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#42.応える【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】

2026/08/04 18:02
【お題】ダンデ×ソニア


 婚約発表を終え、大々的な婚約式がリーグ主体で放映されると、いよいよダンデとソニアの関係はガラル中の知るところとなった。
 マスコミは浮足立ったが、ダンデサイドから厳重に情報規制が敷かれている。特にソニアの研究者としてのキャリアを阻害するような報道には、断固として厳しい対応をする旨を周知し、それを甘く見た三流週刊誌やネットニュースサイトなどが、実際に完膚なきまでの法的措置を取られて以降は、だいぶ大人しくなった。
 十年無敗のガラルチャンピオンは、同時に十年ノースキャンダルの王様で、芸能報道の人間にとって、ダンデのゴシップにはまさにツチノコ並みの希少性があり、そんな中での、電撃婚約。お相手は、さんざん邪推されていた業界の人間などではなく、ほぼダークホースの若きポケモン博士。接点は? なれそめは? など、掘れば掘るほど『どうしていままで気づかなかった』案件なのだが、それだけダンデの私生活は謎に包まれていたのだ。共にジムチャレンジをした幼馴染の女の子、なんて、噂の俎上にも上らないほどに。
 ある意味、全ガラルの裏をかいた衝撃的なニュースは、膨大な関心を集めた結果、概ね友好的に受け止められた。それはダンデの十年間の誠実さの結晶であり、人柄の賜物でもある。
 そんな中、婚約式を終え、あとはいよいよ結婚式に向けての大詰め……を迎える前に、ある程度のニーズに応える必要があります、と、オリーヴは冷静な眼差しで言った。
「ニーズに応える?」
 シュートスタジアムの応接室。ガラル粒子測定時のソニアに用意された休憩スペースであるそこに、オリーヴがやってきたのは解析を終え、そろそろ帰ろうかな、という頃のことだ。
 当然のようにその場にいたダンデが、ソニアと同じく首を傾げた。
「つまり、どういうことだ?」
 本来、シュートスタジアムの委員長室、もしくはバトルタワーのオーナールームで仕事をしているべき存在に、オリーヴは眉一つ動かさず、ただ絶対零度の冷たい視線だけを向けて答える。
「つまり、インタビュー番組を制作しましょう、という提案です」
「インタビュー?」
 ダンデとソニアの声がハモった。まだ理解できない様子の彼らに、オリーヴは手にしたモバイルをそっと差し出す。画面の中には、番組の企画書が開かれていた。
 ふたりが仲良くそれを見て、読み下していくうちに、見る見るソニアの顔が青くなっていく。ダンデの方は、まるで意に介さないように頷いた。
「なるほど、オレがソニアのことを紹介する番組だな」
「ありていに言えば、その通りです」
「ちょ、ちょっと待って! オリーヴさん、こんな番組困ります!」
 ダンデの手からモバイルを奪い、ソニアが泡を食ってオリーヴに詰め寄る。オリーヴは冷静そのものの眼差しで彼女を見やった。
「御懸念には及びません。インタビューといっても、きちんと台本があります。生番組でもありません。オーナーダンデの暴走は、最小限に食い止められるかと」
「いやいや、そういうことを言ってるんじゃなくて……そもそも、なんでこんな番組を作るんです? いまさら、ダンデくんがわたしのことを説明するって、意味なくないですか?」
 すでに婚約式も挙げているのだ。世間的に、ダンデの婚約者としてのソニアの名は浸透し、ほとんど知らぬ者もいない状態なのに、わざわざこんな下世話に浮かれた番組を作る意図がわからない。
 そんなソニアの問いかけに、オリーヴははぁ、とため息を吐く。美人の憂い顔は迫力があるな、と、ソニアが場違いなことを思った時、ひんやりとしたオリーヴの眼差しが光った。
「意味はあります。大変重要な意味が」
「え?」
「もちろん、すでにオーナーダンデのお相手の情報は出回っています。ソニア博士はポケモン研究界においても白眉の存在であり、その功績、研究実績、経歴等の情報は開示されております。ですが、『オーナーダンデにとってのソニア博士』という視点でのあなたの情報は、ほぼ皆無といっても過言ではないのです」
「は」
