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#23.弄ぶ【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
2026/06/27 14:43【お題】ダンデ×ソニア
「あぁ~、だんれくんだぁ~~」
見事に泥酔した状態のソニアが、イチゴのように熟れた顔でけたけたと笑っている。会員制の小洒落たバー、その奥にある隠れ家のような一室に、ダンデが遅れて到着した時の惨状だ。
「……どういうことだ」
いつになく低く抑えられた声音。良くも悪くもおおらかで、誰に対しても均一な『陽』の面しか見せないダンデの、地を這うような低音に、その場の面々はしかし気圧される様子もなく飄々としていた。
「どうもこうも、オマエの到着が遅いからだろぉ」
「おれたちが誠心誠意場を繋いでおいたっていうのに、感謝もないんですかね」
「わたしは止めたのよ、一応。でも、ソニアがグイグイ飲んじゃうんだもの」
「あの勢いは止められねぇよな」
キバナ、ネズ、ルリナと順繰り回り、キバナに戻って結論。そんな面々を呆れて眺め、ダンデははぁっとため息をついた。
気休め程度の変装のつもりか、深く被っていたキャップを脱いで、薄い色味のサングラスを外す。そのままのしのしと進み、ほとんどルリナにしなだれかかっていたソニアの反対隣へ腰を下ろした。
「ソニア、飲み過ぎだぞ。どれくらい飲んだんだ?」
「えぇ~……いっぱい!」
子供じみた笑顔で、ソニアが赤い液体の入ったグラスを掲げる。こぼさないうちにそれを受け取って一口すすると、上等だが度数の高いワインの味がした。
「……これを、一杯?」
「そぉ、いっぱい」
「つまり、数えきれないくらい?」
「ん~ふふふふ」
猫のように瞳を細めながら、ソニアがルリナの細い肩に身をすり寄せる。ルリナは涼しい顔でそれを受け入れながら、爪の先まで優雅な仕草でグラスを傾けていた。
「だいじょうぶよ、せいぜい3・4杯くらい。ソニアの限界はもうちょっと先」
ソニアのことならなんでも知ってるわよ、という無言の牽制を受けて、ダンデは鼻白む。どうやらルリナもそこそこ酔っているらしく、肩に懐くソニアの黄昏の髪を、これ見よがしに指に絡めてほほ笑んだ。
「でも今日は、ちょっと酔いが早いわね……誰かさんの愚痴が溜まっていたからかしら」
「愚痴?」
ダンデが眉を上げた。ソニアがこれほどストレスを溜めるほど、自分はなにかしでかしただろうか。
そもそも今日の飲み会は、恒例のシュートスタジアムにおけるガラル粒子測定作業の、エキシビジョンバトルの打ち上げだ。様々な状況や個体のダイマックス、キョダイマックスにおける粒子状況の調査のため、ジムリーダーをはじめとする上位ランカーが定期的に依頼を受けて協力している。
本日のテストトレーナーは、ダンデ、キバナ、ネズ、ルリナ。このメンツが仕事で集まる場合、高確率で飲み会が開かれ、そこにソニアも加わるのが最近のルーティンだった。
ダンデはルリナの肩にもたれかかるソニアの腕をグイと引き、彼女の身体を軽々抱き寄せた。ソニアはまるで芯の入らないぬいぐるみのように簡単にダンデに寄りかかって笑う。
「あぇ~、らんでくん、あついよぉ」
「水飲め、ソニア」
甲斐甲斐しく彼女の世話を焼くダンデを生ぬるく見やって、キバナとネズがにやにやとしている。ルリナはお気に入りのおもちゃを取られたように、むうっと不機嫌になって言った。
「ちょっとダンデ! ソニア返してよ」
「ルリナ、きみも飲み過ぎだぜ。水飲め」
「なによ……遅れてきたくせに、我が物顔でソニア持ってっちゃって……わたしの親友なのに……」
「ルリナもだいぶやばいな。そろそろお開きにするか?」
ぶつぶつと唸るルリナの様子に、ダンデは困ったように眉を寄せた。すると彼の対面から、堪えきれない笑い声が上がる。
「いやぁ、そうはいかねぇんじゃねぇか? ソニアちゃんもまだまだ愚痴言い足りねぇだろうし」
「そうだね、おれたちももうちょっと酒のツマミが欲しいです。タワーオーナー様の知られざる一面を聞きながら飲む酒はウマいからね」
「知られざる一面?」
