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#34.戯れる【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
2026/07/19 16:42【お題】ダンデ×ソニア
それは本当に、神の悪戯のような偶然だった。
先日のガラル粒子測定報告に訪れていたソニアと、来月催されるエキシビジョンマッチの打合せに来ていたユウリとマリィが、シュートスタジアムの選手控室近くにある談話スペースで、ばったりと顔を合わせた。
「あら、ユウリにマリィちゃん」
「あっ、こんにちは、ソニアさん!」
「こ、こんにちは……」
年下の少女たちが、はっとしたような表情でソニアを見やり、なにやらわたわたとしている。その訝しい様子に、ソニアは短い眉を寄せて小首を傾げた。
「ん? どした?」
「えっいえ~別にっ」
嘘のつけない可愛い妹分が、いっそわざとかと疑いたくなるほどあからさまに動揺している。その傍らでは、表情をなくしたマリィが白い顔で視線を揺らしていた。
「ん~……」
少女たちの違和感を、このままずんずんと突いてやってもいいのだけれど、ユウリだけならともかく、マリィも一緒になって隠そうとしていることに、無遠慮に踏み込むのもアレかなあ、と、さすがにソニアが配慮した瞬間。
「イヌヌワンッ」
ソニアの後からやってきた相棒のワンパチが、ご機嫌な様子で尾を振りながら声を上げた。久しぶりに会ったユウリやマリィに興奮し、かれは精いっぱいの愛想と喜びを表してその足元にじゃれつく。およそ13キロ(最近ちょっと太り気味なので、それ以上かも)の塊が、期せずしてマリィの細い膝の裏にたすん、と肉球を押し当てた。
「うわっ」
綺麗に『膝カックン』を決められたマリィの手から、スマホロトムがスポンと宙を舞う。ふよよ~と呑気に空を飛んできたロトムは、美しい翡翠色の施されたちいさな爪が光る手に、狙ったように飛び込んでいった。
「あらま、だいじょうぶ?」
《ロト~》
ちょっぴりお調子者のマリィのロトムは、やわらかいソニアの手の中でご満悦に笑った。と同時に、しっかりとその画面を彼女の方へ向ける。他意はないが、デリカシーもない。
「え」
「ああっ!!」
ソニアの呟きと、少女たちの絶叫が重なった。
ソニアの手の中に収まったスマホロトムの、ちいさな画面の中から、きらめく黄金の瞳がこちらを射抜いている。見慣れた……けれど見慣れない、真剣な表情の彼の姿に、ソニアはぱちくりと目をまるくした。
「あっあっあーーーっ、ちが、ちがうっ、違うんですソニアさぁん!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、あたしがあたしがっ」
「マリィ落ち着いて、ちゃんと説明するからだいじょうぶ、だいじょうぶだよぉ」
「うっ、やけんあたし、隠す自信ないって言ったやんかぁ……っ」
「えーっ、いまそれ言う!? マリィも頑張るって言ったじゃんかぁ!」
「それはそうっ! マリィが悪い!」
「いやマリィは悪くないよっ、わたしが考えた作戦だもんっ! 静止画だったらマイルドになると思って……」
「ユウリ……」
「マリィ……」
「……はーい、お嬢さんたちぃ、そこまで。簡潔に状況説明、はい、ユウリ!」
わちゃわちゃと抱き合う少女たちを呆れて眺めて、ソニアがぴしりと指を立てる。名指しされたユウリは、マリィの手を取ってぴゃっと飛び上がると、急いで答えた。
「えっと、あの、マリィがリーグ委員長のダンデさんに見慣れるための秘密特訓ですっ!」
「はい?」
簡潔すぎる言葉に、ソニアが眉を寄せる。それから手の中のスマホ画面……こちらを見つめる真剣な様子のダンデの写真に目をやると、自慢の頭脳を回転させた。
「……つまり、マリィちゃんはダンデくんのことが怖いと?」
「あ、正解……」
気が抜けたようにマリィが呟くと、彼女の手を取りながらユウリがぴょこんと首を振った。
