challenge

20.Kiss me before I rise 起きる前にキスを

2025/10/17 17:38
【お題】ダンデ×ソニア



 ダンデくんが、寝ている。
 ソファの背もたれに身を預けながら、静かな寝息を立てる恋人の様子に、淹れたてのカフェオレの香り漂うマグカップをそっとテーブルに置きながら、わたしは気配を殺した。
 ワイルドエリアをさまよい、やっと見つけた希少ポケモンを捕獲する時のような、静かな興奮。呼吸を整え、中腰になって、そっと足を踏み出す。毛足の長いカーペットが、足音を吸収してくれるのがありがたい。
 やわらかな午後の光が、ダンデくんの薄明の髪を照らす。もう少し日が傾いたら、眩しさに起きてしまうかもしれない。それでなくとも、野生のポケモンに匹敵するほど眠りの浅い彼は、ちょっとした気配に敏感で、いつ覚醒するかわからない。
 だから、これは、限りなく不可能に近いミッション。
 またの名を、復讐のソニア、だ。
「……」
 息を殺し、また一歩近づく。もう、手を伸ばせば触れるほどの距離で、わずかに仰向いたダンデくんの寝顔は近い。普段、あまりまじまじと見られないその顔をじっくりと眺める。浅黒い肌に、大人びた頬の線。高い鼻梁に、厚いくちびる。信じられないほど長い睫毛は十分な量で影を落としている。
 そっとソファの背もたれに手を伸ばし、ゆっくりと息を殺して、ダンデくんに顔を寄せた。
「……」
 ふに、とやわらかい感触。どこもかしこも筋肉質な、直線の多いダンデくんの身体だけど、くちびるは意外なほどふっくらしている。そこにくちづけて、二秒……三秒。小鳥が餌を啄むようなささやかさで離れた。
「……」
 ターゲット、沈黙。ミッションの続行を決める。
 もう一度、ゆっくりとくちびるを合わせる。少しだけ、先ほどよりも強く押し付けると、ダンデくんの肉厚のくちびるがわずかに形を変えた。
 う~ん。なんか、物足りない……
 そっと身を起して、自分のくちびるに指を這わせる。寝てる相手にキスって、思ったよりもつまらないな? ダンデくんてば、なにが楽しくていつもこんな……
「――もう終わりか?」
 ぱちりと音を立てるほど強く、ダンデくんの黄金の瞳がこちらを射抜いた。言い訳できないほど至近距離で、わたしはびくりと震える。
 目覚めの爽やかなダンデくんは、晴れ晴れと笑った。
「オレに仕返しをしたいなら、桁が足りないぜ」
「……って、何回ヒトの寝込み襲ってんの、ダンデくん!」
「そうだな、正確には……」
 いつの間にかこちらの腰に腕を回し、のんきに指折り数え始めた恋人に、わたしは暴れながらため息をついた。


コメント

[ ログインして送信 ]

名前
コメント内容
削除用パスワード ※空欄可