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#71.選ぶ【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
2026/10/01 17:18【お題】ダンデ×ソニア
シュートシティ随一のショッピング街にある、洒落た内装のオープンカフェ。
うららかな天気の昼下がり、冷たいものでも飲みたいね~と立ち寄ったユウリとマリィは、そこで偶然見知った顔のお姉さんと出くわした。
「あら、ユウリにマリィじゃない」
「あ、ソニアさんだ! こんにちは~」
「こんにちは」
カーキ色のレンガ道と、カフェのオープン席の間に繁る観葉植物越しに、明るい挨拶が交わされる。パラソルの下でゆったりとくつろいでいたソニアは、色の薄いサングラスをくいとおでこに押し上げた。
「ふたりで買い物?」
「はい、夏向けの新作チェックです。ソニアさんは?」
「ダンデくんにフラれて、自棄カフェ中~」
「えっ」
ぎょっとしたようにマリィが声を上げる。それから慌ててきょろきょろとあたりを見回すが、幸い誰もこちらに気づいた様子はない。素直なマリィの挙動に、ソニアはくつくつとヒトの悪い笑みを浮かべた。
「あは、マリィかっわいい~。ね、ちょっとお姉さんとお茶してかない? 奢るよ」
「え、いいんですかぁ~? マリィ、そうしよ!」
「う、うん」
ユウリはマリィの手を引いて一旦店内を回り、正面から改めてテラス席へとやってきた。すかさず寄ってきた店員が、お冷と一緒にメニューを手渡す。
「え~なにがいいかなあ……あ、ソニアさんなに飲んでるの?」
「新作のミツハニーミルクティー。甘さがさっぱりしてて美味しいよ」
「あっわたしそれ飲む! マリィは?」
「おなじのでいいよ」
「ねえ、スイーツも食べない? ひとりじゃちょっとな~って諦めてたんだけど、このマホイップ・アフタヌーンケーキ、チャレンジしようよ」
「わぁい美味しそう! あ、じゃあこの、メタモンスコーンプレートも食べたいなぁ、味がシークレットっていうのが楽しそう~」
「相変わらずチャレンジャー気質ねえ……マリィは他に、なにが食べたい?」
「え、えーと……ウールーミルクプリン、食べたい」
「オッケー」
スマートに注文したソニアは、少女たちを見やってにこにことほほ笑む。普段、チャンピオン業やジムリーダーとしての仕事に追われる彼女たちが、夏の兆しの上天気に、楽しそうにショッピングする姿は見ていて気分がいいものだ。
そんなソニアの様子に、マリィがちょっと恥ずかしそうに瞬きをした。
「えと、ソニアさん、なんかご機嫌しゃん……?」
「んー? いやさあ、あんたたちが楽しそうでなによりだなーって」
「え、なんかそれ、親戚のおばちゃんみた……」
「ユウリぃ?」
「ごめしゃい」
ソニアの細い指が、ユウリのふっくらとしたほほに伸ばされる。それをつまみ上げる真似をする彼女に、ユウリは素直に謝って笑った。
「ったく……あんたたちも、大人になればわかるわよ。大人はねー、子供が無条件で楽しそうだと、なんか嬉しいもんなのよ」
そう言って、ソニアがニッと笑う。ユウリとマリィは思わず顔を合わせ、照れくさげに笑った。
「おかげさまで、楽しいです。最初は、色々不安だったけども……」
ユウリが言うと、マリィもこくんと頷いた。その時、注文した品物がテーブルに運ばれて、ちょっとしたティーパーティーのような華やかさが生まれる。ソニアはシェアできるものを手早く切り分けながら問うた。
「不安? ああ、チャンピオンとか、ジムリとして?」
「はい。でも、色々と大人のひとがサポートしてくれて、なんとかやってます。マリィもだよね?」
「うん。あたしは、アニキがいてくれるからまだマシだけどね」
「あぁ、ネズさんねぇ……いいなぁマリィは、あんな優しいお兄ちゃんがいて」
