challenge
#78.手に入れる【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
2026/10/15 17:47【お題】ダンデ×ソニア
#43.祈るの続きっぽい感じ
ダンデが独身貴族を謳歌していた時期、長年の盟友(悪友)であるキバナ、ネズの二人とは、不定期に飲み会を開催していた。
大体は、シュートスタジアムで行われるジムリーダーの定例会議やガラル粒子変動調査のエキシビジョンマッチの後などに、ダンデの住まうペントハウスに集まる。いつ何時でも気のきいたホスピタリティを誇るそこは、たむろするのに誠に都合がよく、シュートシティにおける根城として優秀だった。
稀にナックルシティでのジムの視察や会議の後、キバナご推薦の居心地のいいパブや、彼の一人暮らしのマンションなどで開催することもあったが、やはりペントハウスの利便性とは比べるべくもなかった。
だが、現在のダンデは結婚を控えた婚約者と一緒に、ナックルシティの広大な屋敷に住んでいる。身分としては独身だが、すでに『独身貴族』の自由は返上し、心底望んで婚約者の尻の下で暮らしていた。
そんな状況なので、成人してからこっち、なんだかんだと続いていた悪友同士の宅飲みの機会は、当然の流れのごとく消滅した。
――かに思われたが。
「あ、いらっしゃ~いキバナさん、ネズさん! ごめんね、ダンデくんまだなんだぁ」
正面玄関で執事とイエッサンに恭しく迎えられたキバナとネズは、通された広いリビングで弾けるような笑顔を向けてきたソニアと、彼女の相棒であるお客様大好きポケモンワンパチの歓待を受けて、些か圧倒されてしまった。
「あ、ダンデまだ仕事か? ごめんなぁ、早く来すぎちまった」
「なんなら、その辺のパブで時間つぶして来ましょうか」
キバナとネズが遠慮を見せると、ソニアはあっけらかんと首を振る。
「ちょっと、冗談でしょ? ダンデくんがいなきゃ、ここに来る意味ないって? こぉんなに歓迎してる人間とこいぬポケモンを前にして、そういうこと言う~?」
「いやいや、彼氏……じゃねぇや、婚約者のいぬ間にソニアちゃんと差し飲みなんかしたら、後でどんな報復があるか怖いからなァ」
洒脱なキバナの言葉に、ソニアは構わずにリビングの中央へ彼らを誘った。
「はいはい、わたしの独占欲の強~い婚約者様から伝言だよ。『悪い、キバナ、ネズ! ちょっと遅れそうだから、先に始めててくれ。ソニアのおすすめのワインが手に入ったらしいが、オレの分も残しておいてくれよ!』……ま~当然、残しておく義理はないけどね~」
クックと笑いながら、ソニアは巨大な三面ソファーの中央にあるテーブルに所狭しと並べられた酒肴や料理、ペントハウスでもよく見たキバナやネズの好む酒類を差して言った。
「もう少ししたら、ルリナも来るの。こっちはこっちで女子会するから、気兼ねなく楽しんでいって。それまでの間、一緒に飲もうよ」
「お、そういうことなら」
「呼ばれますよ」
二人の客は素直にソファに座り、慣れた様子で酒などを注ぎ始める。なんの遠慮も躊躇もない様子に、ソニアも嬉しげにワインを開け、三人はそれぞれにグラスを掲げた。
「かんぱ~い」
少々珍しい取り合わせだが、初めて飲む相手というわけでもない。三人は和やかに杯を干し、料理をつまみながら話に花を咲かせた。
「じゃあ、結局いまだに正確なところはわかんねぇのかあ」
「そうなんだよねえ。一応、常駐組は把握してるんだけどさ、厄介なのが夜来るゴーストタイプとか、天気や気温で変化する組。ってかさ、ワイルドエリアでさえそれぞれの出現エリアは大体定まってるのに、ここはほんとにフルランダム。でも絶対法則とか原因とかがあるはずなのよ……それを突き止めたい」
