challenge

12.significant other 大切な人

2025/10/09 08:44
【お題】ダンデ×ソニア


 深夜の病棟。どこかで誰かが動いている、そんな雑多な気配を感じながら、特別室の中は静かだった。
 おおきなベッド、豪奢なカウチ、簡易なキッチンブースに、バス、トイレまで備えてある。常に正常な空気を排出する清浄器、十分な容量の冷蔵庫、電子レンジや保温ポットまで完備された上、薄く巨大なテレビには、有料チャンネルがほぼ網羅されていた。まるで高級なホテルか、こだわって整えられた個人の寛ぎの空間のようだ。
 けれど、この部屋の中央にあるベッドの上では、頭や手足に白い包帯を施され、点滴を受けて眠る患者がいる。現状、部屋の利便性も寛ぎやすさも功を奏してはいない。
 表面上の傷は軽微で、一番懸念されていた頭の検査も事なきを得ていた。ダンデがこの病室に運び込まれてようやく一昼夜たち、経過観察をした医師からも、予後のお墨付きをもらったのが午後のこと。彼を心配して集まった家族や友人はほっと安堵の息をつき、それからようやく緊張を解いていた。
 特に打ちひしがれていたのはダンデの母親で、取るものも取りあえずハロンタウンから駆け付けた彼女は、息子の回復の目途が立ったと同時に反動で倒れ込んだ。ずっと彼女を支えていたソニアは、テキパキとその世話をし、高齢の祖父母にはホップから無事の連絡をさせ、身内の対応を一手に引き受けた。
 そして、ロンド・ロゼに引き取った母親の世話をホップに任せて、ソニアはひとり、深夜の病室に控えている。
 ダンデの母が、息子の危機にあれほど憔悴した理由を、ソニアには痛いほど理解できた。兄弟の父親、そして彼女の夫を亡くした日を、鮮烈に思い出したのだろう。大切なひとを喪った傷は、癒えることも消えることもなく、ただずっと、こころの裡に眠り、いつだって新鮮な血を流す。
 そしてそれは、ソニアも同じだった。
 ポケモントレーナーは、九時五時で働く一般的な職業よりも、ずっと危険に近い。そんなことは、誰よりもわかっているはずだった。自分だって、研究の名のもとにずいぶんと無茶をしている。
 けれど、今回のようにはっきりと、現実の厳しさを実感したことはなかった。
 ベッドに眠る幼馴染の、薬が効いて安らいだ寝顔を見つめて、ソニアは呟く。
「……死なないで、ダンデくん」
 少なくとも、自分より先には。
 そんな我儘を、ただの幼馴染が言えるはずもなく。
 ただひたすらソニアは、改めて自分の中に芽吹いた喪失の恐怖と戦うように、ぎゅっと拳を握り締めて震えた。


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