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#24.出会う【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】

2026/06/29 17:15
【お題】ダンデ×ソニア



 ダンデくんと初めて出会ったのは、プライマリースクールのころ。
 隣町のハロンタウンから通ってる、すごくきれいな金色の瞳の男の子に、私は一目で恋に落ちた。
 女の子のように可愛らしい見た目なのに、案外活発で、でも他の男の子たちのようにやんちゃで乱暴という印象はなく、常にどこかを飛び回っている、とにかく活動的な男の子だった。
 あとから知ったけれど、彼は無類のポケモン好きで、野生のポケモンを目にすると身体が勝手に走り出してしまうらしい。道を覚えるのが苦手で、よく迷子になっては大人に怒られていた。そんな時、しゅんと反省したように肩を落としては、すぐにポケモンを見つけて走り出す不屈の精神に、私はますます好意を抱いた。
 なんとかお近づきになりたいと、親にせがんで買ってもらったポケモン図鑑を読み込んで、共通の話題を探したこともある。
「ねえ、私もポケモン好きなんだ」
「えっほんとか? なにが好き? むし? ほのお? あく?」
「え? えーっと、ココガラ!」
「ひこうか! いいよな、カッコいいし、じめんタイプに強い!」
「うん!」
 実際のところ、彼がなにを言っているのかさっぱりわからなかったけれど、ふたりきりで楽しくおしゃべりできたということが、私のちいさな胸をこれ以上なく膨らませていた。
「好きなポケモンはなあに?」
「う~ん、いまはサッチムシ!」
「どんなポケモン?」
「えっと、ようちゅうポケモン? で、からだじゅうの毛でまわりのじょうきょうを感じとってる、って言ってた! しんかのしかたが『どくとく』なんだって」
「へえ?」
 ダンデくんが嬉しそうに教えてくれるけれど、やっぱりいまいちわからなかった私は、家に帰って図鑑で『サッチムシ』を調べて、むしタイプの洗礼を浴びた。そのころの私は、たいていの女の子と同じで虫は大嫌いで、むしタイプのポケモンもあまり得意ではなかった。
 でも、ダンデくんが好きって言うなら……と、健気にも図鑑を読み込み、極力画像から目をそらしながら必死で調べた情報は、未だに覚えている。サッチムシは、進化するとむし単体からむし・エスパータイプになるらしい。他にはあまり類を見ない、確かに独特な進化だった。
 ダンデくんは、活動的なだけじゃなくて、ポケモンにもすごく詳しくて、頭もよかった。学校の勉強はまあまあだったけど、自分の好きなことになると本当に集中して学ぶ。噂では、ブラッシータウンにあるポケモン研究所に放課後通っているとか言われてて、大人でも滅多に入れないその施設に、子供ながらに出入りを許されているなんて、本当にすごい、と思っていた。
 その理由を知ったのは、夏学期のハーフタイム休暇明け。
「ソニアです。よろしくお願いします」
 明らかに、この辺の子じゃない、とわかるきれいな発音。ふわふわと踊る黄昏の空のような髪の毛をくるりと結い上げ、やわらかい布地の上等なワンピースを着て、ちょこんと頭を下げた彼女に、クラスの子たちが一瞬ざわめいた。
 彼女は、一言でいえば『異質』だった。周囲は5~6歳児の集まりで、赤ちゃんに毛が生えた程度の秩序しかない中、ピンと背筋を伸ばして立つ姿は本当にきれいで、顔立ちや雰囲気だけじゃない、圧倒されるような気品があった。
 その時、ざわめきの後に訪れた、なんともいえない沈黙の中で、クラス中を驚かせるようなおおきな声が上がった。
「ソニア! こっちだ!」
 窓際の一番後ろの席から、ダンデくんの大音声が上がった。クラスのみんなは驚いたようにそちらを見やり、教壇の傍に立っていたソニアも、ぱちくりと猫のような目をまるくしていた。
「ダンデくん」
 その声が、あんまり嬉しそうだったから、私はそれにも驚いた。よろしくお願いします、と言った時の彼女は、子供ながらにツンと澄ましたお人形のようで、その気品に気後れを感じてしまったけれど、ダンデくん、と呟いた声の可愛らしさ、安堵したようなほほ笑みのやわらかさに、この子は同じ歳の女の子なんだ、と改めて気づかされて、私はなんだかドキドキと胸が苦しかった。
