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#47.見つける【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
2026/08/14 17:05【お題】ダンデ×ソニア
ガラルポケモンリーグには、トップランカーに対する様々なサービス、福利厚生、管理業務が存在する。
チャンピオンを頂点とするメジャーリーグランカーには、その生活をサポートするスタッフが用意され、希望があればジム運営の専門家も常駐できる。ジムスタッフの中には、ジムリーダーが個人的に雇い入れた実力派のトレーナーの他に、リーグから派遣された専門家が職務に当たるのが通常の形態だった。
その中でも、チャンピオンを担当するレジデンススタッフの質は高く、ガラルの特権階級対応の中でも最も厳しい資格制度を経て厳選される。
身元の確認、犯罪歴照会、過去の雇用先への調査、複数の権威ある紹介状。これらの最低限の身辺調査を経て、最高峰の守秘義務契約、接客・礼儀作法レベル、緊急時対応力、基本的な医療知識、ポケモントレーナーとしての力量、セキュリティ能力、そしてハウスキープスキルを厳しく審査され、選ばれた者だけがスタッフとして従事することができる。
そんな狭き門を潜り抜け、七年前からチャンピオンダンデのレジデンスリーダーを任されているのが、この私だ。
基本的に、月、水、金曜日が実務日で、その他はリーグ秘書室に籍を置く。この雇用形態は、事務仕事ばかりでは息が詰まってしまう私の性に大変合っている。
そも、この仕事に就こうと思ったのは、七年半前。大学を出てからあらゆる地方を巡り、様々な知見を得た私は、己に合った職業、能力を確かめるべく、故郷に戻って最難関といわれる職種を調べていた。そしてたどり着いたのが、ポケモンリーグに属するトップランカーのレジデンススタッフ業、中でもチャンピオンの生活を補佐する業務だ。
平たく言えば『家令・家政婦』であるが、この職はなかなかに意義深い。
基本的に、我々は家主であるオーナーダンデとの接触はない。家主が不在の間に家を管理し、すべてを整えるのが仕事である。報告や要望はリーグを通じて行い、個人的な接点は一切持たず、『私生活に入り込んでいるもの』という印象を徹底的に払拭する。
それでいて、家主の環境レベルを常に最高級にキープし、一切の雑事に煩わされることのないように努める。そのプロフェッショナルな理念を、私は気に入っている。
そうして今日も、相棒のイエッサンを二体従えて、オーナーダンデの住まいに出勤した。
まずは、通常の確認作業。清掃の必要な箇所を目視点検し、モバイルに記録していく。なにをどう動かし、どう整え、補充するのかを逐一控えて、万が一にも不備のないように徹底する。この作業が、ひそかに一番心躍る。乱れているものを整え、過不足なく満たすことに、心から充足感を得られる性質なのだ。
クリーニングに出す衣類、リネン類をチェック。修理の必要なものはないか、ありとあらゆる機器の作動確認、荷物の受け取りや郵便物の有無をチェック。
細々としたルーティンをこなして、イエッサンに作業を伝える。実働部隊であるかれらはてきぱきと働き、家の中を縦横に動いた。
その間、私は最重要と位置づけられるポケモンルームへと向かう。
基本的に、バトルパーティーとして常にオーナーに随従する手持ちの他に、十数体の控えポケモンがボールに収まっている。多くはバトルタワーのレンタルポケモンとして活躍したり、ポケジョブに登録して特性を生かした活動に従事しているが、この家でボールに入ってオーナーの帰りを待つ個体も多い。
かれらの管理も、私の重要な任務のうちだ。
ポケモンの状態を適正に保つレストレーション・ベイが、広い室内の壁際に並んでいる。ドッグの中に収まっているボールの数と、リーグで管理している数とを照らし合わせ、モニタリング・パネルを確認。それぞれのポケモンの状態を細かくチェックし、モバイルに入力していると、部屋の扉が開かれる音がした。
振り返ると、相棒のイエッサンがこちらを見上げている。つぶらな瞳を覗くと、どうやらなにか困っているようだ。
「どうした?」
問えば、かれの手のひらになにかが乗っている。処理に困るものでも見つけたのか、と近づくと、そこには見覚えのないアイテムがあった。
「……ハート」
ハートモチーフのアクセサリーの類。この家の家主には全く属さないジャンルのアイテムだ。
「……」
私は静かにそれを見つめ、相棒を見やる。イエッサンは心得たように振り返り、とてとてと歩き出した。