「いやっ、違うよねマリィ! 怖いんじゃなくて、慣れてないから圧倒されちゃうんでしょ!」
「うん……でも簡単に言うと、怖い」
「あや~~~、マリィ、それはなんか、よくない表現だよぉ」
「でも、ユウリも言っとったやろ? バトル中は平気なのに、リーグ委員長として会うと、ダンデさんの圧になにも言えなくなっちゃうって……」
「わぁ、ドサクサで巻き添えにしないでよぉ」
ぎゃひぃ、とユウリが情けない声を上げた。彼女の足元で、ワンパチが怪訝そうにふんふんと匂いを嗅いでいる。普段と違うユウリの様子に落ち着かないワンパチを眺めて、ソニアは乾いた笑いを浮かべた。
「ああ……なるほどぉ。把握したわ」
恐ろしいほどに察しのいいソニアが、う~ん、と考えるふうにあたりを見回す。閑散とした談話スペースには彼女たちの他に誰もおらず、隅の方にある観葉植物に囲われたソファを指さした。
「ね、ちょっと話さない? 時間ある?」
「あ、はい。わたしたちもう上がりだから……マリィ、だいじょうぶだよね?」
「う、うん」
「よし。じゃ、なんか飲もう。奢ったげるよ」
言いながら、ソニアが自動販売機の方へ向かう。恐縮するユウリとマリィにミックスオレを購入し、彼女自身はナナシティーを手にして、奥まったブースに腰を下ろした。
「さてと。じゃあ、ちょっと整理するね。マリィちゃんは、……」
「あ、マリィでよかです」
「あ、そう? んじゃ、マリィはダンデくんの『リーグ委員長』の雰囲気に圧倒されて、つい委縮しちゃう。バトルで相対する時の迫力は平気だけど、そうじゃない時のダンデくんに慣れるために、彼の写真をスマホで見ていた。これで合ってる?」
「はい……」
頷くマリィの隣で、ユウリが恐る恐る手を上げる。
「あのぉ~……その作戦、わたしが発案です。マリィは最初、ソニアさんに悪いからって渋ってたんですよぉ」
「え、わたし?」
「はい~。彼氏の写真をスマホに落とすなんて、ソニアさんが知ったら気分悪いって……」
「あーははは。いや、そりゃもうイマサラだわ。ダンデくんのリーグカード、ブロマイド、顔面張り付けた謎グッズ、このガラル中にどんだけはびこってると思ってんの」
「ですよねぇ~」
にゃはは、と笑うユウリに、マリィは「そういう問題じゃない」とちいさく突っ込むけれど、当のソニアが本当に気にしていない様子だったので、ほっと緊張を解いたようだった。
ソニアはナナシティーを飲みながら、穏やかに笑う。
「まあ、近い立場の人間だから、気を使ってくれたのは素直にありがとう。でも、ホントに気にしないでいいよ。ただ、そのトレーニングにどれほどの効果があるかは、ちょっと疑問だけど……」
「そうなんです」
はっと視線を上げたマリィが、可愛らしい顔に真剣な表情を浮かべて言う。
「ユウリのアドバイス通り、ダンデさんの写真を日がな見るようにして、慣れようと思ったんですけど、やっぱり写真と実物じゃ迫力が違うし、結局いまのところ効果はさっぱりで……」
「だろうねえ」
悪いと思いながら、ソニアはくふふっと忍び笑う。その様子に、ユウリは情けなさげに眉を下げた。
「うぇ~……やっぱだめかぁ。少しはイケルと思ったんだけどなぁ……」
「もちろん、慣れたよ。静止画ならね。動くダンデさんは、なんかこう……ライオンとか、そういう大型獣のイメージがあって……」
「でもマリィ、レントラーとかカエンジンとか、可愛いって言ってたじゃない」
「ポケモンは平気よ! ダンデさんは人間やけん!」
「そう、人間なんだよ、ダンデくんも……大型獣じゃないからねえ」
ソニアが突っ込むと、マリィははっとしたようにほほを染めて項垂れる。それを見て、ユウリは困ったように言った。
「もちろんそれはわかってるんですよぉ……でも、委員長モードのダンデさんって、ほんっとに迫力あって……」
「なに、ユウリも怖いの?」
「いやいや、怖いなんて! ただちょっと、面と向かって意見が言いにくいなあとか、圧が強すぎて反論しづらいなあとか、なんでもない会話なのに喉が干上がるなあとか、そんなもんですっ」