 ダンデくんはそのまま立ち上がって、素早く教壇の方へ駆け寄った。立ち尽くしていたソニアの手をパッと取って、ニカッと太陽のように笑う。
「ソニアの席、オレのとなり。行こうぜ!」
「うん」
 頷いたソニアが、嬉しそうに笑う。そのあまりの可愛らしさに、何人かの男の子たちはあっという間にまいってしまっていた。子供の印象なんて、そのくらいあっさりと激変する。『異質なもの』として警戒されかけていたソニアは、ダンデくんの隣で無邪気に笑う女の子として、素直に受け入れられた。
 ただし、上等なワンピースを着てよそ行きの雰囲気だったのは、その日の昼まで。お人形のような印象だった彼女は、ランチ休憩中にダンデくんと一緒に校外のポケモンを見つけて、そのまま追いかけていくというとんでもない無茶ぶりを発揮し、転入初日からあらゆる意味で話題になった。
 次の日、動きやすい格好をして髪をきっちり結い上げてきた彼女は、授業は真面目に受けるけれど、放課後はあっという間にいなくなり、ブラッシータウンやハロンタウンのそこここでダンデくんといっしょにいるところを目撃されていた。驚くのは、その行動半径。プライマリースクールの子供にしては半端なく広く、心配した大人たちががみがみと叱っても、ほとぼりが冷めたころにはまた、とんでもない場所で発見される。
 ダンデくんひとりだった頃よりも、格段に活発になったその行動理念は、徹底的にポケモンだった。
 ソニアは、ダンデくんと同じくらいポケモンが好きな女の子だった。その賢さは学校の勉強でも群を抜いていたけれど、ポケモンへの飽くなき情熱、探究心はいっそ病的と言ってもいい。なにせ、ダンデくんの突拍子もない行動に苦もなくついていって、泥だらけになっても傷だらけになっても、目的のためなら突っ走れるのだ。
 そんなふうに、まるでふたりだけの世界で生きているようなダンデくんとソニアは、でもクラスメイトとも良好な関係を築いていた。とにかくふたりとも、社交的で頭がいい。相手の懐に飛び込むような愛嬌と、子供同士の序列やルールを壊さない大人びた社交術を持って、周りに上手に溶け込む。
 でもやっぱり、ソニアの頭の良さは周囲から浮いてしまうほどで、もしもダンデくんがいなければ、彼女は『異質』のままだったかもしれない。でも、ダンデくんの天真爛漫な『異質』さも、ソニアの地に足がついた賢さのおかげで、悪目立ちせずに済んでいた。
 つまり、ふたりはあらゆる意味で『ニコイチ』だった。
 それが、6歳くらいから、10歳まで。毎日よく飽きもせず、ふたり一緒にいられるなあと、私をはじめとするダンデくんに初恋を捧げた女子たちはもちろん、ソニアに密かに恋をしていた男子たちも、呆れと諦めの境地で見守っていた。
 ただ仲がいい男の子と女の子だったら、周りはもっとやっかんだかもしれない。ふたりの間に割り込むような子や、つまらない嫉妬や諍いで、ちいさな田舎町のプライマリースクールは、もっと殺伐としていたかも。
 でも、ダンデくんとソニアは、ただ仲がいいわけじゃない。異常なくらい相性が良かった。その絆の真ん中には、ポケモン。彼らのすべてといってもいいその存在は、やがて本当に彼らの人生を変えてしまった。
 10歳のジムチャレンジは、私たちの周りにも挑戦する子供が多かった。有識者の推薦状が必要だから、誰でも叶えられるものじゃなかったけれど、ブラッシータウンにはポケモン研究所があり、そこの所長でソニアのおばあさまであるマグノリア博士は、見込みのありそうな子供、意欲のありそうな子供には積極的に推薦状を出してくれた。
 ソニアは、博士から。そしてダンデくんは、別の誰かから推薦状を出してもらい、彼らはブラッシータウン・ハロンタウンの期待を背負って旅に出た。
 そして結果は、ご存知の通り。
 あっという間にガラルで一番有名になったダンデくんは、その年にプライマリースクールをやめて、シュートシティへと引っ越していった。そして、ソニアもまた、スクールをやめて研究所に引きこもるようになった。
 クラスメイトと一緒に、心配になって彼女の様子を見に行ったことがある。ダンデくんと離れて、ソニアが元気でいられるのか、そのころの私たちは本当に危惧していた。
 出迎えてくれたソニアは、案外元気そうに笑いながら、チューター教育に切り替えたんだ、と言った。将来の夢が決まったの。だから、エンジン全開にしてるとこ!
