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#48.忘れる【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
2026/08/16 15:35【お題】ダンデ×ソニア
*#23.弄ぶの直後のお話
酔いつぶれてしまったソニアを背負って、ダンデは契約しているアーマーガア・タクシーを手配した。さすがに正体のないソニアを抱えてリザードンでの飛行は不可能だし、流しのタクシーに乗せるわけにもいかない。元チャンピオンが深夜のお持ち帰り……なんて、パパラッチにでも撮られたら面倒だ。
「……いや、それくらいした方が、お灸になるかな……」
さすがのダンデも薄暗い思考になる。背中に負ぶさるソニアは、完全に力を抜いてダンデにしなだれかかっている。やわらかい身体をこすりつけて、時折くふくふとご機嫌に唸りながら、手遊びのようにダンデの鎖骨や肩を撫でてくる様子に、キバナたちは面白がっているような視線を向けてきた。
「あ~あ、完全に撃沈したな、ソニアちゃん……ま、こっからオマエのマンションまですぐだし、ロータリーじゃなくて屋上に真っ直ぐ飛ぶんだろ?」
「ああ」
ペントハウスの広い屋上には、アーマーガア・タクシーの離着陸に必要な広さは十分にある。ダンデが頷いた時、店のスタッフが彼を呼びにきた。
「オーナーダンデ、タクシーが来ました」
「ありがとう。じゃあ、オレたちはこれで失礼するぜ」
ちらりと視線をやると、飄々とした様子でグラスを傾けながらぞんざいに手を上げるネズと、三十分の仮眠の後スッキリと目を覚ましたルリナが、わずかにばつが悪そうに見送っている。一番近い席からこちらを振り仰いでいたキバナが、カラッと邪気のない様子で言った。
「地道に経験値上げて、無事に進化できることを祈ってるぜ~」
「……」
完全に楽しんでいる悪友に、ダンデは無言で踵を返す。いろいろと相談に乗ってくれているのは感謝するが、結局は娯楽の一環でしかない気楽さを見せるキバナやネズに、いつか見てろよ、と暗い復讐心が生まれる。
ソニアを背負いながら、馴染みのバーのカウンター奥へ向かう。会員制のそこは、一般客の目を気にする客のために、目立たないルートの出入り口が設置されていた。ダンデはスタッフについてそこを通り抜けると、屋外に待機していた馴染みのタクシー運転手に声をかける。
「やあ、こんな時間にすみません」
「いえいえ、いつでもご用命ください。私たちの仕事ですからね」
にっこりとほほ笑んで、いぶし銀のような渋さのあるダンディな運転手が客車の扉を開いた。ダンデはそこに乗り込みながら、案内のスタッフにチップを手渡す。
「気遣いありがとう。また寄らせてもらうぜ」
「ありがとうございます。是非お待ちしています」
爽やかに礼をして去って行くスタッフと、慣れた手つきで客車を閉める運転手。自分の傍らに座らせたソニアが、ふにゃんとやわらかくこちらに倒れこむのを支えながら、ダンデはふう、と息をついた。
「上昇しますよ」
運転席から届く声とともに、客車はふわりと重力から解き放たれる。アーマーガアは滑らかに浮上し、そのままおおきく羽ばたいた。ほとんど揺れのない巧みな技術で上昇すると、そのままシュートシティの眩い夜景の中を進む。
ダンデの住まうペントハウスまでは、緩やかな滑空速度でも五分ほどで到着した。慣れた様子で屋上に着陸したタクシーから降りたダンデは、ソニアを横抱きにしながら運転手を振り返る。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。おやすみなさい、オーナーダンデ」
「ぐわあ」
珍しく、アーマーガアが挨拶をするように鳴く。すっかり顔なじみになったかれに向って、ダンデは優しくほほ笑んだ。
「ああ、きみもお疲れさま。ゆっくり休んでくれよ」
「ぐあ」
アーマーガアが再び鳴くと、運転手は颯爽と運転席に乗り込んだ。そのまま上昇し、軽く手を上げて夜空に飛び去って行く。
それを見送ったダンデは、腕の中ですうすうと寝息を立てるソニアを見やった。真っ赤に熟れたような顔色は少し落ち着いて、安心しきったように寝入っている彼女は、幼い頃と同じ寝顔をしている。
その顔を見てしまえば、どんな面倒ごとや理不尽にも耐えられてしまう。ダンデはつくづく惚れた弱みを思い知りながら、そっと歩き出した。
おおきなガラスの窓に向かうと、網膜認証で鍵を開く。ソニアを抱えながら器用に扉を開けて、するりと室内に入った。そのままリビングへと向かい、ソファの上にソニアを下ろして横たえらせると、ふう、と息をつく。
