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#64.確かめる【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
2026/09/17 17:26【お題】ダンデ×ソニア
これはなかなか手がかかるな……と思った時、ソニアが必ず手配するもの。
まさに、彼女の懐刀ともいえる最終兵器は、よく晴れた土曜の朝に現れた。
「おじゃましまーす!」
「いらっしゃーい労働力! 待ってたわイキのいい働き手!」
声をそろえたホップとユウリに、ソニアが手を広げて歓迎する。足元では、弾丸のように飛び出したワンパチが嬉しそうにくるくると回りながら二人に駆け寄っていた。
「ソニア、本音が駄々洩れだぞ」
「あは~、ソニアさんの率直なホンネ、いっそ清々しいなぁ~」
笑いながら、ユウリがワンパチを抱き上げる。久々のユウリに大興奮のかれがパチパチと弾けるのも構わずに、ユウリは改めて正面玄関の豪奢な空間を眺めた。
「ほぇ~……それにしても、すっごいですね!」
「ホントにすごいな! さすがアニキ、やることがでかいぜ!」
「いやいや、でかすぎてあの人今日も迷子だよ……まあ、そのうち誰かが連れ戻してくれるからいいけどさ」
「誰かって?」
きょとんとしたホップに、ソニアはにやりと笑った。
「それが、今日きみたちを招いた理由だよ、助手クン。さて、玄関先ではなんだから、どうぞ入って」
ソニアが先導して回廊を歩く。ワンパチはユウリの腕の中で満足そうにわふわふと笑い、ホップとユウリは物珍しそうに貴族風と現代風が融合した邸宅を見回していた。
「ここ、わたしのお気に入りなんだ」
そういってソニアが通してくれたのは、広々としたリビング。分厚いラグが敷かれた部屋の中央に、囲むようにおおきなソファが三面に置かれ、たくさんのクッションが積まれている。正面の壁には暖炉があり、アール・デコ風の仕切りのある続き間にも居心地の良さそうな空間があった。
「わあ~、素敵! 色合いがとってもきれい~」
「でしょ~! こういう、アースカラーのお部屋に差し色のビビッドを配色するの、おしゃれっぽくて憧れてたんだよね~」
うきうきとインテリアを紹介するソニアについて回るユウリ。ホップはそれほど興味がなかったので、先んじてソファに座ろうと腰を下ろしかけ……
「うわっ、ブラッキー!?」
クッションだと思っていた黒い塊が、のそりと起き上がってホップを睨む。それからプイと顔を背けて部屋を出ていった。
「ああ、ごめんごめん。あのここの辺で昼寝するの好きなのよ。あとでおやつあげてご機嫌とるわ」
「ブラッキー、手持ちにしたんですか?」
「ううん、リーグから派遣されてるお屋敷ポケモン。主に、屋敷警備を担当してくれてるの」
ソニアがユウリに答えていると、リビングの入り口からカラカラとカートの音が聞こえてきた。見ると、水色のエプロンをつけたオスのイエッサンがお茶の用意を乗せたカートを引いてやってくる。
「あ! やだ、きみは今日お休みでしょ? いいんだよ、そんなことしなくて」
「きゅあ」
ソニアの言葉に、イエッサンは頑固な様子で首を振る。それから、ぺこりと一礼して部屋を出ていった。
ソニアは苦笑して、きちんと用意されたお茶のセットに手を伸ばす。
「まったく……あのこのあるじに似て、真面目で頑固なんだよね。すごく助かってるんだけどさ」
「いまのイエッサンは?」
「あのこは、執事の手持ち。平日のお屋敷を管理してくれてるんだけど、休みの日もなんだかんだ働きたがって困ってるんだよねえ。まあ、趣味みたいなものだろうし、取り上げるとかえって悲しそうだから仕方ないか……」
苦笑しながらソニアが供してくれた紅茶と、お茶請けの焼き菓子を乗せた皿がテーブルに並ぶ。ユウリはホップの傍らに座り、ソニアはその対面のひとり掛けのソファに腰を下ろした。
「それにしても……ホントに、突然引っ越したな、ソニア」
ホップがフィナンシェに手を伸ばしながら言う。ソニアは紅茶のカップを摘まんで困ったように短い眉を寄せた。