 その、凛と伸びた真っ直ぐな背中が、「ソニアです。よろしくお願いします」と言っていた6歳のころを思い出させて、私は久しぶりに、彼女の美しさにハッと息を呑んだ。
 ダンデくんの隣で、泥だらけになって駆け回っていたポケモン好きの女の子は、ひとりでなにかに立ち向かおうとしている。もう、その手を引いてくれる男の子はいない。一人で立つソニアは、こんなにもきれいなのだと、私は改めて思い知った。
 それからは、ほとんど風のうわさ。
 同じブラッシータウンに住んでいても、学校が違えば会う機会もなくなる。そのうちに、ソニアは飛び級でナックルシティ王立アカデミアに編入し、ブラッシーを離れていった。
 私は順当にスクールを卒業し、親に頼み込んでエンジンシティのそこそこの大学に通い、たまにダンデくんの試合を見に行ったり、グッズを買ったりするためにバイト三昧の日々を過ごしていた。そのバイト先に見込まれて、卒業後の秋からシュートシティで初めての一人暮らしが始まった。
 ちょうど、ダンデくんの11回目の防衛シーズンが始まる時で、巷は盛り上がっていた。本当に久しぶりに、ダンデくんと近い場所で暮らすんだ、と、街の至る所で目にする彼の広告に感動しながら日々が過ぎて、半年後。
 新チャンピオンの誕生を、私は運よく当選したシュートスタジアムの観覧席から見守っていた。
 バトルコートの真ん中で、堂々と胸を張ってチャンピオンタイムの終了を告げたダンデくんは、十年間護り続けた玉座を降りてなお、人々の熱狂を浴び続けた。本当の意味でのチャンピオンタイムはまだ終わっていないのだと、私たちは願うように叫んでいた。
 そして時を同じくして、ソニアが最年少ポケモン博士として名乗りを上げた。
 ずいぶん久しぶりにその名前を聞いたな、と、遠い昔の旧友の快挙に胸を躍らせて、ニュースの中の彼女の、凛とした姿に懐かしさを覚える。彼女はいまも、ひとりで立っていた。その美しさが眩しくて、私はなんとなく泣きたくなった。
 それから、しばらくして。
 ダンデくんとソニアが、婚約したと報じられて。
「……はぁ~~~~!?」
 思わず大音声で叫んだ私は、隣にいた先輩に思いっきり頭をぶたれた。
「仕事中!」
「すっ、すみません!」
 ハッとして背筋を伸ばす。本日の業務は、ポケジョブでお仕事中のポケモンの査定でシュートシティ郊外にあるカフェへ来ている。派遣されたイエッサンたちが、テキパキと立ち働くさまをチェックしながら、私は横目で壁付けのテレビモニタを見やった。
 画面の中には、速報の文字。ポケモンリーグ委員長兼バトルタワーオーナーダンデと、ガラルポケモン研究所所長ソニア博士との婚約発表。……見間違い、じゃ、ない。
 ほとんど自動書記のようにモバイルにチェックしているわたしの隣で、先輩がきらりとサングラスを光らせながら小声で言う。
「なにおまえ、ダンデファンだっけ?」
「……ですぅ。強火自称」
「ご愁傷さま。しかし、相手ソニア博士かよ。ダークホースどころじゃねえな」
「はあ? いや、安パイすぎてびっくりしたんですけど」
「え? なんで? 噂になってたっけ?」
「いや全然。なんならジムリのルリナとか、ファン自称するモデルや女優の方が散々噂されてました」
「だよなぁ。ソニア博士って、何年か前に博士襲名する前までは、全然知らなかったし、俺」
「同郷なんで」
「え、お前そうなの? どこ?」
「ブラッシータウンです」
「あぁ、研究所そこだな。あれ? じゃあ、ハロンタウンの近く?」
「です」
「まさかダンデとも知り合い?」
「プライマリースクールで初恋泥棒してたダンデくんですか」
「げぇ、おまえマジか!」
「先輩、仕事中です」
 思いっきり冷たく意趣返しをした私は、先輩との雑談でようやく落ち着いた心臓をなだめるように、深く深呼吸をした。
 ……そう、まあ、安パイ。さっきは思わず叫んじゃったけど、それは単純にダンデくんが『婚約』したことのショックで……それも、相手がソニアだったらさもありなん、だ。
 これでソニアじゃなかった時の方がびっくりだよ。
 10歳で別れてから、彼らがどんな道を進んでいたのか、よく知らない。ソニアがナックルに行って、そのあとどこかの地方に留学した……まではなんとなく聞いてたけども、ダンデくんとずっと続いてたなんて、聞かなかったし。
 でも、それでも。
 あのプライマリースクールの記憶は、理屈抜きで、ダンデくんとソニアが一緒に生きる未来を納得させるほど強烈だ。
 そんなことを思い、とうに消え去ったはずの初恋の思い出と、現役でダンデくんを追っかけていたミーハーの自分との折り合いを付けながら日々を過ごしていた私が、数ヶ月後にテレビの画面越しに見た、ダンデくんとソニアの姿。
 大々的な婚約式の一幕が、華やかに流れる。落ち着いた笑みを浮かべながらも、喜びを隠しきれない様子のダンデくんの隣に立つ、ソニアは。
「……あ~あ、可愛くなっちゃってぇ……」
 美しく凛としたその姿の向こうに、ダンデくんの手を取って、泥だらけになりながら駆けていったソニアの幻が見えて、私は苦笑した。
 じゃあ、もう、しょうがない。
 ダンデ『くん』は、卒業しようかな。
 ソニアしか呼ばなかった、ダンデの呼称。なんだかとっても可愛くて、自分もそうなれたらな、の験担ぎのように真似をしていたその呼び方も、そろそろ潮時ね。
 おめでとう、ダンデ、ソニア。
 お幸せにね。



《恋する動詞111題》
#24.出会う【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】


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