 オリーヴの言葉に、ソニアは短い眉を寄せる。それから恐る恐る、小首を傾げた。
「えっと……つまり、世間はわたしの存在を知ってるだけじゃ納得しなくて……ダンデくんにとって、わたしがどういう存在だったのか、そういうプライベートな情報が欲しい、と?」
「ありていに言えば、その通りです」
「えええ……」
 今度は真っ赤になって唸る。ソニアの様子に、ダンデは機嫌よく言った。
「別に問題ないだろう?」
「いや、問題しかない……だってつまり、これって公式な惚気じゃん!?」
 ガバっと顔を上げて、ピンク色のほほをしたソニアが困ったように眉をゆがめた。
「カップルの馴れ初めとか、聞いてて一番イタイやつじゃん! 興味ないひとからしてみれば『なに浮かれてんの、バカじゃないの』って蔑まれる系! 新婚さんを集めてトークする番組でよくある、共感性羞恥が爆発するやつ!」
「そうか? オレは別に、爆発しないが」
「ダンデくんに共感性羞恥が備わってないだけだよ!」
 はぁはぁと息を切らして、ソニアはオリーヴを振り返る。必死な形相で彼女に詰め寄った。
「オリーヴさんも、本当はそう思ってるんでしょ? いまさらダンデとソニアの馴れ初めなんて、聞く方がどうかしてるわ、って!」
「個人的な意見を言わせていただければ、そうですね」
「ほらぁ!」
 淡々としたオリーヴの言葉に、ソニアがひぃん、と泣き声を上げる。普段の彼女よりも、ずいぶん狼狽しているような状況に、ダンデは濃い眉を寄せた。
「ソニア、なんでそんなにテンパってるんだ?」
「んもぉ! だからぁ、いい、ダンデくん、きみがこのインタビュー番組とやらに出て、わたしとの馴れ初めを話したとするよ? えー、出会いはいつですか?」
「5歳です」
「それはまた、長いお付き合いですねえ。その頃からずっと、ソニア博士のことをお好きでしたか?」
「はい」
「ほらぁぁぁぁぁ」
 だんだんだん、と細い足を踏みしめるソニア。淑女の仮面をかなぐり捨てた彼女の狂態に、ダンデはますます首を傾げた。
「なにがだ?」
「あのね、そんなちいさいころからわたしのことが好きでした、なんて言ったら、次は芋づる式に『じゃあ、チャンピオンになったころも?』『防衛を果たしたころも?』『公式試合無敗記録を塗り替えたころも?』『チャンピオンの座を退いたころも?』って、どんどんどんどんメスが入って、結局5歳のころからず―――――っとわたしが好きだ、みたいな話になるじゃん!」
「その通りじゃないか」
「違うってば! 好きのグラデーションが伝わらないの! ダンデくんは5歳のころ、わたしを女の子として好きだったの?」
「え、ソニアはソニアとして」
「じゃあ、ジムチャレの頃は?」
「ソニアとして」
「防衛重ねてた頃!」
「ソニアとして」
「いま!」
「ソニアとして」
 ぽろぽろと答えるダンデの素直な言葉に、ソニアははぁっとため息を吐いた。
「……オリーヴさん、おわかりですよね? ダンデくんに、男女の機微を説明するという機能は搭載されてないんです」
「……そのようですね」
 重々しく頷くオリーヴと、がっくりと頭を抱えるソニアとを見やって、ダンデは憮然と声を上げる。
「なんだかよくわからないが、オレはいま侮辱されてるな?」
「侮辱じゃないよ。つまり、世間的に知りたい『ダンデのコイバナ』と、ダンデくんのわたしに対する感情に、致命的な乖離があるの。だから、きっとインタビュー番組とやらも破綻する未来しか見えない……」
「乖離? なにがどう?」
「だから……普通はね、5歳のころに知り合って、幼馴染として意気投合して、一緒にジムチャレンジをして、その後離れてしまったんですけど、大人になって再会して、なんとなくいいな、って感じて、恋愛に発展したんです~……みたいな、感情のグラデーションがあるの。そういうもんなの、幼馴染って」
「うん」
 頷くダンデに、ソニアは疑わしそうな視線を向ける。
「でもダンデくんは、それがわからないでしょ?」
「いや、わかるさそれくらい」
「嘘。じゃあ、さっきの「5歳のころからソニア博士が好きでしたか?」ってやつには、「そうですね、幼馴染として」とか、無難に答えられる?」
「そういう台本ならな」
 あっさりと頷くダンデに、ソニアはちょっとだけ驚いたように目をまるくした。それから、まじまじと彼を見つめる。
「ダンデくん……意外と臨機応変出来るんだ」
