challenge

1.a love poem 恋愛の詩

2025/09/28 16:24
【お題】ダンデ×ソニア



 うたうポケモンは珍しくはない。
 不思議な音階のそれは、相手を眠りに誘ったり、自身の能力を上げたり、戦闘に特化した効果を得られるものが多い。
 けれど、最近の研究では、そういった実務的な能力とは別の、純粋にただ『うたをうたっている』だけのポケモンもいるのだとわかってきている。
 かれらの言語は解明されていないので、そのうたに意味があるのか、メロディには共通性があるのか、そういったものはまだ明らかではないけれど。
 確かに、うたっている。
 それもおそらく、愛のうたを。

「いのち短し恋せよポケモン」

 ふとくちずさんだ囁きに、ソニアは我ながら滑稽だと笑う。
 いのち短しどころか、大半のポケモンは人間よりも長命だと言われている。むしポケモンはその限りではないが、いま目の前で朗々とうたうラプラスなどは、おそらくソニアよりも年上だ。専門ではないけれど、肌艶や瞳の色などから推察しても、三十歳は越えているだろう。
 だいぶ年上の彼女は、まるでソニアの人生経験の浅さをからかうように、喉を震わせて気持ちよさそうにうたい続ける。
 愛するものへ向けて、とっておきのうたを。
 ソニアはぼんやりとそれを眺めながら、このうたが届いたら、きっと世にも幸せなつがいが生まれるだろうと思った。
 これほどにこころ揺さぶられる、まごころのうたなのだから。憎からず想う相手ならば、イチコロだろう。
 うたの内容など問題ではない。その歌詞に意味などいらない。
 ただ、相手を恋い慕う、その一途な愛さえあればいい。
 いたって単純な、そして覆ることのない真理を悟り、ソニアは黙ってうなだれた。
 けれど、ソニアはポケモンではない。一途な愛には言葉がいる。
 うたは詩がなければ伝わらない。悲しいね、人間は。

「……いのち短し、恋せよ乙女」

 乙女というほど殊勝ではないけれど。
 いのちはどれほど永らえるかも知らないけれど。
 いまこの瞬間、恋せよ、とこころが震えるのなら。
 素直にその気持ちを、詩にするべきかもしれない。
 変わらぬ愛を捧げるラプラスが、ちらりとソニアを見つめた。透き通る薄明けの瞳が、まぶたに残る幼馴染の髪の色に似ていて、ソニアはぐっとくちびるを噛む。

「……好き、きみが好き、誰よりも好き」

 陳腐で使い古された言葉。けれど、ソニアには大切な、愛の詩。

「きみが好き、大好きだよ……」

 ――ダンデくん。

 まだ告げられない名前をくちびるに乗せて。
 来るべき日のために取っておく。
 その日はもう、すぐそこ。



コメント

[ ログインして送信 ]

名前
コメント内容
削除用パスワード ※空欄可