かれの後を追うと、どうやら寝室の清掃を行っていたようだ。一緒に作業していたもう一体のイエッサン(個体名はもちろんあるが、割愛する。かのじょはメスだ)が、ガラス玉のような瞳で私を見上げ、それからちらりとベッドを示す。
「……」
ベッドサイドで見つけた、ハートのアクセサリー。
わたしはイエッサン(オス)からそのアイテムを受け取り、モバイルのカメラ機能を起動した。写真に映し、透明なビニール袋に収納して腰に下げた保管バッグに入れる。判断に困るもの(ゴミなのか、落とし物なのかわからないもの)は、一旦回収し、リーグを通じて家主に確認するのだ。
私はイエッサンたちに残りの作業を命じ、再びポケモンルームへと向かった。
一つ一つのボールを確認していると、新たにドッグが増えていることに気づいた。ポケモンごとの環境調整を行うレスト・ベイには、それぞれの種族が登録され、適した環境の設定が行われる。
新しいドッグの設定は、『こいぬポケモン』。ワンパチに適した温度、湿度、酸素濃度等が細かく示されている。私はモバイルを確認し、オーナーダンデの新たな手持ちをチェックした。
――ない。
ここしばらく、オーナーダンデの所有するポケモンが新たに登録された痕跡はない。ということは、このワンパチ用のドッグは……
私はモバイルを操作し、新たなドッグの確認を入力した。今後は、このドッグの整備・調整・確認を行うかのフィードバックを求める。
ポケモンルームのあらかたの作業を終え、私は再びリビングの方へと向かった。勤勉な相棒たちがせっせと清掃を行う傍ら、先ほどざっとチェックした補充要項を改めて確認する。
冷蔵庫の中身――見慣れない調味料。果物、ハーブ、ヨーグルト類。野菜室には新鮮な野菜が入っており、飾り棚には紅茶缶が増えている。
プロテインと栄養補助食品ばかりが目立っていたパントリーには、レトルトだが多少の調理が必要なシチューやカレーのルゥ、小麦粉や米などが収まっている。パスタの類も増えていた。
「……」
私は黙々とそれらをモバイルに登録し、今後の補充要項に入れるかの確認を求めた。
そうこうしているうちに、リビングの環境が整っていく。いつの間にか増えているクッション、ふわふわのひざ掛け、もこもこのスリッパ、観葉植物の棚、置き去りにされた分厚い書籍。
一つ一つ丁寧に、私はモバイルに入力していく。
ところで、これらのアイテムが増え始めたのは、なにも今日に始まったことではない。モバイルデータを見れば、この家で初めて見慣れないものが発見されたのは、ちょうど三週間ほど前。リビングのテーブルに置いてあった、華奢なフープイヤリングだった。
散々述べてきたが、我々ポケモンリーグレジデンススタッフには、強力な守秘義務が課されている。政府要人レベルのそれは、勿論余計な詮索など一切許されない厳格なもので、その時の私も、無駄を省いた適正な処置を行い、そのイヤリングの処遇を問い合わせた。
リーグに報告した私の質問に、オーナーダンデの回答は、以下だ。
『今後も不明なアイテムがあれば、逐一報告して提出してほしい』
アイテムの出どころだの、その経緯だのは当然なにも説明がない。私は粛々と要望に従い、その後も頻発する『出所不明』のアイテムを、一つ一つ丁寧に記録しては報告を行った。
さて――
「……イエッサン。私たちの任務は、家主が気持ちよく寛げる空間を保持すること。そして、そこに『他者の介在』があるという事実を、極限まで意識させないことが肝要だ」
「いぇっさん」
「だから、ことによっては己の裁量で、事態を収めねばならない時もある」
「ふにゅ」
「……もとの場所に置いておきなさい」
私は、リビングを清掃していたイエッサンたちが提出したモノを確認し、いままで下したことのない指示を与えた。勤勉で真面目な私のイエッサンたちは、ちょっと困ったように顔を見合わせ、こくんと頷き合う。
ちいさな箱に納められたそれは、イエッサンの手によってうららかな光の溢れる明るいリビングの、おおきなソファの傍らにそっと戻された。
ちょうど、チェストとソファの間。
おそらく、意図せずに落とされてしまったのだろうが……これを、いつも通りの手順でリーグを通じて報告するのは、だいぶ憚られる。
プロフェッショナルとしては、例外など設けてはいけないことはわかっている。たったひとつの綻びが、己の首を絞めるかもしれないことは重々承知だ。
けれど――
「イエッサン」
振り返ったかれに、私はさらにイレギュラーを命じた。
「それを……チェストの中に、入れておきなさい」
「いえぇ?」
