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#36.傷つく【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
2026/07/23 17:36【お題】ダンデ×ソニア
*#34.戯れるの後の、ダンデとソニアのディナーのお話です
「なるほど、そういう理由か」
ソニアが買ってきたテイクアウトディナーをテーブルに並べながら、ダンデがくすくすと笑う。今日は中華な気分だったので、最近お気に入りのデリから夢の全品買いをしてきたソニアが、さすがに多かったかな……と矯めつ眇めつしながら取り皿を揃えた。
「うん、そゆこと。いきなり段取ってもらってごめんね、ダンデくん。でも、ありがと」
「いや、もともとジムリの研修は近々予定してたんだ。さすがに宿泊までは考えてなかったが、いい機会だし、都合が悪い場合はキャンセルしても構わない内容だしな」
「ほぼ遊びだもんねえ」
笑いながらテーブルに座ったソニアの対面で、ダンデが冷たい烏龍茶をグラスに注いだ。
「しかし、ユウリくんたちにそんなに怖がられていたとはな……少しショックだぜ」
存外冗談ともいえない口調でしみじみ呟くダンデに、春巻きを取り分けたソニアがクックと笑う。
「そうだねえ。チャンピオン時代とは、やっぱりちょっと変わったもんね」
「そうか?」
炒飯を二口で平らげたダンデが、わずかに目を瞠る。ソニアは春巻きを咀嚼して、こくんと飲み込んだ。
「うん。特に、リーグ委員長の顔してるときは、やっぱ迫力というか、貫録を感じるよ。ダンデくん、真面目な顔してると結構圧強めだしね」
「圧……威圧感、か?」
「うん。目力かな。その金色の目って、色素が薄い分強いっていうか……じっと見られるとちょっと怖いかもね」
「猛禽類みたいな感じか」
「惜しい。きみはライオンだそうだよ」
「カエンジン?」
「そっちは好かれてた」
ソニアの言葉に、ダンデは納得いかなげに眉を寄せ、素直に餃子を飲み込んだ。
「しかし、リーグを束ねる者として無意味に威圧感を醸し出すというのも考え物だな。感じよく接してるつもりなんだが」
「そこはねえ、やっぱダンデくん自身にもプレッシャーあるからねえ……無意識に、力が入っちゃってるんじゃないかな?」
「確かに、余裕はないな」
「断言するなよぉ」
くすくすと笑って、ソニアがダンデの皿に搾菜を乗せる。ダンデは青椒肉絲のカップに手を伸ばした。
「だが、挽回の機会があるのは嬉しいな。ソニアがお膳立てしてくれたチャンス、きっちりモノにしてみせるぜ」
「名付けて『ダンデさんってこんなに間が抜けてたんだ~これなら怖くないね!大作戦』だね」
ソニアが中華スープを傾けながら言うのにダンデは蓮華の手を止める。それから非常に面白くなさそうに半眼を閉じた。
「……間抜け?」
「うん」
「オレは間抜けなのか?」
「ある意味」
淡々と返すソニアに、ダンデはむすっと眉根を寄せる。
「異議ありだな。それは、ソニアの主観だろ?」
「そんなことないよぉ。誰が見たって間抜けな時あるじゃん」
「例えば?」
「たま~に盛大に寝癖つけたまま普通に出勤してる」
「残念だが、オレの髪型は常に自由奔放だから、どこが寝癖かなんてよほどの通じゃなきゃわからないぜ」
「それって威張って言うこと? あとはほら、迷子癖ひどいし」
「それには反論の余地はないが、ユウリくんたちはその癖を差し引いてもオレをカッコいいと思ってるわけだろ?」
「はあ? カッコいいとは言ってなかったよ」
「つまるところ、似たようなもんだろ。威圧的、迫力、プレッシャー。威風堂々と見えてるってことだ」
「ずいぶん都合のいい解釈だね」
呆れたように眉を上げたソニアが、なめらかな杏仁豆腐をつるりと口に含む。やわらかい甘さにぽおっと笑みが浮かんだ。
「まあとにかく、ダンデくんの素の状態をよく見てもらえば、無駄に怖がられることもなくなるんじゃない? 仕事を離れたダンデくんと接する機会なんて、いままでなかったでしょ、特にマリィとか」
「ああ、まあな。ネズにくっついてスタジアムに来てた時も、こっちはチャンピオンモードだったしな」
「けっこう付き合いが長い年下の女の子から怖がられるのって、なかなかダメージだよねぇ」
しみじみと言うソニアに、ダンデは中華丼のカップをコトンとテーブルに置いて、情けなく肩を落とした。
