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#20.思い出す【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】

2026/06/21 16:08
【お題】ダンデ×ソニア


 *#19.寂しがるのダンデが帰宅した朝のお話です



「まあダンデ、あんたどこに行ってたの?」
 父親と一緒に牧場の柵囲いの点検から戻ったダンデに、母親が呆れたような声を上げた。
「とーさんと一緒に、柵の点検に……」
「あんた、ソニアちゃんとの約束忘れてるでしょ」
「……あっ!!」
 一気に思い出して、ダンデがさあっと青くなる。昨日、スクールの帰り道に本日の遊びの約束を取り付けていた。しかも、ソニアお手製のお菓子をお土産にくれるという、飛び上がって喜ぶほど楽しみな約束だったのに、夜中に吹いた春の嵐で牧場の囲いが心配になってしまい、朝食もそこそこに父親と飛び出していった。
 愕然としている息子を見やって、母親が片眉を上げる。そのまま、父親の方へと視線を向けた。
「しかもお父さんったら、スマホロトム忘れていったでしょ」
「すまん、ちょっと見るだけのつもりだったけど、北の丘の方が結構壊れてたもんだから、修繕に夢中になっちまった」
「もう。連絡取れなくて困ったのよ。次は忘れないでね」
「ああ、わかったぜ……ところで、お姫様は怒って帰っちゃったのかい?」
 傍らでショックに固まっている息子のちいさなつむじを見やり、父親は困ったふうに眉を寄せた。母親はちょっと意地悪そうに目をすがめ、それからふっとほほ笑む。
「いいえ、ダンデの部屋で待ってるわよ。母さんが謝っておいてあげたけど、あんたもきちんと……こらっ、ダンデ、手を洗いなさい!」
 母親の言葉に、一目散に階段を駆け上がっていこうとした息子の襟首をむずと掴み、洗面台へと連行する。ダンデは足踏みをしながらシャボンを泡立て、丁寧に、けれどできるだけ早く手指を洗った。
「はいっ、もういい、かーさん!?」
「……ハイ、よろしい。じゃあ次は、汚れた繋ぎをこれに着替えて」
「えっ」
「そんな泥だらけの格好で、ソニアちゃんと遊ばせられないわよ! ホップにだって近寄れないでしょうが」
「あああ」
 言われてダンデは自分の格好を見下ろし、泥や草まみれになっていることに慌てた。その様子は、幼いながらも懸命に父親の仕事を手伝った証左なのだが、いまはとりあえずそれを褒めるよりも、身なりを整えさせる方が息子のためになる。
 なにせ、一秒だって早く、ソニアに会いたいだろうから。
 そんな母親の計らいで、服の替えを一式用意されていたダンデは、あっという間にそれに着替えた。興奮で赤くなったほほを上向かせて、母親に問う。
「もういい? もう行っていい!?」
「……よーし、行け!」
 まるでポケモンに号令をかけるように、母親が鋭く指を差す。その途端、ダンデは弾かれたように階段を駆け上がり、残された父親は呆れた顔で笑った。
「一途なやつだなあ」
「あなたに似たんでしょ」
 悪戯っぽくウインクし、母親は父親のために軽食を用意するべく、キッチンへ向かった。
 ダンデは階段を駆け上ると、息を弾ませて自室へ入っていった。おおきな声でごめんソニア! と謝る前に、ふわふわとした黄昏の髪が、自分のベッドの上に寝転がっているのに気づいて、慌ててブレーキをかける。
「……はぁっ……」
 吸い込んだ息をそっと吐きだして、ダンデがベッドへ歩み寄った。見下ろしたそこには、すぅすぅと寝息をこぼして瞳を瞑るソニアと、彼女に抱かれた幼い弟が、天使のような寝顔で並んでいた。
 ダンデはその光景に、むやみに嬉しくなる。大好きな幼馴染と、大好きな弟が自分のベッドでまるくなって眠る、その穏やかな光景がちいさな胸に永遠に焼き付いた。
 その時は幼すぎて、その感情の源がなんなのか、気づくことはなかったけれど。
 正体もわからなかったその気持ちは、いくつ歳をとっても、どれほど環境が変わっても、少しも翳らずダンデの胸に刻まれ続けて、そうしてようやく、その答えを知った時、彼の傍らには幸運にも、同じ顔をして眠る幼馴染の女の子がいてくれた。



