、知ってまーす」
 高い声を上げたダンデに、ソニアは再び爆笑した。身もだえるソニアに、ダンデはにやりと笑う。
「な? 結構いけるだろ」
「そ、その自信どっからくるんだよぉ……は~、なんか笑ったら気が抜けちゃった」
 涙をぬぐいながら、ソニアが顔を上げる。自信たっぷりなダンデの顎に手を添えると、彼の特徴的な形の髭にチュッとキスをした。
「ありがと、ダンデくん。ちょっと気が楽になったよ」
「お安い御用だぜ。いつでも呼んでくれ」
 言いながら、ダンデはソニアの化粧気のないほほにおおきな手を這わせて、そのくちびるをそっと塞いだ。



《お題5 『サクラ』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借


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