きらきらとエメラルドの瞳をきらめかせて、まるでおもちゃを与えられた子供のような顔をするソニアに、ネズが物柔らかにほほ笑んだ。
「飽きないおもちゃ箱を手に入れたわけですね、博士は」
「あは! それ、ルリナにも言われたぁ」
ケタケタと笑うソニアに、キバナはおっ、と声を上げる。思わずのようについて出たそれに、ソニアとネズの視線が向いた。
「なんですか?」
「いや……ちょっと、思い出したことがあってさ」
「なに?」
小首をかしげるソニアを見やって、キバナがにやりと笑う。整った顔立ちに案外ワイルドな笑顔を浮かべるキバナの様子に、ソニアはどことなく警戒するように肩をすくめた。
「なぁ~に、その笑い顔……なんか、嫌な予感するんですけど」
「いやいや、それがさあ。ちょっと前のスタートーナメントん時の、ダンデのセリフを思い出しちまって」
「スタートーナメント? ああ、ダンデくんとキバナさんが優勝した回?」
「そうそう。そん時さ、決勝前の控室で、ちょっとした与太話をしてたんだけどな……聞きたい?」
「え」
念を押されるような言葉に、ソニアはますます警戒した。基本的に、キバナは人が良くて面倒見がいいが、それと同時に大変な悪戯好きで、からかい上手だ。彼がこういう顔をして笑うときは、おそらくソニアかダンデが気まずくなるようなネタを持っている。
そう分析して、ソニアはううん、と唸った。いやな予感に従って回避するか、好奇心に従って踏み込むか……
「さっさと話しやがれ」
ソニアの逡巡を歯牙にもかけず、ネズがズバリと促す。彼にとっては『聞かない』選択肢などない。キバナは楽しげに破顔して、いそいそと語り始めた。
いわく、バトルタワーという一大興行のオーナーとなり、さらにガラル中を沸かせるスタートーナメントまで成功させたダンデに対し、世間は『世界を手に入れた男』と評価した。誰もが羨む地位、名誉、富を手に入れた男として認められた彼は、しかしそれを一言のもとに否定した。
「かっわいくねぇよな~。与太話でも『オレが王様だぜ!』くらい言えっつーの」
「実際そんなこと言われたら、オマエは秒で反発したでしょ。『オレさまがすぐにその称号を剝奪してやるぜ!』とか言って、延々バトルし始める未来が見えますよ」
「まあな! てか、そういう流れでバトルの予約しようと思ったんだが……あいつ、案外謙虚つーか、現実的つーか……」
キバナがぼやいていると、一人掛けのソファで足をたたんで寛いでいたソニアが、メルローを舐めるように傾けながらふふふっと笑った。男二人がそちらを向くと、白いほほをピンク色に染めたほろ酔いの博士が、目に毒なほど可愛らしく笑っている。
「ン、なにソニアちゃん」
「ん~ふふふ、いやあ、実にダンデらしいねえ」
本人不在時に、時たま『くん』を抜いてダンデを呼ばわるソニアは、すっかり彼の『幼馴染』もしくは『保護者』モードになっている時だ。彼女は慈しむように瞳を細めて、ぼんやりと囁く。
「ダンデはさあ、満足しちゃったらダメなんだよ。根っから追いかけっこが好きな、求道者タイプだからね。常に目標を補足して、それを攻略して、さらに手強いものを求める習性なんだよ。だから、満足しちゃったらその瞬間、彼の人生は終わってしまう」
ソニアの言葉に、キバナは思わず目を丸くした。さすが、長年の付き合いは違う。あっさりとダンデの本質を言い当てた彼女は、さらに楽しげに笑った。
「ガラルのみんなでポケモンバトルを強くしよう! ってのもさ、結局ずっと、この『ガラル』で遊んでいたいのよ。どこか他の地方、他の世界で武者修行をするのにも心惹かれるけど、結局彼は、この『ガラル』を愛してる。あくまでも、ここで高みを目指したい。だから、手っ取り早く『ガラルのみんな』で強くなればいい! って、まぁ~、鮮やかなくらいのエゴだよねえ!」