悪友たちの含みのある言葉と視線に、ダンデはグイと眉を寄せた。さっぱり要領を得ない酔っ払いたち相手に、さてどうするか、と考えた瞬間、腕の中でおとなしくしていたソニアがぱっと勢いよく顔を上げる。危うく顎を弾かれそうになったダンデが慌ててのけぞった。
「どうした、ソニア?」
「らんでくんっ! きみに、いいたいことがあるぅっ」
酒臭い息を吐いたソニアが、ぐうっとダンデにのしかかる。チョロネコがたまにこうして膝に乗り、顔についたクリームやドーナツの粉を舐めてきたな、と、ダンデは場違いなことを思い出した。
「ソニア、わかったからちょっと落ち着け……」
「わかってない、わかってないよぉ! きみはなぁんにもわかってなぁい!」
至近距離でそう言って、ソニアは酒精に蕩けたエメラルドの瞳を細めた。
「だいたいねえ、きみは……なんてゆうか、手が速い!」
「は!?」
ぎょっとして思わず声を上げたダンデに、ソニアは難し気に眉を寄せる。専門的な理論を説明する時のような、明瞭な発音でこう言った。
「確かに、わたしたちは幼馴染で、長い付き合いがあって、その中ではかなり親密に過ごしてきて、いまさら恋人になったからって手を繋ぐとか、肩を抱くとか、そんなスキンシップじゃ代り映えはしませんよ。ええ、しませんよ」
「ソ、ソニア、待て」
「でもねぇっ! だからって、恋人になっていきなり一足二足、三足飛びってのはないんじゃないのぉっ? ダンデくん、きみは、いつからこんなにタラシになったのさぁっ」
「ソニアっ」
慌てたダンデがソニアを抱きしめて、無理やりその口を肩に押し付ける。苦しげにもがく彼女をそのまま拘束しつつ、ダンデはキバナとネズを見やった。
「……ずっとこのテンションか?」
「ずっとこのテンションだぜ」
「いやあ、楽しいね」
そう言ったネズが、テーブルに突っ伏して爆笑した。珍しい彼の奇態に、キバナも一緒になって腹を抱える。
「だっはっは! タ、タラシ……あのダンデが、タラシの称号を得たぜぇっ!」
「タワシの方がまだ信憑性があるね、そりゃ。言い寄るオンナをちぎっては投げちぎっては投げしてた、不感症疑惑まであった伝説のチャンピオンが、手が速いって……」
「くっくくく……キャラ変し過ぎだろ!」
悪友たちの遠慮のないからかいに、ダンデは不機嫌そうに唸る。彼の腕の中で、ソニアがメソメソと泣き始めた。
「うぅぅ、ひどぉい……だんでくん、なんでいじわるするのぉ……」
「ちょっとダンデ、ソニア泣かせないでよ! ソニアこっちにおいで」
「るりなぁ」
腕を広げるルリナへと、ソニアが甘えた声で応える。ダンデは一瞬嫌そうに眉をしかめてから、仕方なく彼女を解放した。ソニアは嬉しげにルリナへ抱き着き、ルリナも満足して彼女を抱きしめる。
「よしよし、いやぁね、男って乱暴で!」
「うん、ちからつよいんだよねぇ。ぎゅってされるとくるしいよねぇ」
「重いしかさばるし、場所取るし」
「あったかいしやさしいしあんしんするし、でもたまにこわいよねぇ」
「っ怖い? え、ソニアあなたなにされてるの?」
「えと……」
とろんと眠そうに瞬きをするソニアを、ダンデが再び抱き寄せる。腕の中から消えたソニアに、ルリナは抗議するように眉を吊り上げた。
「ちょっとダンデ!」
「待ってくれ。これ以上進むと、致命的な誤解が生まれそうだ」
「なによ誤解って! あなた、ソニアにひどいことしてるの? ソニアが可愛いからって、やっとようやく手に入れたからって、む、無理やり欲望をぶつけて、弄んで……」
「ルリナ、きみももう黙った方がいい……多分あとで流れ去りたいくらい後悔するぜ……」
「なによぉっ」
ぷうっとほほを膨らませたルリナは、けれどダンデの腕の中でいつの間にかすうすうと寝息を立てているソニアに気づき、ぽかんとする。
「あら。ソニア寝ちゃったの……? う~ん……じゃあ、わたしもちょっと……」
そう言って、ルリナがこてんとテーブルに突っ伏した。珍しく酔いの回っていたらしい彼女は、きっと三十分もすれば目を覚まして、理性の戻った頭で後悔したり恥ずかしがったりと忙しいだろう。
付き合いの長い友人の酒の席での失敗など、掃いて捨てるほど見てきている。だから今日も、特別ひどい醜態というわけではなかった。
……が。
「……おまえたちの誤解は早々に解いておいた方がいいと、オレの本能が叫んでるぜ」