「……自分では、イメージは悪くない方だと思ってたんだがな」
「いや、悪いイメージじゃないよ。怖いっていうか……そう、威厳、威厳だよ」
さすがに可哀そうになったのか、ソニアはフォローに回る。それからてきぱきと、食べ終えたカップを重ねて片付け始めた。
なんとなく気まずくなってしまった空気を打破するべく、ソニアは食後のお茶を淹れる。馴染み深い香りが漂ってきたテーブルに、ダンデは頬杖をついていた。
珍しく落ち込んだような、傷ついたような態度のダンデに、ソニアはやわらかく苦笑する。
「……あの年頃の女の子ってね、ちょっと年上の男のひとに憧れたり、気後れしたりするもんなの。それにね、怖い怖いって言いながら、あの子たちダンデくんとのバトルはすごく楽しそうだよ。嫌ったり悪く思ってるひとを相手に、あんな顔できないよ」
「……」
「ダンデくんは、みんなのヒーローだった時代が長すぎたの。ヒーローって孤高でしょ? 本当はなにを考えて、どう思ってるのか、わからないから怖いんだよ。でも、これからは違うでしょ? リーグ委員長として、タワーオーナーとして、みんなと足並みをそろえて協力していくんだから、きっとすぐにダンデくんの素を知って、馴染んでくれるよ」
「……ああ」
ソニアの優しい言葉を、ダンデはうっとりと瞳を閉じて聞いていた。彼の長い睫毛の影を見つめて、ソニアは苦笑する。
「まあ……わたしに言わせれば、なにがどう怖いんだか、って感じだけどね」
その言葉に、ダンデがぱっと瞼を開く。明度の高い黄金の瞳が、まっすぐにソニアを捕えた。
「ソニアは、オレが怖くないのか?」
「え、なに言ってんの当たり前じゃん。怖いってなにさ。いまさらダンデくんのなにを怖がれっての?」
呆れたように鼻で笑う。ダンデは嬉しそうな、悔しそうな、なんとも複雑な表情でほほ笑んだ。
「いや……怖いというか、オレの威厳や迫力を、感じたりはしないかと」
「だから、いまさら無理でしょーそれは。何年一緒にいると思ってんの。威厳を醸し出したければ、迷子のレスキューの頻度減らしてよ」
「減ってるだろ、最近は」
「単純に、一緒にいる時間が増えたから、相対的に減ってる気になってるだけです」
「……ソニアにとって、オレは間抜けな幼馴染のままか……」
寂し気に呟くダンデの様子が、プライドを傷つけられた少年そのものに見えて、ソニアは湧き上がる庇護欲にぶるりと震える。
何年一緒にいるとしても、この顔をされると弱いソニアだ。
「……いや、間抜けな幼馴染だけじゃないでしょ……頼りがいのある、恋人に進化してるかもよ?」
ちいさな囁きに、ダンデの瞳が露骨に輝く。嬉し気な彼の様子に、ソニアはあーあ、と顔を伏せた。
「頼りがいのある、恋人か」
「いや、かもよ? って言ってるでしょ。断定してない」
「ソニアにとってオレは、頼りがいがあって、威厳のある、大人の男なわけだ」
「いやそれは盛りすぎ。ダウト」
「いいことを聞いたぜ」
「幻聴です~」
赤い顔を隠すように、ソニアが紅茶のカップを傾ける。そんな彼女を嬉し気に見つめて、ダンデは爽やかに笑った。
「さて。じゃあ、ソニアの恋人には頼りがいやユーモアがあるってところを、きちんと示さないとな」
「ユーモアかあ。ダンデくんにあるかなあ?」
「あるだろ。あふれ出てるはずだぜ」
「天然ボケとユーモアは、違うんだよなあ」
「オレって天然なのか?」
「それ聞いちゃうところがねえ」
くすくすと笑いながら、ソニアは紅茶のカップをくるりと揺らす。
「いろいろとお膳立てはしたげるからね。しっかり少女たちのイメージを一新してよ」
「ああ。しかし、きみのお膳立てには恐れ入るぜ。これ、あの短い間に本当に考えたのか?」
ダンデは言って、おもむろに手元のスマホロトムを操作した。
昼間、電話をしながらソニアが書き上げた企画書は、そのままオリーヴの裁可を得て、最終的にダンデの名のもとに正式な通達として各ジムリーダー、関係者へと送られている。その出来に、ダンデは唸った。
「ちゃっかり、ソニアの研究テーマも盛り込まれてるな。『トレーナー・ポケモン間の相互理解が、競技能力へ与える影響』……計測項目、①指示伝達精度、②判断一致率、③相互補完能力、④信頼による行動変化……総称して『絆』とする」
つらつらと読み上げるダンデに、ソニアは紅茶を飲みながらにんまりと笑う。