ホイップたっぷりのミルクレープを口に運びながら、ソニアがあながちお世辞でもない口調で呟く。マリィはあまり変わらない表情ながらもうっすらと嬉しそうに俯き、そんな彼女を見やってユウリがにこにこと笑った。
「ネズさん、超優しいよね、マリィには」
「マリィ限定か」
笑って突っ込むソニアに、ユウリもけたけたと笑う。マリィはわずかにほほを染めながら、けれど嬉しそうに言った。
「自慢のアニキやけん……」
「わかる! ネズさんみたいなお兄ちゃん、マジで欲しかった……てか、兄弟が欲しかったなあ」
「えぇ~、でもソニアさん、ホップがいるじゃないですかぁ」
不思議な味のするスコーンを頬張りながら、ユウリがのほほんと言う。ソニアは虚空に視線を飛ばして、ううん、と唸った。
「いやあ……ホップねぇ」
「あれ? なんか、聞いちゃいけない感じの反応だぁ……」
意外そうに目を丸くして、ユウリがわずかに不安げになる。日ごろから仲の良い姉弟のようなソニアとホップなので、ここでは素直に『そうね』と答えられると思っていたけれど、意外とセンシティブな話題だったろうか……
そんなユウリの様子に気づき、ソニアは慌てて細い手を振った。
「いやいや違う、ホップが最高の弟なのは間違いないよ。でもさ、あの子はやっぱ、『ダンデくんの弟』だからさぁ」
「え?」
「例えば、ダンデくんとわたしで意見が割れたとするじゃん。そうすると、大体ホップはダンデくんの味方するんだよね、昔から! も~、ダンデくんがいない間、誰が面倒見たと思ってるんだよぉ、って、悔しくなっちゃう」
冗談っぽく笑いながら、ソニアは短い眉を寄せる。ユウリとマリィは顔を見合わせて、それからくすくすと笑った。
「え、なに?」
少女たちの様子に、ソニアが怪訝そうになる。ユウリはほほ笑みながら悪戯っぽく言った。
「あのね、ソニアさん。それって、ホップにとって、ソニアさんが『甘えられる相手』だからだよ」
「は?」
「ホップって、誰かと誰かが対立してたら、とりあえず弱い方の味方になるの。弱い方っていうか、劣勢の方? 自分が後押ししなきゃ負けちゃう、っていう方の味方になるんだよねぇ」
ユウリの言葉に、ソニアがきょとんと目を丸くする。マリィも珍しく楽しそうに笑っていた。
「自分が味方した相手の方が間違ってたら、それをちゃんとフォローするまでがセットやけん。一対一じゃ拗れても、ホップが間に入ると不思議とまるく収まるんよね」
「ああ、確かにねえ……」
弟分の天性の人たらしスキルを思い浮かべて、ソニアは思わず苦笑する。真っ直ぐに人と向き合って、いつの間にかこころを開かせてしまう、あの呼吸は兄弟そろって神がかっている。
「そうそう。でもさ、やっぱり形の上で対立しちゃう相手っているでしょ? ダンデさんの味方をしたら、ソニアさんと対立しちゃう、みたいに。その相手に、嫌われたりしたらどうするの? って、一度聞いたことがあるんだ」
ユウリは言いながら、やわらかく瞳を細めた。その問いに、彼女の大切なライバルは、どこまでも真っ直ぐな金の瞳でこう言った。
「――話せばわかるから、信じて対立するんだぞ! って、自信たっぷりに言うの。自分が嫌われる可能性なんて、全っ然考えてない顔で。そういうところ、やっぱホップも末っ子だなあ~って思うんだよねぇ」
その言葉に、ソニアは思わず噴き出した。
「あははっ……確かに! あの子、しっかりしてるようでちゃんと末っ子だよねえ!」
「うん、そうそう。意外とちゃっかりしてるっていうか、乗っかるところは乗っかるでしょ?」
「わかるわ~」
笑いながら涙をぬぐうソニアに、ユウリはにこにこと頷く。
「特に、ソニアさんには甘えてるよね。でもそれを、自覚してないんじゃないかなあ?」
「ええ? そう?」
「うん。明らかに、甘えてますよぉ。だから、安心してダンデさんの味方になってるんだと思う。ソニアさんと対立しても、絶対に拗れないって思ってるんだよね」
太鼓判を押すようなユウリの言葉に、ソニアは若干面映ゆくなる。