「ソニア……それはさすがに侮辱だろ」
「あ、そうねごめん、これは明らかに侮辱だったわ」
 ペロリと舌を出すソニアに、ダンデは苦笑した。
「ソニアがなにを心配してるのかはだいたいわかるし、確かにこんな浮かれた企画、オレたちに興味がない人間にしてみれば馬鹿馬鹿しいものだろう。だが、こういう企画を望んでいる声の方が多い。単純に、ニーズバランスの話だろう?」
「ありていに言えば、その通りです」
 オリーヴが淡々と頷く。ダンデはソニアに向き直り、改めて諭すように言った。
「ソニアの性格から言えば、大袈裟に自分たちのことを吹聴するのは抵抗があるだろうけど、これも一種の防衛手段なんだ」
「防衛?」
「現状、『ポケモン博士としての側面』以外でソニアを取り沙汰しようとするメディアには、ポケモンリーグから強い規制を敷いている。だが、抑えれば抑えるほど、人の好奇心は肥大するものだ。その抑圧はいずれ、過激なことを考えたり、迷惑行為に及んでも謎を解こうって層を生み出すかもしれない」
「う……ん、まあ、それは人間の心理として理解できる」
「だから、完璧にコントロールが効く状況下で、ある程度の情報を開示した方が、面倒が少ないっていうことなんだよ」
 ダンデの説明は、ソニアにも理解できる。いままで、あまりにも未知のベールに包まれ過ぎていた無敗のチャンピオンの、結婚という慶事におけるエピソードは、彼のファンには堪らないものだろう。アンチやゴシップ記者に、ありもしない話を拡散する隙を与えないことにもなる。
 でも……ソニアはグラグラと揺れる頭を抱えた。
「確かに、意義深い気もする……けどやっぱ、こっぱずかしいよお~……」
「だいじょうぶだソニア、ただあるがままを話せばいいんだ。エンタメに寄って話を盛るなんてことはしないぜ」
「あるがまま……」
「そう、あるがまま」
 ダンデの言葉に、ソニアはだんだんと気持ちが傾いていく。
 自分たちのプライベートなことを公にするなんて、本当なら考えられないくらい恥ずかしい。でも、そこを知りたいという世間の欲求が、思いがけない形で面倒を起こさないとも限らない。
 これから本当に結婚するにあたり、ふたりそろっての露出はますます増えるだろう。バトルオーナー、リーグ委員長のパートナーとして、ソニア自身の動向も注目を集めることになる。
 ならば、その熱をコントロールする意味でも、無害な情報を小出しにして、世間の興味を鎮静化させることは……やっぱり、有意義である。
 ソニアの良く回る頭脳が最適解を導き出すと、あとはもう引きずらずに、ぱっと気持ちを切り替えた。
「うん、わかった。ちょっといろいろアレだけど、インタビュー番組、賛成するよ」
「そうか」
「でも、くれぐれも台本通りにするんだよ? 変な脱線とかいらないから。あと、長々しゃべらない。聞かれたことに、簡潔に答えること。あるがままに、淡々とね」
「わかってるぜ」
 従順に頷くダンデに、ソニアはまだ不安が残りつつも、とりあえず納得して息を吐いた。オリーヴへと向き直り、頭を下げる。
「じゃあ、企画よろしくお願いします、オリーヴさん。くれぐれも、ダンデくんの暴走には気を付けてください……」
「承知しています。我々が目指すのは、オーナーダンデとソニア博士の結婚が、ガラルポケモン界、ひいてはガラル全土にとって利するものであることを、国民に知らしめることです。おふたりのイメージ戦略はお任せください」
 淡々と冷静に答えるオリーヴの、どっしりとした安定感に、ソニアは完全に信頼を寄せていた。
 だから。
 その半月後、ポケモンリーグ公式チャンネルにおける独占配信という体で全土に流れた『オーナーダンデのスペシャルインタビュー』において、自分たちの半生が微に入り細を穿つ綿密さで赤裸々に語られたことも、ソニアの言いつけ通り、ありのままを淡々と語るダンデの真摯な様子が、かえって彼の真っすぐな愛情を浮き彫りにし、それが常にソニアに向けられていたという強烈な事実も、さらに今後のふたりの結婚生活が、ガラルのポケモン界を盛り上げるうえで欠かせないものであり、その円満さが国益となる……というような、オリーヴによる巧みなイメージ戦略も、現時点でのソニアには、想像だにつかないことなのだった。


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