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【単純な真理】《ダンデ×ソニア@Pokémon Shield》

2026/01/05 20:17
【お題】ダンデ×ソニア



 仲のいい幼馴染というものは、時にひどく曖昧なもので。
 年端もいかない時分から隣にいて、それが当たり前の存在なものだから、極論『良い』も『悪い』もない。
 確かに、いくら幼いといえども相性というものがあるから、よほど馬が合わなければ付き合いが続くことはないだろうけれど、そうでもない場合、親の都合、環境の都合、諸々の『ご都合』が後押しをして、否も応もなく親密になるものだ。
 オレとソニアの場合も、多分スタートはそんなものだったろう。
 ハロンタウンという、人よりもウールーの数の方が多いド田舎に、年の近い子供がいくらもいるわけはなく。有り余る体力とポケモンへの探求心を持て余したオレを、苦肉の策で隣町の『ポケモン研究所』へ連れて行ったのは、母親に言わせれば「最終手段。あそこでダメならもう、ウールー小屋に監禁するしかないと思った」そうで。
 いわゆる『目を離したら死へ一直線』だった問題児であるオレをおとなしくさせるために、ポケモン研究所は一役買ってくれた。本物のポケモンには劣るけれど、あらゆる地方のポケモン図鑑や写真集など、物珍しいもので溢れたそこは、まさに楽園だった。
 そんなこんなで、日がな一日ポケモン図鑑に夢中だった(字は読めなかったが)オレがソニアに引き合わされたのは、そんな暮らしがちょうどひと月くらい経ったころ。
 はじめて会った時のソニアは、しゅんと萎れたマリーゴールドのようだった。青白い顔色に、冴えない表情。ふわふわと顔を覆う黄昏の髪の色だけが、唯一『いいな』と思った点だった。
 その他は、まったく気が惹かれない。おとなしそうだし、泣き虫そうだし、ポケモンなんて興味がなさそうだし。
 けれどすぐ、その印象はがらりと一変した。
 はじめこそおずおずとしていたソニアだったが、マグノリア博士に背を押され、オレの傍らにやって来ると、挨拶もそこそこにオレの手にあるポケモン図鑑に気づいて、パッと顔を上げた。
『ポケモン!』
 正面から合わせた瞳の色が、冗談じゃなく宝石のように輝いて見えて、オレはそのエメラルドグリーンの光線に縫い留められたように硬直したのを覚えている。
 まともに目を合わせるのはまずい、こいつはなんか『ちがう』ぞ。
 まるで、新種のポケモンに出くわしたような、そんな興奮と緊張に、幼いオレはパニックに陥った。
 対するソニアも、自分の唐突さに気づいたのか、慌てて俯いた。そしてゆっくりと眼差しを上げて、本当にちいさく、おずおずと口を開く。
『あの……一緒に見てもいい?』
 指をさすのはポケモン図鑑。オレはこくんと頷いて、急いで本を開いた。
 そこからは、もう加速度的だった。ポケモンという共通の話題、興味関心の度合い、行動力、探求心、すべてがしっくりと噛み合って、オレたちがべったりと行動を共にするようになるのには、数日とかからなかった。
 あとで知ったことだが、ふた親を亡くして日の浅いソニアをどうにか元気づけようと、マグノリア博士はオレに白羽の矢を立てたらしい。ハロンタウンで評判の、落ち着きがなく怖いもの知らずな、超がつくほどポケモン好きのこども。言ってみれば『劇薬』のようなオレをソニアにあてがって、いい方向に転べばいい、と。
 完全に『おとなの都合』で、オレはポケモン研究所に入り浸ることを許されていたわけだ。これもあとから知ったことだが、いくらなんでもプライマリースクールにも入らないような年端のオレを、日がな一日預かるほど研究所は暇ではない。超法規的措置だったことは、考えればわかることだ。
 そういう『都合』による、仕組まれた出会い。
 幼馴染のはじまりなんて、そんなものだろう。
 オレの落ち着きのなさや無鉄砲さは、ソニアとともにいることで徐々に思慮深く変化した。ソニアの無気力な絶望は、オレとともにいることで少しずつ薄らいでいった。
 オレの母親は、だからいまでもソニアに感謝している。毎日毎日、どこぞで大怪我でもしてないか、迷子になって帰らないんじゃないかと心配することもなく、オレを家まで送り届けるソニアを、実の娘でもそこまで愛でないだろうというほど溺愛した。
 マグノリア博士は、口には出さないが、オレを特別に思ってくれている。娘夫妻の忘れ形見であるソニアを、ごく自然な形で立ち直らせ、再び笑うことを思い出させた功労者だと、幼いオレにいつも礼儀を尽くしてくれていた。
 そんなふうに、オレたちの親密さは、なにかにとって『都合がいい』もので。
 だから、どれほど時間が経ったとしても、それぞれに『都合がいい』ように、付き合っていけばいいのだと思っていた。
 ――のだが。

「だから、もしもの話だよ。もしも、ちいさいころに会ってなかったら」
「ポケモンが好きなら、きっとどこかでは出会ってた」
「もしも、ポケモンが好きじゃなかったら」
「それは、あり得ないな」
「う~、もしも、ダンデくんがチャンピオンになってなかったら?」
「普通にもっと一緒にいられたな」
「もしも、わたしがダンデくんに負けたことを根に持って、あなたから離れたら?」
「どこまでも追いかけただろうな」
「もしもわたしが、博士にならなかったら」
「きっと他に、人生を捧げるに足る目標を持っていたはずだ」
「……もしもわたしに、他に好きなひとがいたら」
「奪うぜ」
「も、もしもダンデくんに、他に」
「あり得ないことその二。ツーアウトだ、ソニア」
「は、はぁ~? そんなのわかんないじゃん! もしも、わたしたちが結婚したとして、やっぱ違うなってなったら、別れるのすっごい大変だよ! 幼馴染ってしがらみ多いし、いろんな人に迷惑……!」
 オレの求愛と求婚(同時であることに、まず文句を言われた)に対して、それは気の迷いだの、幼馴染の親愛を恋愛と勘違いしているだのと、ソニアが想定内の悪あがきをはじめたのがちょうど十分前。
 長年の幼馴染関係をひっくり返すべく、練りに練ったオレの作戦は、「オレがぐうの音も出ない『もしも』を見つけられたら、諦める。その代わり、ふたりが『あり得ない』と納得する苦し紛れを三回言ったら、ソニアの負けだ」という、負けん気の強いソニアが逃げを打てない一撃だった。
 その作戦にまんまと乗せられて、飛び切り頭のいい幼馴染は、案外あっさりと、墓穴を掘った。
 こんな問答は無意味だと、一蹴できない彼女が好きだ。
「――あり得ないだろ、ソニア?」
 三つ目のアウトを吐いた迂闊なくちびるは、ようやく解放されて忙しなく息を継ぐ。酸欠になった真っ赤な顔で、射貫くようなエメラルドグリーンがオレを見た。
「……わたしだったら『都合がいい』から、結婚したいの?」
 ああソニア。あり得ないことがカンストした時の罰ゲーム、考えておけばよかったぜ。
 そう思いながら、オレは飛び切り鈍い最愛の女性にもう一度くちづけるべく顔を寄せ、囁いた。
「……『好き』だから、結婚したいんだ、ソニア」
 誰のどんな都合も関係ない。単純な真理だろ。



《お題4 『好き』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借



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