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【ひめごと】《アーサー×フィー@FE聖戦の系譜》

2026/01/03 21:30
【お題】アーサー×フィー


 風も星も月も地も、すべて等しく眠りについた、静かな夜更け。
 一枚のブランケットにくるまって、ひと組の男女が親密な時を過ごしていた。
 衣擦れの音すら響く、静寂の中。小さな部屋の隅にあるベッドで、慕わしい体温を分け合いながら、彼が言う。
「――わかった。もう少し、秘密にしてよっか」
「え?」
 ほほを寄せた肌のあたたかさ、その胸の奥から響く鼓動の心地よさに、うっとりとまぶたを閉じて、夢とうつつのはざまにたゆたっていた彼女は、彼の意外な一言に、おおきな翡翠の瞳を見開いた。
「いいの?」
 そのまま思わず身体を起こし、肘をついて彼を見下ろす。窓から差し込む銀色の月光が、こちらを見つめる彼の鮮やかな紫水晶の瞳に反射して、わずかにきらめいた。
 彼は女性的に整った顔容をこちらに向け、つい先ほどまで生々しい情欲に溺れていたとはとても思えないほど、清い笑みを浮かべている。
 その、誰もがこころ奪われる、この世のものとは思えないうつくしいほほ笑みを見て、彼女はうっとりと幻惑されるどころか、とたんに警戒段階を引き上げた。
 彼の表面的な優美さは、彼女にとってなんの意味もない。その罰当たりなほどの美々しさはむしろ、なにかとんでもないことを言ったりやったりする凶兆のようなものだ、と、付き合いの長い相棒は確信していた。
「……なんでいきなり、宗旨替えしたのよ。さっきまでは、さんっざん駄々こねてたくせに」
 平素の彼は、彼女に対してほとんど盲目といってよいほど従順で——それはそもそも彼女の言い分の方が圧倒的に正しいからなのだけれど——滅多に逆らうことはない。
 けれど、ここぞという時は自分の意見を曲げることがなく、そればかりかありとあらゆる手を使って彼女を篭絡しようとする。
 その悪魔的な狡猾さを警戒している彼女に、彼はあどけなくも見える真っ直ぐな紫水晶の瞳を向けてほほ笑んだ。
「ん……ちょっとね」
「なによー。言いなさいよ」
「たいしたことじゃないよ」
「隠すの? 気になるじゃない」
「そう? ……じゃあ、やっぱりみんなに話そうか?」
「どーしてそうなるのよ。言わなくていいんでしょ? ……まだ」
「うん」
 あっさりと頷く彼に、彼女はきゅっと眉根を寄せてくちびるを尖らせる。こういう時の彼は、決して本心を明かさずに、のらりくらりと煙に巻くのが常套手段だ。
 もちろん、彼女にはそんな彼の口を開く奥の手があったけれど、あたたかなブランケットに素肌のままくるまって、互いの体温を心地よく分け合うこの静かな夜に、無粋な言い合いを続けるのも気が引ける。
 そもそも、彼の翻意は彼女の望むところだったのだから、大切なのはその理由ではなく、結論の方。
 『秘密にする』と確約させたことだけでも、よしとしなければ。
 ——でも。
「……あのね?」
「うん?」
 肘をついて身を起こしたままの体勢で、彼女がぐっと彼に近づいた。吐息が触れるほど近く、彼の紫水晶の瞳を覗き込んで、そこに浮かぶどんな感情をも見逃さないように、言葉を選ぶ。
「別に、ずっと内緒にしておくつもりじゃないからね?」
「うん」
「ただ、もうちょっと……なんて言うか、ココロの準備? が、欲しいだけで……」
「うん」
「ほら、あたしたちって、ずっと『相棒』だったじゃない。親友っていうか……周りだってそう見てるし、そう言ってきたし、そういうつもり、だったし」
「うん」
「……で、ほら。ね、いきなりこう……こうなりました、っていうのは、なんか……」
「うん」
 段々と、恥じらいで口の端が震え、翡翠の瞳がゆらゆらと逃げ、ブランケットから続くなめらかな白い肌が、うっすらと赤みがかっていく様を、彼は落ち着いた表情で見守っていた。
 ただし、涼やかなはずの紫水晶の瞳が、ごくごく鈍く、じっとりと紅い色に変わりつつあることを、彼女はまだ、気づいていない。
 なにかを振り払うように若葉色の髪をふるりと揺らし、彼女は再び彼に視線を合わせると、凛然としたまなざしで、きっぱりと言った。
「言いたくないとか、知られたくないとか、そういうわけじゃないからね」
「うん」
「たとえ、みんなに内緒にしてるからって、この……こういう、関係が変わるわけじゃないし。後悔とか、してるわけでもない。わかる?」
「うん」
 凛々しく宣言しながらも、触れ合った肌から感じる彼女の体温が、恥じらいからかじわりと少し上がった気がして、彼は無表情を保ちながらも、己の裡に巣食う猛々しい欲が舌なめずりを始めたことを感じた。
「だから、あの――」
「うん」
「……ほかの女の子に目移りしたら、許さないからっ」
 ひと息に言いきって、羞恥に堪えられなくなったのか身体を離そうとする彼女を、彼は予測していた速さであっという間に腕の中に囲い込む。その一幕にベッドが揺れて、夜の静寂にぎしりとおおきな音が響いた。
「あははっ……」
「ちょっ、アーサー……」
「そんなに不安ならさ、フィー。やっぱり宣言しようか?」
 彼女のやわらかな胸を自分のそれで押し潰すように抱きしめ、身じろぎできないように全身で絡めとる。その途端、彼女は彼の情欲に気づいて、ちいさく息を呑んだ。
「俺たちこんなに愛し合ってますよって、みんなに……あますことなく、見せつける?」
「っ……ばか!」
 治まりかけていた熱が、肌を通じて彼女にも伝播する。腕の中で身じろぐその体温がどんどん上がり、蕩けるようなかぐわしい香りが彼の脳髄を焼き始めた。
「わかってる。……お許しが出たら、遠慮なく言わせてもらうから、いまはまだ、秘密でいいよ」
「一生秘密にしようかしら!」
 自分を暴こうとする不埒な手指に反抗するように、彼女が拗ねたように言う。その可愛らしい脅迫に、彼は物分かりよく頷いた。
「うん、それでもいいけど」
「え……ぁ……っ」
 問い返そうとした彼女は、再び訪れた夜の時間に呆気なく翻弄されていく。
 問答を退け、機嫌よく彼女に満たされていく中で、彼は内心呟いていた。
 ——こんなに俺に馴染んで、一夜ごとに全部蕩けていってるってのに……本気で、秘密にできてるって、思ってるのかなあ……
 可愛いな、フィーは。 
 彼女が知ったら激怒しそうな現実を、今宵もまた閨の中へと閉じ込めて、彼はただひたすらに、彼女に溺れる夜を急いだ。



《お題2 『秘密』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借

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