「怖がってんじゃん……」
ソニアは言って、ふむ、と宙を見上げる。
ダンデを怖いと思うなんて、ソニアの人生史ではあり得ない現象だ。もちろん、バトルの時の緊迫感、迫力、プレッシャーは凄まじい。けれど、それにはユウリもマリィも一切の恐怖を抱いていない。そこはさすがのトップトレーナーだが、その他の仕事に関わるダンデに委縮してしまうというのは、死活問題だろう。
特に、新米ジムリーダーとして故郷を任されたマリィにとっては、リーグ委員長と渡り合うことも仕事のうちで、怖いだのなんだのとは言っていられない。彼女もそれを自覚しているからこそ、ユウリと一緒になんとかしようともがいているのだ。
あらゆる意味で、これはソニアが一枚噛んでやるのが最善だろう。
「……んーよし! ふたりとも、次の週末空いてる?」
「え?」
きょとんとした少女たちに、ソニアはにっこりと満面の笑みを返した。
「静止画でいくら特訓したって意味がないなら、思う存分動画に慣れりゃいいのよ」
「はい?」
「週末の二日間、ダンデくんと遊び倒すわよ」
「ふぁっ!?」
ユウリとマリィが同時に叫んで立ち上がった。そっくりな表情で固まっている少女たちに、ソニアはにんまりとチョロネコのような顔でほくそ笑む。
「ただ遊ぶんじゃないわよ。ダンデくんのカッコ悪~いところ、たぁっぷり見せたげる」
「ヘ、え、ソニアさん?」
「思うにさ、あんたたちはダンデくんの素の姿を知らなすぎるから、極端に偶像化しちゃってるんだよね。あの、無駄に自信満々に見えるところとか、なにも考えてないからこその即断即決とか、めちゃくちゃ強運だから大抵のことはなんとなくうまくいっちゃうイリュージョンとかに騙されてるわけ」
つらつらと指を折るソニアの言葉に、ユウリとマリィが目を点にしている。ソニアは自信たっぷりに胸を張って言った。
「つまり、素のダンデくんの間の抜けた面を見ちゃえば、どれほど格好つけてリーグ委員長してても、委縮されなくなるってわけ。どうよ、効果ありそうでしょ?」
「え、えー……っと、ソニアさん、ダンデさんと遊び倒すって……」
「そうね、ダンデくんが苦手な分野……迷路だな。その辺を押さえたアスレチック……あ、今度バウタウンに海浜アミューズメントパークができたんだよね! あそこ確か、いろんなアクティビティで遊べるし、キャンプ場も充実してるし、ちょうどいいんじゃない?」
ぱちん! と指を鳴らしたソニアの案に、ユウリとマリィが顔を見合わせる。それからストン、とソファに腰を落とした。
「ダンデさんと、遊ぶんですか……みんなで?」
「そだね、わたしとダンデくんとユウリとマリィ……だけじゃ、ちょっと寂しいかな? ホップも誘う?」
「あ、あ、じゃあ、ビートくんも誘っていいですか? ビートくんも、ダンデさんに委縮してる仲間だから」
「ユウリ、それバラしていいと?」
「あっ……でも、バレバレじゃん……」
「確かに。本人バレとらんって思っとるのもバレとるよね」
「ね。可哀そうだし、呼んだげようよ」
「あたしはいいけど……あ、アニキに言ったら、ついてきたがると思う……」
ぽつりと呟いたマリィの言葉に、ソニアは短い眉を上げた。
「あーそうだよね、絶対そうなるよね。じゃあ、ネズさんと……うーん、バウで遊ぶのにルリナを誘わなかったらあとが怖い。ルリナと、……となると、キバナさんも誘うのが無難……え、待って、ジムリだけでどんだけ?」
ソニアが指を折りながら眉を寄せる。こうなると、ほとんどポケモンリーグ上位ランカーの研修会、と銘打ってもよさそうな規模だ。
でも、単なる遊びだしなあ……と首を傾げるソニアに、そもそも、とユウリが声を上げる。
「ダンデさんが一般の施設で遊び倒すのって、なかなか難しいんじゃないですかね。ファンに囲まれそう……」
「それを言ったらユウリだってそうじゃん。アニキもあれでファン多いし……」