ソニアを肩にもたれさせ、収まりのいい位置に落ち着かせたダンデが、ふう~っと重い溜息をつく。一連のやり取りに、すでに息も絶え絶えに笑っていたキバナとネズが、はぁはぁと喘ぎながら答えた。
「はぁ? 誤解? なにがだよ、いまさら言い訳しっこなしだぜ」
「いいじゃねぇですか、念願叶って恋人同士になって、いまが一番楽しい時でしょうよ。存分にいちゃつきまくったって、誰も文句は言わねぇよ。ただ、パパラッチにだけは用心しんしゃい」
「あ、あと避妊もな。順番間違えると、えらいことになりそうじゃねえの、ソニアちゃんちって」
「弟にも軽蔑されるったいね。あ~、うちのマリィも思春期やけん、気をつけんと~」
「アニキはツライなぁ」
「……その心配はだいぶ先だぜ」
「へ?」
ダンデの低い一言に、キバナとネズがきょとんと目をまるくした。ダンデはソニアの飲み残しのワインを一気に流し込んでから、据わった眼差しを向ける。
「オレとソニアは、順番を間違えるどころかまだ一番目で足踏みしてる」
「へ? いちばん?」
「一番……」
キバナとネズが間抜けな顔で呟くと、ダンデは自分の胸筋にすり寄ってきたソニアの髪にほほをつけ、はぁっとため息をついた。
「ああ。一番。ドレミのド、ABCのA、つまり現状まだヒトカゲだ」
「……えーと、ソニア博士の告白では、一足二足、三足飛びだって……」
「告白して一気にリザードンに進化したんじゃねぇの?」
「してない」
むすっとした声でダンデが言う。キバナはあんぐりと口を開け、ネズは低い口笛を吹いた。
「それにしちゃあ、ソニア博士の認識にだいぶズレがあったよね。あの言いようじゃあ、オマエは毎晩彼女を弄んで、黄色い朝日しか見せてないような口ぶりだったよ」
「朝日どころか、日付を超えたこともないぜ。現状、プライマリースクールでも表彰されるくらいの進捗度だ」
自棄になったようにすらすらと告白するダンデに、キバナはさすがに同情するように眉を寄せた。
「えぇ……確かオマエら、くっついてもう……」
ひぃふぅ、と指を折るキバナに、ダンデはそのくらいだぜ、と唸る。
「はぁ……いや、ヒトの色恋に口は出さねぇが……おまえら、あんだけ傍目にもいちゃついてて、そんななの?」
「いちゃついてるか?」
「自覚ないんか。いま、この瞬間もいちゃついてるだろうが」
ダンデのふかふかした胸筋にほほをすり寄せて、先ほどからソニアがくふくふと嬉しげに笑っている。彼女の細い腰を抱き寄せ、しっかりと拘束しているダンデのあからさまな独占欲に、キバナははぁっと息をついた。
「人前でもそんなだから、ふたりきりならさらにすげぇんだとばっかり思ってた」
「誤解だぜ」
「そんなら、一足二足、三足飛びってのはなんだ?」
キバナの問いに、ダンデはふむ、と眉を寄せる。それからぼんやりと宙を見上げた。
「……バードキス、ディープキス、軽いおさわりアリのキス……かな?」
「あぁ~」
意外と生々しい回答に、キバナは苦笑する。さすがにプライマリースクールは卒業してるじゃん、と軽口を言いかけて、はっと気づいた。
「おいまさか、ソニアちゃんの中ではそれが最終形態ってわけは……」
「え?」
「だからさ……ソニアちゃんって、生粋の箱入りお嬢様だろ? マグノリア博士の掌中の珠、若くしていくつも博士号を取得した才媛、つまり、下世話な下ネタなんかにゃ縁がない暮らしを送ってた」
「……」
「どうするよ、彼女が本気で、現状が最高到達点だと思ってるとしたら!」
「……!」
ざあっと顔を青くしたダンデと、ヒトのいいキバナが本気で焦り始めるのを横目に、ネズはやれやれと肩を竦める。
ポケモン博士とは、数々の道を究めた本物の逸材が得られる称号である。ソニアも当然、ポケモン学とは無縁の博士号もいくつか取得している。その中で、生物学……繁殖や生殖に関わる論文も著していたはず。
それでなくても、現代ガラルを生きる妙齢の女性が、まさか化石のような貞操観念で生きられると、本気で思っているのだろうか。
そんなことを考えながらも、いい感じに酔いの回ったネズは、焦りながら対策を考えている馬鹿二人を眺めながら、最高のツマミったい、と呟いた。
《恋する動詞111題》
#23.弄ぶ【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