あからさまに、相棒の顔が顰められた。当然だ。私たちに与えられた権限の中に、リビングのチェストを開く、という項目はない。他者のプライバシーに深く関わる職務において、どれほど些細なことであろうとも、職権以外の行動は厳罰に値する。
ことによったら、私はこの誇りある天職を辞す事になるかもしれない。
だが……
「イエッサン。入れておきなさい」
「……いぇっさ」
不承不承頷いて、イエッサンがチェストを開く。そしてそのちいさな箱を収めると、心配そうに私を振り仰いだ。
「……いいんだ。これでいいんだ、イエッサン」
私は静かに呟いて、やわらかなイエッサンたちの頭を撫でる。かれらの不安を少しでも和らげるために、自分に言い聞かせるように言葉を継いだ。
「これはね、とてもデリケートな……エチケットに関するものだ。本来寝室などにあるべきものではあるが、家主がどこでどう活用しようとも、攻められる謂れはなく、むしろいついかなる事態においてもスマートに事を運ぼうという危機管理能力をこそ私は評価したいと思う」
「いぇっさ?」
「うん。そしてまた、これが無造作にこの場所に落とされているのを、家主以外の方が発見したとして、その時家主がどういう立場に立たれるかわからない以上、私たちはルールを越えてでもこれを秘匿するべきだと思う。時にね、このエチケットに関する問題は、恋人同士の繊細な部分を刺激しかねないから……恋人でいいんだよな?」
「ふにぇ~」
「そう、その点も不明な以上、これは速やかに秘匿すべきものだ」
つらつらと呟いて、イエッサンたちの頭から手を離した。
さあ、我々にはまだ仕事が残っている。本日も完璧に、家主の要望に応えるべく粉骨しよう。
――たとえこれが、最後の現場になろうとも。
その日のフィードバック。リーグを通じて私のモバイルに転送されたオーナーダンデのメッセージには、いつもとは違う文言が添えられていた。
『『チェスト』の気遣いに感謝します。今後も同様の『落とし物』があった際は、出来れば推察できる原状回復を行い、その報告をしてほしい』
「……」
無事にチェストの中身を確認してくれたらしい。あんまり心配そうなイエッサンを見かねた私は、業務報告書に『リビングソファ傍のチェスト』とだけ記していた。そこになにがあるかまでは明記せず、だから場合によっては意味の通らない不明な文章になったかもしれない。
だが、オーナーダンデは正確に私の意図を汲み取り、そしてそれを受け入れてくれた。
さらに彼のメッセージは続く。
『それから、今後は『彼女の忘れ物』についてのリーグへの報告は割愛してほしい。オリーヴにも承認済みだ』
ほう……では、オーナーダンデの『お客様』は、正式にリーグの認知するところとなったのか。
『さらに、新たな補充リクエストもまとめておいたので、確認してほしい』
添付された資料には、昼間にチェックした保存食や調味料などの他、買い置きをしてほしい食材などが細かく記載されている。ほとんどが週末に向けてのリクエストだ。
『それから、オレからひとつ要望がある。これはリーグの許可を得ていることだが、あなたの裁量で是非を下してかまわない』
「……」
要望。じわじわと落ち着かない気分でその先を読み下す。
『今後、些細なリクエストや提案をするにあたり、オレの他にあなたと直接やり取りをする人物を増やしたい』
「……」
『その人物については、あなたに対する守秘事項にあたらない。近日中に公にする予定だ』
「……」
『いままでは、あなたが整えるすべてにオレは満足して、なんの不都合も感じていなかった。だが、これからはオレよりもだいぶ丁寧な暮らしをしている人物が頻繁にオレの家に来ることになる。それは恒常的に続くので、今後についてのあなたとの関わり方を、一度相談させてほしい』
「……」
『リーグに属しているあなたに、直接こんなことを言うのはルール違反かもしれないが、オレはあなたの仕事ぶりと人となりに高い信頼を寄せている。出来れば、今後はオレ個人の専属バトラーとして雇い入れたい。近い将来、オレの生活には変化が生じる。生活拠点や家族構成などが変わっても、あなたにオレたちのサポートを頼みたいんだ』
いい返事を期待している。オーナーダンデのメッセージの結びを何度も確認して、私はドキドキと早鐘のように波打つ胸を押さえて呻いた。
「……なんてことだ……」
「いえっさ?」
相棒のイエッサンたちが、心配そうに傍らに寄ってきた。私は彼らをそっと抱きしめながら、感無量に囁く。
「――生涯の推しに専属契約を頼まれた件について――」
さあ、家族会議を始めよう。
