challenge

19.friends with benefits セックスフレンド

2025/10/16 09:06
【お題】ダンデ×ソニア



「それって、セフレってやつ?」
 潜めた声は、喧騒のパブの中奇妙に響いた。ソニアはぎょっとしてフォークを止め、斜め向かいでジントニックを傾けていたルリナが涼し気に瞼を伏せる。
 ふたりの座っている席と背中合わせの椅子には、少し年かさの女性グループがいた。先ほどから、お互いの会話は聞こえるともなしに届いていたけれど、わざわざ人の話に聞き耳を立てることもなく、店内のBGMのような感覚で聞き流していたのに。
 なんの悪戯か、ソニアとルリナの会話の途切れた一瞬の隙をついて、その声が届いたのだ。
「まあね」
「なんで?」
「ええと、なりゆき?」
 ため息のように呟く女性に、友人らがこそこそと問い詰める。
「あんた、それでいいの」
「しょうがないわよ。だって、真剣に付き合うのは怖いもの」
「あぁ~。あんたたち、長いこと友人関係だったもんねえ。変にマジになって、壊れたら取り返し付かないか」
「そうそう。セフレって案外悪くないよ、変に揉めないし」
「まあ、気楽っていえばそうかもね」
 達観した彼女らの会話に、ソニアはいつの間にか完全に聞き入っていた。すると突然、彼女の止まっていたフォークに、ルリナのジントニックのグラスがカチンとぶつかる。はっとして目を上げると、ルリナはちょっと窘めるような目でソニアを睨んだ。
「う、ごめん」
 他所の会話を盗み聞きするなんて、行儀の悪いことこの上ない。ソニアは意識して会話をシャットアウトし、ルリナの方へと集中した。
 けれどルリナは、少しばかり意地悪そうに笑う。
「そんなに興味ある? セフレ」
 ぐっと声色を潜め、耳に吹き込むような低音で言われた言葉に、ソニアは一瞬で真っ赤になった。
「そんなんじゃないって」
「ずいぶん熱心に聞いてたから」
「いや、それは……」
 しどろもどろに答えながら、ソニアは頭の中に浮かべてしまった、長年の片思い相手の幼馴染の顔を振り払うように首を振る。
「わたしには無理だなって思っただけ」
「そう? 拗れちゃうくらいなら、気楽な関係の方がいい、っていう意見はどう?」
 信じられないほど長い間、劣等感や諦念に翻弄されながらも捨てきれず抱える恋。そんな呪いのような気持ちを、いっそ断ち切るために思い切ってみるのもいい。
 ルリナの言葉に、ソニアは切なげなため息をつく。
「それを気楽って思えるほど器用なら、こんなに拗らせないって」
「まあねえ」
 あっさりと頷くルリナに、ソニアはちょっぴり恨みがましい視線を向けた。


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