カラッと笑うソニアに、キバナとネズは顔を見合わせた。あまりにも心当たりがありすぎて、笑う気にもならない。ダンデの『ガラル』に対する執着、『強者』を求める飢餓感が、結局はこの地方を底上げし、名実ともにポケモンバトルが国益を担うまでに成長した。
『エゴ』というにはあまりにも壮大すぎる功績に、けれどソニアは全く頓着せず、ただただ呆れたようにふわりと笑う。
「ひたすらずっと、前だけを見据えて突き進む、ポケモンみたいにまっすぐなひとだよ、ほんと」
珍しく本音を吐露しているようなソニアの様子に、キバナはきらりと瞳を光らせた。
「その、ポケモンみたいにまっすぐな男だけど、幼馴染の女の子と結婚できることにさえ、満足してねえみたいだぜ?」
「え?」
きょとん、とソニアが目を丸くする。子供のように素直な反応に、キバナはヒトの悪そうな笑みを浮かべた。
「五歳のころから好きな子にプロポーズして、結婚します! なんて、わかりやすい達成感ですら、あいつは感じねぇんだと」
「とんだ贅沢野郎ったい」
ぼそりとネズが呟く。ソニアはちょっとだけ困惑したように短い眉を寄せた。
「え、なに、ダンデくんてばなんか不満がある……とか?」
「あーいや違う! そうじゃねえよ」
キバナは慌てて首を振る。それから、あーと唸った。
「いやこれ……オレさまが言っていい話? うわーごめん、酒のせいで口が滑った! これ、とんでもねぇノロケだから、気になるならダンデから聞いてくれ。とてもじゃねぇが、オレの口からは言えねェわ」
「えっ」
「あー、なんか予想はつきますよ……あいつのことだ、『結婚するからって満足はできない、オレは一生ソニアを求め続けるぜ!』……とか抜かしたんでしょう」
ネズの美声が恐ろしいほどそっくりに、ダンデの声色を真似て言う。それに、キバナは手を叩いて爆笑し、ソニアは酒精の色よりもはるかに深い赤色に染まった。
「うわー……もう、勘弁してよぉ……」
気恥ずかしげに呻いて顔を伏せるソニアを見やり、キバナとネズはにやにやと笑う。普段それほどあからさまに恋愛している面を見せない理知的な博士が、どうしようもなくメロメロになっている様を見るのは楽しい。
そんな男たちの視線を感じて、ソニアは負けん気の強そうな顔を持ち上げる。
「楽しそうなとこ悪いですけどねーお兄さんがた! あなたたちだって、ヒトのこと笑ってられないよ! これから先、息つく暇もなくガラルを変えていく気だからね、ダンデくんは」
「え?」
「あのバトルジャンキーが、現状で満足してるはずないじゃん。いまのところ、バトルタワーとスタートーナメントを軌道に乗せることに夢中だけど、それがひと段落ついたら、きっともっと大掛かりで、そんでもってみんなを巻き込むようなバトル興行を始める気満々だからね」
予言のようなソニアの言葉に、キバナが目を丸くする。ネズはいかにも億劫そうに半眼を閉じ、ため息をついた。
「やれやれ……おれはイチ抜けしますよ。もう、スパイクジムはマリィに譲ってますし……」
「甘いね、ネズさん!」
ズビシ! と指を立て、ソニアが断言する。
「あのダンデくんが、一度見込んだ逸材をそう簡単に手放すわけないでしょ。ネズさんなんか、骨の髄までしゃぶられるんだからね! キバナさんだって、いまは『ダンデとバトル三昧なんて願ってもない!』とか浮かれてるだろうけど、ダンデくんの人を巻き込むレベルは、そんなもんじゃないからね」
「うお」
こころの中を読まれた気恥ずかしさに、キバナが思わず声を上げる。そんなキバナを軽く睨んで、ソニアは可愛らしい小悪魔のように笑った。