「それはあんたのアニキに言ってよね。わたしだって、まさかこんなに急に引っ越しするとは思ってなかったんだから」
「でも、そんなに急いで決めたお屋敷にしては、なにもかも整ってますよねぇ。インテリアのセンスもソニアさん好みだし、なによりここって、『ポケモン屋敷』なんでしょう?」
ユウリの言葉に、ソニアは苦笑いをする。
「そう、その通り。つまり……まあ、引っ越しはバタバタでも、手回しは綿密だったわけ。ダンデくんらしいでしょ?」
「さすがですねえ、ダンデさん。わたし、噂で聞いたんですけども、このお屋敷が落札されたのって一年以上前らしいですよ」
「一年!?」
さすがにぎょっとしたソニアが、音を立ててカップをソーサーに戻す。ユウリはのほほんと笑いながら紅茶を傾けた。
「ちょうど、ダンデさんがタワーオーナーに就任するちょっと前ですね。タワーの改装にも巨額を投じたのに、このお屋敷も即決で買ったって、当時ちょっとした話題になったそうです」
「ああ~、アニキ、でかい買い物する時は一気に、みたいなところあるもんな。実家の牧場を広げる時も、ついでに家も建て替えようって張り切って、母ちゃんに怒られてたっけ」
のんきに言うホップに、ソニアは眩暈を感じたように額を押さえて天を仰いだ。
「はぁ~……どういうこと、その時わたし、まだ恋人ですらなくない?」
「もしくは、なりたてほやほやですね」
「それでなんで、家を買うかなぁ!?」
思わずおおきな声を出したソニアは、照れ隠しがバレバレの赤い顔色をしている。ユウリはふくふくと楽しげに笑い、ホップは呆れたように苦笑した。
「まあ、どのみち必要だったんだし。そのおかげで、すぐに入居できるくらい整ってたわけだろ?」
「そうですよぉ。このお屋敷、外観やメインのデザインはすごく重厚な貴族邸っぽいのに、居住空間はちゃんと現代風に整ってて、とっても住み心地よさそう~。きっとダンデさん、せっせとソニアさんのために頑張ったんでしょうね」
ユウリの言葉に、ソニアはますます恥ずかしげに唸る。それから、パッと切り替えるように手を打った。
「まあ、それはいいとして! 今日きみたちに来てもらったのはね、この『ポケモン屋敷』にいるポケモンの数と種類を確かめてほしかったの」
「へ?」
きょとん、とする。ホップとユウリの様子に、ソニアはわりと真面目な顔を向けた。
「いや、本当はわたしひとりでやるつもりだったんだけど、効率が悪くてさ……というのも、屋敷の中は比較的少ないんだけど、屋敷外の敷地にいるポケモンがもう、管理しきれなくて!」
「管理するのか?」
「ていうか、後々詳しく生態や習慣を調査して、ワイルドエリアの野生ポケモンや人と一緒に暮らすポケモンとどんなふうに違うのか、その行動学を研究したいと思ってて」
「おぉ! 面白そうだな、乗った!」
途端にやる気を見せるホップに、ソニアはふふん、と小鼻を膨らませる。
「そう言うと思った! すでに、あまり類を見ない行動を見せてるこもいるの。たとえば、花壇の方に自然群棲してるワタシラガなんだけど、通常は種を風に乗せて飛ばすじゃない? でも、ここのこたちは任意で種を庭木に注入して、管理してるのよ」
「えっ、それは誰かに教えられて?」
「ううん、少なくとも、庭師は指示してないって。そもそも、手持ちのこじゃないから、人間の言うことを聞く様子でもないし……でも、秩序を持って、まるで自分たちのルールみたいに草木を管理してるの」
「へえ……あんまり聞いたことがない行動だな。手持ちのワタシラガに教え込んで仕事をさせるって話は聞くけど、野生のワタシラガが人間の作った庭木を管理するなんて……」
「そう。自然の草木を育てるのともわけが違うのよ。庭は人間の設計で草花が植えられてて、生育条件の難しいものもある。ワタシラガは、それらを自分たちで理解して育てているみたいな行動を……」
熱の入ったソニアとホップが話し込み始める。ユウリはのんびりとそれを見やりながら、再び物珍しそうにリビングを眺めていた。
それにしても、ほんとうに素敵な屋敷だ。ふんだんな日光、過不足なく配置された植物、豪奢だけれど華美ではないセンスのインテリア、よく磨かれた床や窓……ん?
