challenge
夢も希望もあるんだよ
2025/09/29 16:46【お題】バルト×マルー
アイオーンに蹂躙されつくした大地を見つめて、若は長いため息をついた。
「――……やることいっぱい、だな」
その、妙に呑気で、でも十分に絶望した声色に、ボクは手にしていた医療キットを抱え直して若の傍らに立つ。周りには気ぜわしく働くみんながいたけれど、ちょっと、ほんのちょっとだけふたりの時間をもらっちゃう。
「そう、やることいっぱいだよー。退屈してる暇もないね、閣下」
わざと意地悪に、空気を読まず発した台詞に、案の定若はむっとしたような視線を寄こした。
「そっくりそのまま返すぜ、ダイキョウボサマ」
「へへっ」
くすぐったく笑って、ボクは目線を前に向けた。
焼けただれた街並みと、崩れた大地。目に映る悲惨な現状はボクたちの『これから』を大いに暗澹とさせるけれど、不思議とため息は出ない。
だって、ほら。
「だいじょーぶ」
言って、ボクはキットを抱えていない方の手を若の腕にそっと絡めた。しっとりと体温の高いそれは相変わらず硬くて、ボクの掌では包みきれないほどたくましい。
その腕に、何度となく救われたひとりである自負と感謝を、ありったけの笑顔に込めた。
「ボクたちには、夢も希望もあるんだよ」
「…………」
「生きてる、それだけでこんなふうに思えるんだから、人間ってすごいよね」
見上げた若の横顔は、あいにくこちらの角度だと眼帯で表情が窺えない。けど、わかる。長い付き合いなので、若のそっと震えたくちびるの端や、わずかに力の入ったこめかみ、そしてなにより、掌から伝わる熱い脈動が、若の感情を雄弁に語ってくれている。
ボクの視線の先で、若は一度天を見上げて喉をそらし、吠えるように叫んだ。
「上等だッッ!」
その絶叫に、勤勉に動いていたみんなが驚いたように動きを止めた。振り返ったボクは、ごめんね、気にしないでと伝えるつもりで微笑みながら手を振る。そのジェスチャーに安心したのか、全員やれやれと肩を竦めながら再び動き出した。
若の奇行には、みんな慣れてるんだよね。
「マルー」
不意に、ボクの顔に影が差した。見上げると、若は身体ごとこちらを向いて、蒼い蒼い碧玉の瞳で覆い被さるようにして言った。
「見てよろ。こんな光景なんてあっという間に過去のもんにしてやる。だからお前も、夢でも希望でも、なんでもいいから捨てんなよ」
その言葉に、ボクはこの世で一番眩しいものを見たような気持ちで思わず目を細めた。
「わかった。夢も希望も失くさないよ、ボク」
「よし。――ンじゃ、ぼちぼち働くか」
不意に気恥ずかしくなったのか、若はそう言うと逃げるように踵を返した。その大きな背中に向けて、ボクは笑う。
夢も希望も、無くさないよ。無くなるはずがないよ、若。
どんな世界になったって、どんな未来になったって。
若が生きている限り、それだけは絶対なんだ。
追記
だいぶ前にXさんに書き捨てたやつ。書き捨てたは誇張ではなく、元データが消えてて、文庫ページメーカーさんの画像しかなかったから文字起こししました。
なんかすごく、前向きな話だ。お題メーカーか何かで出たお題が『夢も希望もあるんだよ』という超前向きなマルーっぽいやつだったから、ノリノリで書いてますな~
なんかすごく、前向きな話だ。お題メーカーか何かで出たお題が『夢も希望もあるんだよ』という超前向きなマルーっぽいやつだったから、ノリノリで書いてますな~