「ふふん。実はね、前から考えてたんだ。いつか、ダンデくんに相談しようと思ってあたためてたのさ」
「つまり、ポケモンとトレーナーとの間にある『絆』を数値化する発想か?」
「う~ん、数値化っていうか、いわゆるトレーナーとポケモンの親密度による能力変動に、前から興味あったんだよね」
わずかに表情を改めて、ソニアは『博士』の顔になる。理知的なエメラルドグリーンの瞳を細めて、ソーサーに戻したティーカップの縁を指でなぞった。
「長く一緒にいるポケモンだから、バトルが強いってわけじゃない。たとえ数か月の付き合いでも、トレーナーの指示を100%以上理解して行動できる子もいれば、何年たっても噛み合わないコンビもいる。でも、噛み合わないからって負けるってわけじゃない。そこに、目に見えない『絆』のような理論があるとしたら、それを立証したいの」
「育成論でも言及されてる理論だな」
「うん。ある程度の検証結果が出れば、ポケモンとの向き合い方にまた新たな光が差される。って、まあ、まだ海のものとも山のものともわからない実験だから、今回のお遊びに乗じてちゃっかり提案してみたってわけ。ほら、こうでもしないとジムリの研修会にわたしがくっついていく意味が分からないじゃない」
悪戯っぽく笑うソニアに、ダンデは眩しげに瞳を細めた。
「きみの頭脳は、常にフル回転だな」
「そりゃぁ~、ポケモン博士ですからね」
「だが、その検証にはオレも興味あるぜ。今回の結果が良ければ、本格的にポケモンリーグ主体で研究依頼をさせてもらいたい」
「お、乗り気だね~ダンデくん! いや、委員長様! ぜひこちらからもお願いいたします」
ちょこんと頭を下げるソニアに、ダンデも丁寧に礼を返す。頭を上げて顔を見合わせ、同時にぷっと噴き出した。
「はぁ……こんなに真面目に仕事してる委員長様なのに、女の子たちはシビアだねえ」
再びからかうように言うソニアに、今度のダンデは年上の男の余裕を見せて苦笑した。
「まじめに仕事してるから、余計に怖いんじゃないか?」
「あー。仕事には常に真剣だしねえ……てかむしろ、あの年頃の子たちが大人に混じって仕事しなきゃいけないのが大変なんだよ」
「ああ、確かにキツイよな」
なにかを噛みしめるように言うダンデに、ソニアは淡くほほ笑む。彼の歩んできた十年を労うように、本心で呟いた。
「とにかく、ダンデくんとプライベートで過ごせば、あの子たちの緊張もマシになるよ。別にわざとらしく接しなくてもだいじょーぶ。きみは素で、可愛いから」
「え」
「あ」
ぴくん、とふたりの肩が同時に揺れる。ダンデはちょっとぽかんとしたふうに目を見開いてソニアを見つめ、ソニアはしまった、と言いたげに真っ赤になった。
「可愛い?」
「あー。えっと、そろそろわたし、帰りますねえ……」
「ソニア。オレのこと、可愛いって言ったか」
「言ってないよぉ。可哀そうって言ったの」
「言ったな。可愛いって言ったな」
「ええい、しつこいなあ!」
立ち上がったソニアの正面を塞ぎ、ダンデはキラキラと輝く眼差しで彼女を見下ろした。
「ソニア……オレを可愛いと思っていたのか」
「え、待って、百歩譲ってそうだとして、なんできみはそんなに嬉しそうなんだよ」
真っ赤になったまま恐る恐る問いかけるソニアに、ダンデは満面の笑みで答える。
「ソニアが前に言ったんだぜ。女性は、『可愛い』って思った時にはもうどうしようもなく相手に惚れてる生き物だって」
「言……った覚えないですね!」
「オレはしっかり覚えてるぜ。『可愛い』に対する認識が180度変わった事件だったからな」
「いやそれはたぶん一般論として」
「一般論は、ソニアにも十分適用するな?」
「え、ちょっとま……」
「ソニア、そろそろ降参しないか」
くすくすと笑いながら、ダンデがソニアの腰を引く。ぴったりと寄り添う平熱の高い男の胸に、ソニアはぐずぐずと額を預けた。
「もぉ……なんでいつもこうなるんだよ……」
「知りたいか?」
ソニアの黄昏の髪にほほを寄せて、機嫌のよい男は可愛い子ぶった口を開く。
「ソニアが、どうしようもなくオレに惚れてるからだぜ」
「異議あり」
悔しまぎれの反論は、けれど当然軽やかにふさがれて終わった。
《恋する動詞111題》
#36.傷つく【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