「ソニアさん、庭にいるの、ダンデさんじゃないですか?」
「え?」
その言葉に、ソニアがパッと顔を上げる。おおきな掃き出し窓のむこう、陽の光を浴びた芝生の先に、朝食の時と同じ白いTシャツにグレーのジョガーパンツ姿のダンデが、モグリューの後に続いてやってくるのが見えた。
「あら、今日はモグリューに案内してもらってる……って、なんであんな泥だらけなの?」
こちらに向かうダンデの白いシャツが、ところどころ土で汚れている。見ると全身そんな状態で、ソニアは不思議そうに小首を傾げながら近づいてきたダンデに手を振った。
「おーい、ダンデくん!」
玄関の方へ向かおうとしていた彼は、ソニアの声にパッと視線を向ける。それから嬉しげに手を上げて、傍らのモグリューに声をかけると、かれと一緒に掃き出し窓へと向かってきた。
「よお、ホップにユウリくん、いらっしゃい!」
「って、アニキ、なにがあったんだ? ものすごく汚れてるぞ」
窓の外に立つ兄の散々な様子に、ホップが眉を寄せる。ダンデは悪びれずに答えた。
「ああ、ちょっと迷ってるうちに、うっかりモグリューの縄張りに入ったらしくてな。穴に落っこちた」
「え、また穴掘ってたの!? ちょっとモグリュー、あんまり庭を弄るとまたロズレイドにキレられるよ?」
ソニアの言葉に、モグリューは聞いているのかいないのか、のんきな様子で顔を向けている。ダンデがからりと笑った。
「だいじょうぶだぜ、かれらの縄張り争いは日々変化してる。今日モグリューが掘っていた穴は、おそらく新たな庭木を植えるための用地で、かれは正当な仕事をしていたと思うぜ」
「はぁ~……それならいいけど。あ、だったら報酬だね」
「うん、頼むぜソニア。オレはこのまま家に入ったら、多分チラーミィに恨まれるから、トレーニング棟のシャワーを浴びてくる」
「そうだね、イエッサンたちもめっちゃ怒ると思うよ……あ、また迷子になると悪いから、ワンパチ、ダンデくんについてったげて!」
「イヌヌワっ」
張り切って飛び出したワンパチに先導されて、ダンデが笑いながら歩き出す。ソニアはテーブルの上にあった密閉容器に手を伸ばすと、そこからポケモン用の焼き菓子を取り出して、期待するような眼差しのモグリューに差し出した。
「はい、モグリュー。ダンデくんを案内してくれてありがとうね」
「りゅうう」
嬉しそうに鳴いて、モグリューが器用にそれを受け取る。かれはそのまままた庭の方へぽてぽてと戻っていき、一連の様子を見ていたホップとユウリがぱちくりと目を丸くしていた。
「ソニアさん、いまのモグリューも、野生ですか?」
「うん。野生っていうか……あの子はほとんどうちの庭で暮らしてるよ。日替わりで遊びに来る子と、庭に住んでる子とがいて、いまのところ常駐組はモグリューとワタシラガ、ロズレイドが確認できてる。あと多分、キレイハナもいるんだけど、あのこは結構行動半径が広くて、わたしだけじゃ観測しきれてなくて……だから、あんたたちにも手伝ってもらって、ざっとの種族や個体数を確かめたいと思ってさ」
ソニアの言葉に、ホップとユウリが楽しげに顔を見合わせる。
「なんか、ものすごく楽しいな、この屋敷!」
「うんうん、ポケモンに囲まれるなんて、まさに夢のような暮らしだよ~」
根っからポケモン好きな年下たちの様子に、ソニアも嬉しそうに破顔した。
「でしょ? 好きなだけ遊びに来て、なんならいつでも泊まってってイイんだよ~。ホップ、もうアカデミアの寮を引き払ってここで暮らす? ユウリだって、こっからシュートに通えるでしょ」
部屋数はめっちゃあるしさ~、と楽しげに笑うソニアに、ホップとユウリは呆れたように笑った。
「いやいや、なに言ってんだよソニア! いくらなんでも、新婚ほやほやみたいな状態のところに転がり込めるわけないぞ!」
「そうですよぉ、馬に蹴られちゃいます」
「え、や、――そんなの気にしないでいいの!」
怒ったように叫ぶソニアは、やっぱり真っ赤である。ホップとユウリは顔を見合わせて笑い合い、朗らかなその声は土曜の朝の空気に楽しげに溶けていった。