「……ただいま、ソニア」
 自分のベッドで眠るソニアに、ダンデはやわらかく囁く。彼女の腕の中で眠るミブリムが、その声にそっと触角を上げ、ダンデを認めて嬉しそうに鳴いた。
「みゅぃぅ」
「ただいま、ミブリム」
 しぃ……とくちびるに指を立て、ダンデはちいさくちいさく言って、ソニアの寝顔を確かめた。幼い頃、完璧に彼を嬉しくさせた彼女の存在が、変わらずここにある幸運に、じんわりと胸が暖かくなる。
 起こさないようにそっと、ダンデがベッドの端に座る。少しだけ沈んだマットの揺れに、ソニアが無意識に顔を向けてくちびるを開いた。
「ん……ぅ」
 それと同時に、ミブリムを抱いていた手がぱたりと外れる。ミブリムはもぞもぞとそこから抜け出して、ダンデの膝へとよじ登った。
 自分に懐く未進化ポケモンに、ダンデは蕩けるほど優しくほほ笑む。それから、そのおおきな手でミブリムを包み込み、目の高さまで持ち上げた。
「ソニアと一緒だったから、寂しくなかったろう?」
「みぃ」
「……その顔は、否定してるな? うーん、ソニアがいるから大丈夫だと思ったが……」
「みゅ、みゅい」
「……もしかして、ふたりして寂しかった?」
「みゃ!」
 ぺち、と嬉しそうにミブリムの触角がダンデの顎を撫で、ふわふわと揺れた。ダンデはミブリムの頭にそっとキスをして、寝室の扉あたりで様子を窺っていたリザードンを振り返る。
「リザードン。このお姫様を、みんなのところにエスコートしてくれ」
「ぎゅあ」
「オレは、オレのお姫様が起きたら行くぜ」
 柄にもない睦言を楽しげに囁いて、ダンデはリザードンにミブリムを託す。ミブリムは少しだけ不満そうに触角を揺らしたが、眠るソニアを見つめるダンデの様子を見やり、仕方なさそうにまるくなった。
 リザードンとミブリムが出ていくと、寝室の中に再び静寂が訪れる。ソニアの穏やかな寝息が届くそこで、ダンデは出張の疲れを癒すべく、そっと彼女の傍らに横たわった。
 あの日――8歳のダンデも、同じように幼馴染の傍らに寝転んだ。ふわふわの黄昏がほほをくすぐり、彼女のやわらかなくちびるがすぅすぅと呼吸するさまを、まるで珍しいポケモンの挙動を眺めるように興味深く、また真剣に見つめながらダンデは囁いた。
「――ソニア」
「……んぅ……」
「起きて……ソニア」
 囁きながら、けれど本当は、彼女の目が覚めなければいいと願う。ずっとこのまま永遠に、自分のベッドに横たわる彼女を見ていられれば、それはなんて幸せなことだろう。
 どうして『そう』思うのか、8歳のダンデにはわからない。
 けれど、23歳のダンデには、己の気持ちの根源が、痛いほど理解できていた。
 自分のベッドで安心したように眠る彼女を、この世のなにからも隠してしまいたい。
 横暴なほどの独占欲に、ダンデは我ながら苦笑した。
「――ソニア」
 傍らに眠る彼女の白いほほに、指先を触れさせる。久しぶりに触れる彼女のあたたかさ、やわらかさに、ひどく胸が高鳴った。
 自分の寝室で眠る彼女は、本当に、何度見ても飽きない。目にするたびに新鮮な幸福感に溢れ、我ながら恐ろしいほど満たされる。
 それからダンデは、8歳の己には決してできなかったことをした。
「……」
 眠るソニアのくちびるに、そっと自分のそれを重ねる。触れるだけのキスは、羽根のように軽くやわらかで、疲れ切ったダンデの心身を癒す甘露だった。
 幼いあの頃――ソニアに対する親愛の情、他とは違う圧倒的な好意と尊重、それらにつける名を知らず、それに伴う衝動も知らなかった頃。ダンデはただ、ソニアの存在を感じて横たわることだけで、すべてが満たされていた。
 それが、いまでは。
「……ソニア、おはよう」
「……はよ」
