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【こんなはずじゃなかった】《フランシス×エルヴィラ@XENOGEARS》
2026/01/04 12:11【お題】他CP
なごやかな雰囲気なんて、もちろんあるわけがない。
わたしとあのひとは、なんといっても幼い時分からの、犬猿の仲。もはや、敵同士といってもいいほどの間柄なのだから。
せいぜいあるとしたら、儀礼的な社交辞令と、中身のないおべんちゃら。あのひとは昔からたいそうお口がお上手だったから、おうつくしくなりましたね、くらいの言葉はあるかもしれない。
そのくせ、その瞳はきっと、まるでそこいらの石や木切れを眺めるように、つんと取り澄ましているのに違いないわ。
――あの瞳。薄い淡いグリーン。濃い髪の色に対して、瞳の色が薄すぎるから、なにか神秘的な感じがする。怒ると虹彩が濃くなる。猫のように輝く、金混じりの……。
あの瞳に見据えられると、何故か言葉が追いつかなくなって、言いたいことも言えず、圧倒されるように黙らされてしまうこともしばしばで、幼かったわたしは、随分とイライラさせられたものだけれど。
でも、いまは違うわ。
わたしだってもう十五、おとなの仲間入りをしたのよ。
社交界にはまだデビューしていないけれど、着ているドレスも持ち物も、段違いに洗練された。子供部屋じゃなくて、ひとりの女性としての私室も持った。家庭教師に学ぶことだって、格段に高等になった。
だから、わたしはもう、あのひとにいいように翻弄される少女じゃない。
三年前とは違うということを、思い知らせてあげなければ。
――そういえば三年も経ったのね。お兄さまとは、折にふれお会いしていたし、お手紙もまめに頂いていたけれど、あのひとと会うのは、本当に久しぶり。
……変わっているかしら?
いいえ、きっと変わらないわね。いまでも尊大で、強情で、鈍感で陰険で意地が悪くて薄情なのだわ。
手紙のひとつも寄越さなかったくせに、三年ぶりになんの用かしら?
先ごろ、お兄さまが一足先に留学から戻られたのを、追ってきたのかしら。相変わらずあのひとは、お兄さまのことしか頭にないのね。お兄さまの行くところならば、文句も言わずついてゆく。
そしてわたしにこう言うのよ。
『姫君には、この先はちょっと無理じゃないかな?』
そりゃあ、わたしにはお兄さまやあのひとのように、速く駆ける脚も器用に木を登る術も強い力で縄を引く腕もなかったけれど。
お兄さまやあのひとに出来ることで、わたしに出来ないことなんてないのに!
いつだってあのひとは、そう言ってわたしの先回り。楽しそうにお兄さまについていって、わたしはいつでも置いてけぼり。
ああ、思い出しても腹が立つ!
お兄さまの外遊にだって、ちゃっかりとついていって。旅先で見つけた珍しい石やお菓子を、いちいち送りつけてくる。
お土産話なんかよりも、一度でいいから、わたしも連れて行ってほしかったのに。
昔からあのひとは、わたしの気持ちなんか全然わからない、鈍感なひと。
今日だって、三年ぶりにアヴェへ来たのだから、まずこちらにお顔を見せるべきなのじゃない?
もちろん、お父さまやお母さまへのご挨拶が済んでからだけれど。お兄さまに会いに来たのだから、そちらにお寄りになるのが先だけれど。
それでも、そのあとは、久しぶりにわたしに顔を見せに来たっていいのじゃない?
こんなに待たせるなんて、相変わらず、なんてなんていやなひと!
……そういえば、あのひとはなにをしにアヴェにいらしたのかしら。
一番は、お兄さまにお会いしにだろうけれど。お兄さまが留学先のニサンからお帰りになられたのは先月のことで、それまではずっと一緒にいらしたはずなのに、何故いまごろアヴェへ?
お父さまたちとのお話も長いわ……なにかあったのかしら……?
「姫さま、フランシス卿がおみえです」
女官の言葉に、わたしは思わず椅子から立ち上がった。本当は、尊大に足でも組んで、悠然と出迎えるつもりだったのだけれど。
開かれた扉の向こうから、あのひとがやってくる。
三年ぶりに見た瞳。窓から射し零れる光に、金に輝いて見えるグリーン。
わたしは愚かにも、少女のころのように、その瞳を見て言葉を忘れていた。
「お久しぶりです、エルヴィラ姫」
あのひとが、やわらかいビロードのような声で言う。変わらない声音に、わたしの中のなにかが響いた。
「……本当に、お久しぶりです。お元気でした?」
「はい。すっかりご無沙汰をしてしまい、姫君に顔を忘れられたのではと、心配していました」
そう言ってほほ笑むあのひとの物腰は、三年前よりずっと大人びて、ずっと落ち着いて。
三年前よりもずっと、遠くに感じられた。
「――わたしの顔をお忘れになったのは、あなたの方じゃなくて?」
悔しくて、大人と子供の差を埋めたくて、十五の矜持を皮肉に込めた。
「忘れてはいませんが、見違えました」
「え?」
「おうつくしくなられましたね」
そう言って、まるで眩しいものを見るように瞳を細めるあのひとから、
――わたしは眼を離せなくなった。
予想できていた、社交辞令と知っていても。
《お題3 『再会』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借