生まれた時から傍で見てきた少年は、身体もこころも随分成長したけれど、それでもいつまでも、ソニアの可愛い『弟』だ。血のつながりはないけれど、それよりも強い絆で結ばれていると思っている。
だからこそ、ダンデの味方ばかりすることに、ほんの少し寂しさを感じていた。やっぱり、本当のお兄ちゃんを選ぶんだ……なんて、拗ねたこともあった。
でも、ユウリの話を聞いて、かすかな胸の痛みがほろほろと消えてなくなった。あの子が安心して甘えられる相手になれていたのなら、それより嬉しいことはない。
ソニアはやわらかく苦笑して、改めて少女たちに礼を言う。
「ありがとね、ユウリ、マリィ。なんか、いい話聞いたわ」
「どういたしまして。でも、それはそれで、妬けちゃうんですけどぉ」
赤い顔をしてぽちょりと呟くユウリに、傍らのマリィがにまにまと笑っている。妹分のボヤキを拾って、ソニアは苦笑した。
「それこそ、妬く相手を間違えてるわよ。アネキに嫉妬するのは労力の無駄!」
「うぅ~、わかってますけどぉ」
「ユウリにとってソニアさんは、永遠の憧れ、やけんねぇ」
「あっマリィ!」
ぺろりと暴露したマリィに、ユウリが赤い顔で叫ぶ。ソニアはぱちくりと目を丸くすると、慌てるユウリをまじまじ見つめた。
「え、そうなの? わたしに憧れてる?」
「うぅ~、本人が念押しとか、どんな羞恥プレイ……」
真っ赤になって項垂れるユウリに、つられてほほを染めたソニアが嬉しげに笑った。
「あら~、光栄だわ~! 嬉しい、ありがとうユウリ」
「うう、いや、もぉ……え、ソニアさん、お世辞じゃないですからね? マジですから」
「うえ、そうか、うん……いや、照れる」
「うふふ……そうです照れてくださいね」
真っ赤になったまま、ユウリが嬉しそうにくふくふ笑う。ソニアも赤くなりながら笑うと、そんな二人を見やって、マリィが心底羨ましそうに呟いた。
「いいなぁ~……ふたりとも、両思いやん」
「あは。マリィも好きだよ?」
「でも、マリィは仲間に入れんけん……」
「え? なんで?」
きょとんとしてユウリが問うと、マリィはむくれたようにくちびるをちいさく尖らせた。
「だって、ふたりはそのうち本当の『姉妹』になれるやん。マリィはなれんもん」
「え……」
その言葉に、ソニアとユウリがパチリと目を丸くする。それから、ユウリは喉元から這い上るようにさらに真っ赤に染まり、ソニアは猫のように光るエメラルドグリーンの瞳を楽しげに煌めかせた。
「ああ、なるほど! 確かに、ユウリとホップが結婚すれば、正真正銘の姉妹になれるわね」
「そっ、そにあさんっ」
「あたしも仲良しの姉妹が欲しかったなぁ」
「ま、まりぃっ」
「ネズさんが連れてくるひとが素敵なひとなら、夢は叶うんじゃない?」
「アニキの女の趣味かぁ……あんま、よくわからんけど、望みは薄そうったいね……」
わたわたとしているユウリをそっちのけで、ソニアとマリィが会話を続ける。すると、マリィがパッと顔を輝かせてユウリに詰め寄った。
「ユウリ、ホップやなくて、アニキと結婚せん?」
「えっ!?」
ぎょっとしたように目を丸くするユウリに、マリィは案外真剣な様子で言い募る。
「ああ見えて、アニキは優良物件だよ。優しいし、見た目の割に真面目やし、バトルは強いし……」
「あら、待ってよマリィ。ホップだって優良物件だよ。優しいし、気さくだし、気遣いできるし、ダンデくんの分までデリカシーもある!」
「アニキは歌も上手いったい!」
「ホップはウールーの毛刈りがプロ級だよ!」
ソニアとマリィは顔を見合わせ、同時にこくんと頷いた。そのまま、硬直しているユウリの方へ身を乗り出す。
「ユウリ、どっちを選ぶ?」
「どっちを選んでも、恨みっこナシやけんね」
「わたしと仲良し姉妹になりたいよね?」
「あたしやんね? ユウリ!」
「う、え、うぇ~~~~~っ」
冗談では済まされない雰囲気に、ユウリは目を白黒させながら天を仰いだ。