無防備な様子で寝入るソニアを見下ろしていると、なんとも言いがたい気持ちが湧き上がった。むずむずとするそれを振り払うように、ダンデは腰に提げていたボールホルダーを取り外し、ポケモンルームへと向かう。
一つ一つ丁寧に状態を確認しながら、レストレーション・ベイにボールを収納すると、さて、と呟いた。
「……オレも寝るか」
バーで軽く食事をとったし、酒も何杯か飲んでいるが、ソニアの様子が気がかりで、あまりゆっくりはできなかった。妙な気疲れも感じているし、さっさと就寝してしまうのが一番いい。
その前に、ソニアをどうすべきか。
難しげに眉を寄せて、ダンデはポケモンルームからリビングへと向かう。未だかつて、この家にソニアを泊めたことは一度もない。バードキス、ディープキス、軽いおさわりアリのキス、までは進展しているが、現状はプライマリースクールでも表彰されるほどの清らかな関係だ。
今日は流れでお持ち帰りしてしまったが、だからといって不埒な真似をするつもりはみじんもない。したくないわけではなく、出来ないとわかっている。なにせ相手は酔っ払いで、そうでなくともふたりにとっての大事な大事なはじめの一歩を、こんなふうになし崩しの状況で迎えたいわけではない。
オレはガラル紳士、ガラル紳士……と無意識に呟きながら、ダンデがリビングに戻ってくると、ソファの上にちょこんと座るソニアと目が合った。
「ソ、ソニア」
目が覚めたのか、と思った瞬間、意味もなく狼狽してしまう。なにも後ろめたいことなどありはしないのに、こんな夜中に同意なく自宅へ連れ込んだ事実を妙に意識してしまって、ダンデは早口になった。
「起きたのか。きみ、バーで酔いつぶれたんだぜ。覚えているか?」
「ンん……」
眠そうに唸って、ソニアが目をこする。その覚束ない様子に何故だかほっとしたダンデは、気を取り直して彼女へと近付いた。
「水でも飲むか? 気持ち悪いとかはない?」
「ん……ダイジョブ……」
ぽやんとした顔でこちらを振り仰ぐソニアは、いつもよりもだいぶ幼い。表情が無防備になっていて、ダンデをダンデと認識しているのかすら怪しい口調で言った。
「……ここ、どこぉ……?」
「オレの家だぜ。ソニア、だいじょうぶか?」
「ん……おばあさまはぁ?」
「……博士はブラッシータウンだ。いまごろはもう寝てるぜ。ソニア、本当に……」
「ンぇ……ソニアもブラッシーに帰るぅ……」
「あぁ……」
まだ絶賛酔っ払い中だ。幼児退行しているようなソニアの様子に、ダンデは呻くように額を押さえた。
泥酔したソニアを見たのは、これで三回目くらいだ。そもそも酒に強いソニアは、滅多なことでは酔い潰れないが、一、二年に一度くらい、異常に酒に呑まれることがある。
仕事に行き詰まったり、強いプレッシャーを感じていたり、その時々のコンディションで正体を無くす彼女は、泣き上戸だったり笑い上戸だったり、感情の振れ幅が異常に広くなる。いつもこころに秘めているものを素直に表に出してデトックスすると、翌朝にはけろりと忘れてしまうのが常だ。
だから今日も、きっと気のすむように暴れてしまえば、明日の朝には何事もなく『ソニア』に戻るのだろう。どこか意地っ張りな、素直じゃない恋人の酒癖を思って、ダンデは俯いていた額からそっと手を離し、子供のような顔をしているソニアにほほ笑みかけた。
「ソニアは今日は、ここにお泊りだぜ」
「ここ……どこぉ?」
「オレのうち。オレは誰?」
「ンん……ダンデ、くん?」
「正解だ。オレと一緒にお泊りだ、ソニア。いいだろ?」
子供相手にするように、やわらかな口調でそう言うと、ソニアはぽやんとした眼差しでダンデを見上げて、フフッとほほ笑んだ。その笑い方は、子供というよりはむしろ、いつものソニアの甘えた顔のままだった。
「いいよぉ。ダンデくん……きみとお泊りする、したい」
「……ソニア?」
「はぁい?」
「……いや、いい。だいぶ酔ってるからな、今日はこのまま寝た方がいい。ゲストルームを使ってくれ。着替えは貸すから……」
「えぇ、ダンデくんといっしょがいい」
「……」
ぷぅ、とほほを膨らませて、甘えた声で言ってくる。ダンデはまじまじとソニアを見つめて、ごくりと喉を鳴らした。酔っぱらいの戯言に反応するなんて、オレもちょっと酔っているのか? 自問自答しながら、じわじわと彼女へ近づく。
ソファに座ってこちらを見上げていたソニアの傍らに、そっと跪いた。視線の高さが合うと、ソニアは潤んだように揺れるエメラルドの瞳を猫のように細めて、くふふっと笑った。
「ダンデくんと、お泊りだぁ。嬉しい」
「……ソニア、オレと寝たいのか?」
「うん。キャンプみたいだねェ」
「……」