 甘く蕩ける眼差しに、ソニアは胡乱に応える。羽根のようなくちびるが顔中に降ってきて、さすがに眠り続けられなかったのか、彼女はしばしぼんやりと薄目のままダンデのキスを浴びて、それからハッと覚醒した。
「……っ、ちょ、ちょっとダンデくんタンマ! 寝起きだからっ寝起きだから!!」
「知ってる、おはよう」
「おはよう、じゃなくて、あのねぇ寝起きの女の子はめっちゃデリケート案件!! 至近距離禁止、接触禁止、スキンシップ禁止ー!!」
 ぐいぐいと腕を突っ張って、ソニアが叫ぶ。ダンデは顎を押さえつけられたまま、不満そうに唸った。
「だって、ソニアがオレのベッドで寝てたから」
「それはごめんねっ! 夜中にミブリムが寂しがっちゃって……」
「ソニアも寂しかった?」
「ぎゃあああっ!! やめて、寝起きで、夜の声出すのやめてぇっ!」
「夜の声ってなんだ」
「うるさいっもう、やだぁ、シャワーくらい浴びさせてぇ……」
「えっ、シャワー浴びたら触っていいのか?」
「そぉいう意味じゃない!! もぉぉぉっ……!」
 ブランケットの中に潜ったソニアが、ばかばかばか、と涙声で訴える。彼女の乙女心を破壊しつくした恋人は、心底遺憾と言いたげに眉を下げた。
「すまない、ソニア……だけど出張から疲れて帰ったら、自分のベッドに恋人が眠ってるなんてシチュエーション、興奮するなって方が無理な話だぜ……」
「うっ、それはごめん……だ、だけどダンデくん、帰ってくるの早いじゃんかぁ……。ちゃんと起きて、待ってる予定だったんだよぉ」
「ソニアとミブリムが気になったから、朝イチの便で帰ってきたんだ」
「はぁ……連絡してよぉ」
「すまん。まさかソニアがオレのベッドで待っててくれてるとは思わなくて」
「もぉっ! それはもういいの!」
「ソニア、顔を見せてくれ」
「断る! 寝起きだってば、無理に決まってる!」
「……8歳のころは、寝起きでもかまわず笑ってくれたのに……」
「そりゃあねあの頃はピッカピカのお肌でしょぉ! って、あぁもう、なんの話だよぉ……」
 ブランケットにまるまって、心底情けなさそうに呻くソニアの塊に、ダンデは堪えきれずにクックッと笑った。
「わかった……じゃあせめて、オレがこの部屋を出て、きみの身支度が終わったら、改めて抱きしめさせてくれ」
「へぁっ!? や……いや、それは別に……いまさら断らなくてもさぁ……」
 ビクンと揺れた塊の中で、ソニアの恥ずかしそうな声が震える。ダンデはそんな彼女をブランケットごと抱きしめて、熱を吹き込むように囁いた。
「断らなくてもいいのか? なにしても怒らない?」
「なにしてもって……なんだよその、詐欺みたいな念押しぃ……」
「出張から疲れて帰ったら、自分のベッドに恋人が眠ってるシチュエーションでは、さすがにオレも念を押したくなる」
「だぁぁぁぁ」
 くるみこむダンデの熱から逃れるように、ソニアが情けない奇声を上げた。
「はいはいっ悪かったね! そうね、そんなシチュエーションじゃあ浮かれるのもしょうがないねっ! わたしが悪ぅございましたっ、なにしても怒らないわよ、ばか!」
「嬉しいぜ、ソニア。じゃあ、あとでな」
 あっさりと言質を取ったダンデが、軽やかに笑ってソニアの塊にキスを落とし、ベッドから立ち上がった。スプリングの揺れに合わせて、くぐもったソニアの呻き声が続く。
 その声を背中に聞きながら、ダンデは上機嫌に寝室を出ていった。



《恋する動詞111題》
#20.思い出す【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】




【恋する動詞111題☆★#1~20お気に入り投票】
お題も20作達成いたしました!
ダンソニお題でお気に入りのお話などありましたら
是非教えてください🫶💕

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