「マリィやビートくんだって、新進気鋭のジムリーダーだしねえ。そこにルリナさん、キバナさん……う~ん、マトモに遊べない気がする」
少女たちが悩ましげに呟いた時、ぱっと顔を上げたソニアが素早くバッグの中を掻きまわして、つかみ取ったスマホロトムに早口で声をかける。
「ロトム、ダンデくんにつないで」
《オッケーロト!》
かけ慣れた番号に即座につないだロトムが、ロトロトロト♪……と手慰みのコール音を二秒ほど鳴らす間に、ぷつっと音声が入る。
『どうした、ソニア』
「ダンデくん、来週末の二日間、どこか遊べるところ押さえたいんだけど」
『ん?』
いきなりのソニアの言葉に、ダンデが一瞬面食らったように唸った。ソニアは構わず早口で続ける。
「ジムリのみんなで、親睦会的な。アスレチックできて、キャンプできて、ついでに泳ぎたい」
『海か! いいな……ちょっと待ってくれ。来週……お、リーグの保養所空いてるな』
「そこどこ?」
『第二鉱山の東側、海浜公園のあたりだ。ローズさん肝入りの施設だぜ』
「遊ぶところある?」
『遊ぶというか、リーグ職員の研修にも使う場所だから、身体を動かすアクティビティはたくさんあるぜ。アスレチックも充実してる。プールもある。もちろんポケモン同伴可能』
ダンデの言葉に、ソニアは再びバッグを掻きまわす。おもむろに取り出した薄いモバイルを起動させると、高速でタイピングを始めた。
「ポケモン同伴可能、アスレチック……つまり、リーグ職員のバトルレベルの考査にも使うってこと?」
『ああ。バトルコートは二面ある。その他にも、ポケモン用のトレーニング施設も完備されてて……』
「よし、そこ行こ! セッティングお願いできる? 概要はいまんとこ……」
つるつると決まっていく計画に、ユウリとマリィはなす術もなく見守っていた。電話の向こうのダンデは、ソニアの無茶ぶりに動揺する気配すらなく、いつの間にか大掛かりなジムリーダー研修旅行が決定してしまった。
「……ん、よし。骨子はいままとめて、ダンデくんのPCに送ったよ。これをオリーヴさんに稟議回して、GOサイン出たら……」
『いま回した。……OKだぜ』
恐ろしい速さでまとめたソニアの案を、ダンデはノールックでオリーヴに投げる。稟議書の承認階級が逆ではないか、とのツッコミはさておき、さらに驚異的な素早さで有能な秘書の返答が返ってきたスピード感に、ユウリとマリィは呆気に取られていた。
『時間が短いし、参加は有志にしておくか。いま、概要を一斉送信したぜ』
ダンデの言葉と当時に、ユウリとマリィのスマホの通知音が鳴る。見ると、そつのない概要が記された企画書が届いており、参加の有無は二日の猶予でダンデまで、とある。
仕事なのか遊びなのか微妙なラインの調整に、さすがソニアさん、とユウリが目を輝かせると、彼女はロトムに向かってやわらかくほほ笑んでいた。
「ありがと、ダンデくん。来週よろしくね」
『ああ。あれ? ソニア、今日これから……』
「予定通りです。じゃ」
素早く通話を切ったソニアの耳が若干赤い。別に今更隠さなくてもなあ、と思いながら、ユウリはにこにことほほ笑んだ。
「さすがソニアさん、手際が良すぎます!」
「ふふん。思い立ったが吉日よ。どのくらい参加するかはわかんないけど、とりあえずダンデくんは確保してるから、当初の目的は達成できるよね」
ソニアの言葉に、ユウリとマリィはふたりそろって目をぱちくりとさせる。そうだ、この一連の騒動は、『ダンデの間の抜けた素の姿』を見るためのお膳立てだった。
ソニアのアイディアだが、どこまで上手くいくだろう。多少懐疑的ではあったが、それでもなにもしないよりはマシだろうし、なによりも『遊び』の予定は少女たちのこころを浮き立たせる。
にっこりとほほ笑みあって、ユウリとマリィはうきうきと来週を待ち焦がれた。
《恋する動詞111題》
#34.戯れる【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