この幼さは、酔っぱらいだからか。他意はなく、昔のように甘えてくる、それはそれで嬉しいシチュエーションだが……なんとなく、がっかりしてしまう。素直に肩を落としたダンデが苦笑した。
「そっか、キャンプか。だが、オレと一緒に眠ったら、きっときみは明日の朝びっくりするぜ」
「なぁんで?」
「きみはまだ、オレと一緒に寝る段階じゃないからな」
「だんかい?」
「……バードキス、ディープキス、軽いおさわりアリのキス、……の、次をしてからだ」
子供に聞かせるには、ナマナマしい戯言。ダンデは自分の自制心もそろそろ怪しくなっているな、とどこかで自覚しながらも、目の前でふわふわとしているソニアから目が離せない。
ダンデの強い金の眼差しの先で、ソニアはこてんと小首を傾げた。
「次って、なぁに?」
「……」
その無邪気な問いに、ダンデはぐっと喉を鳴らす。
――どうするよ、彼女が本気で、現状が最高到達点だと思ってるとしたら
不意に、先ほど交わしたキバナとのバカバカしい会話を思い出した。
なにも本気で、ソニアに性知識がないとは思っていない。けれど、恋人同士が踏んでいくステップと、『自分たち』の関係とを、直結して考えているかは怪しいものだ、と思っていた。
頭でっかちで知識先行のソニアは、いつか訪れるオレたちの変化を、どこまで想像して、どこまで覚悟しているのだろう。
ふとした疑問が沸き上がり、雪だるま式に膨れ上がった。アルコールの影響を言い訳に、ダンデはギシリと音を立ててソファに手をつく。
両側から彼女を囲うようにしながら、両ひざをついて伸び上がった。目前に迫ったダンデの真剣な表情に、ソニアがぽかんと目をまるくする。
彼女の瞳に映る自分の、余裕のない表情を覗き込むように言った。
「……『次』が気になるなら、試してみようか?」
「え?」
「本当に、一足、二足、三足飛びしてみるか、ソニア?」
「……三足、飛び?」
「ヒトカゲ、リザード、リザードン。いまオレたちは、リザードになりかけのヒトカゲってとこだ」
言いながら、ダンデの右手がそっと上がり、薄桃に染まったソニアのほほを滑る。ふっくらとやわらかく、しっとりと暖かなそこを包み込むと、ソニアは心地よさそうに瞳を細めた。
「リザードになりかけのヒトカゲぇ……? うふふ、なんか中途半端……」
「……そうだな。ちょっと、不格好かもな」
「うん、ふふ……ヒトカゲだって、早くリザードになりたいよね?」
「ソニアもそう思う?」
「うん、おも……う……」
頷く彼女の顎をすくい上げて、ダンデはそっとくちびるを塞いだ。ただ重ねるだけのバードキス。ソニアはうっとりと目をつぶり、そのやわらかさを歓迎する。
触れるだけの熱をそっと離し、ダンデは真剣な眼差しで彼女を観察した。うっとりと蕩けるような表情を確認してから、再びくちびるを寄せる。
「……ん……」
ぬるり、と舌先を滑らせると、ソニアは抵抗なく口を開いた。いつもは恥ずかしがって逃げていく彼女の舌が、濃いアルコールの味をまとってダンデにすり寄る。ダンデは脳みそを直接殴られているような衝撃に耐えながら、快感の兆しを見せる口内に集中した。
「ン、ふっ……んん、ぁっ……」
無意識にか、ソニアの細い声が漏れる。小さな水音に混じって響くその甘い声色は、ダンデの理性を砂糖のように溶かしていった。
ソファについていた手を上げて、ソニアの腕を掴む。細くて滑らかな肌を這いあがり、肩にかかる黄昏の髪を指に絡めると、ソニアの手がそっとそれに寄り添ってきた。
指を絡ませ合うと、舌の動きに反応してそこがぴくぴくと震える。ダンデはソニアの顎を包んでいた手をゆっくりと滑らせて、その細い首、鎖骨の線へと指を流した。
わずかに汗ばんだようなソニアの肌がピクリと震える。ダンデはくちびるを動かしながら、その指をゆるやかに下降させた。
「……ソニア」
ぷちゅりと音を立ててくちびるを離し、濡れたそこに囁くように名を呼ぶ。最終確認のような、想いが溢れたような、震える声色のダンデは、その時ようやく気が付いた。
「……」
ソニアの、穏やかな寝息。
満足そうにくちびるを濡らし、ダンデの熱に安堵するように、長い睫毛を閉じている。
ダンデは、その寝顔を見つめながら、静かに、ゆっくりと彼女から手を離した。
「……」
ギリっと音を立てて奥歯を噛みしめる。先ほどまで天国のようだった手のひらが、恐ろしく冷たい汗を滲ませた。
――こんな仕打ちも、明日になったらソニアは忘れているのだろう。
憎いような、責めるような思考になって、ダンデは情けなくため息をついた。
……ソニアには、しばらくの間禁酒をさせる。
理不尽なフラストレーションをぶつけるように、ダンデは心ひそかに決意した。