「例えばぁ……『ワイルドエリア耐久バトルゲーム』とか。一か月かけてワイルドエリア中をサバイバルしながら、バトルの勝敗を競う。当然、一時的なタッグや地形効果の罠、野生ポケモンの生態を利用した狡猾な戦略とか、なんでもありのサドンデス。夜もおちおち眠れないほどの緊張感と集中力が必要な死ぬほどしんどい大会に、キバナさんはたぶん、毎回呼ばれるね」
「うげっ」
考えただけで最悪だ。キバナはダンデとのヒリヒリするバトルが好きなのであって、それが長時間、しかも文明の届かないワイルドエリアでの耐久戦など、洒落者のキバナには耐えられない。だが、聞けば聞くほどダンデの好みそうな興行で、実現したらまず間違いなくキバナは常連にさせられるだろう。
青ざめたキバナを横目に、ソニアはネズへも予言をする。
「もちろん、ネズさんもレギュラーだね。特に、ワイルドエリアではダイマックス戦ができる場所が限られてるから、通常バトルの多彩さを求められる。さらに、ネズさんのライブパフォーマンスもますますパワーアップさせて、一大フェスを兼ねたバトル大会になりそう。ネズさんは歌って、バトルして、歌って……もちろん休む暇なんか与えてもらえないね」
「地獄じゃねえか」
心底げんなりとする。キバナとネズのしおれた様子を満足そうに見やって、ソニアは高笑いをした。
「ほーっほっほ、ダンデくんに気に入られたのが運の尽きだと思って、最後まで付き合ってあげてね!」
「とんでもなく高飛車な内助の功ですね」
「オレさま、嫌がらせに毎日この屋敷に通ってやろうかな……」
キバナが脅しのようなことを囁くと、けれどソニアはパッと顔を輝かせた。
「えっ、キバナさんマジ!? 大歓迎だよ、現在このポケモン屋敷における野良ポケモンの調査、研究には常時人手を募集してるの! 部屋はたっぷりあるし、もう、住み込んじゃってもいいよ!」
「うわマジでいい顔するなぁ研究バカは! ンなことしたら、あんたの婚約者に殺されるってーの!」
「それはない、マジでない! ねえじゃあさ、せめて月イチの飲み会は復活させようよ~。わたしもルリナと女子会したいし、ダンデくんもなんだかんだ言ってキバナさんやネズさんと飲むの好きだしさあ~。この家ムダに広いし、ねぐらにするに最適じゃん!」
ここぞとばかりにおねだりモードになるソニアを見やって、キバナとネズが顔を見合わせる。それからやれやれと諦めたように肩をすくめた。
「わーかったよ……んじゃ、オコトバに甘えて、ダンデに絡みに来てやるよ!」
「たまにはマリィも連れてきてやっていいですかね。あの子、この屋敷が気に入ってんですよ、お城みたいだって」
「えー嬉しい! あっ、じゃあついでにユウリも呼んで、パジャマ女子会したい! そうするとホップも欲しいな~。でもあの子まだ飲めないし、ココに突っ込むのは可哀そうかな?」
「いいぜ、ホップにもたまにはハメを外した兄貴の醜態を見せてやるのも経験だ」
無責任なことを言って笑うキバナに、ソニアもはしゃいで笑う。
するとその時、部屋の扉を開いたイエッサンが、ピンクのエプロンをふわりと揺らして声を上げた。
「きゅああ」
「あ、ダンデくん帰ってきた? ルリナも? わーい、お迎え出るね!」
嬉しげに立ち上がったソニアが、いそいそとリビングを出ていく。彼女の後ろ姿を見送って、キバナとネズはなんとも言いようのない顔を見合わせ、苦笑した。
「気に入られたのが運の尽き、ねえ……」
「まあ、しばらくは付き合ってやりますか」
そんなふうに嘯いたネズは、この先とんでもない長さの『しばらく』が続くことを知らない。
とりあえず、まだ見ぬわくわくするような、げんなりするような、複雑な未来予想図を思って、男二人はどちらからともなくグラスを合わせた。