challenge
#19.寂しがる【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
2026/06/19 16:57【お題】ダンデ×ソニア
折り入って相談したいことがある。
神妙な顔でそう言われた時、ソニアはむやみに不安になった。
ダンデがソニアに相談するなんて、滅多にない。ポケモンについての質問や、専門知識が必要な業務の依頼などは日常茶飯事だが、基本的に彼は、即断即決トップダウンの男なので、事前に相談するというステップを平気ですっ飛ばす。
そんなダンデからの、相談。これに慄かないわけがない。
というわけで、戦々恐々でダンデのペントハウスにやってきたソニアだったが、出迎えたのはいつもの手持ちの面々ではなく、ダンデの腕にちょこんと抱かれた愛くるしいおだやかポケモン。コロンとまるいフォルムのミブリムが、恐る恐るこちらを見ていた。
「えーっ、かわいい! どうしたの、その子?」
パッと表情を明るくしたソニアが問うと、ダンデは逞しい二の腕にうずもれるミブリムを見下ろして、やわらかく言った。
「バトルタワーのレンタルポケモン候補生だ。訳あって、オレが初期の育成を担当しているんだが……ミブリム、どうだ?」
「みぃ……」
細く響く鈴の音のような声が、ミブリムの口から漏れる。それからおずおずとダンデを見上げ、もう一度ソニアを見やり、なにかを確かめるように頷いた。
「そうか! よかった、これで一安心だ」
「へ? え、なに? 話が見えないんだけど」
「ああ、すまん。いま説明する。その前に、この子を抱いてくれないか」
「ん? この子を? そりゃ構わないけども……お嬢さん、こちらに来ていただけますか?」
おどけたように笑って、ソニアがそっと手を差し伸べる。驚かせないように、ゆっくりと一歩近づいたソニアの白い手を見つめて、ミブリムはちょっとためらったあと、恐る恐るそちらへ触角を伸ばした。見ようによっては腕にも髪の毛のようにも見えるそれをそっと抱き寄せて、ソニアはちいさな未進化ポケモンの愛らしさにメロメロになる。
「や~、かわいいねえこの子……懐っこい。こんにちは、はじめまして、ソニアっていいます。よろしくね?」
「みゅぃ」
「あはは、お返事したよ~賢い子だ。……ん? なに、ダンデくん」
ソニアとミブリムの一幕を見つめていたダンデが、にこにこと嬉しげに笑っている。その反応を訝しんだソニアが短い眉を寄せると、ダンデは爽やかにこう言った。
「ソニアに、一週間ほどこの子を預けたい。頼む!」
「へ?」
いきなりの懇願に目をまるくしたソニアだったが、そのあときちんと説明された経緯は、要するにこういうことだった。
バトルタワーのレンタルポケモン育成は、基本的に専門のスタッフが担っている。けれど、バトルジャンキーのダンデは定期的にレンタル部門の候補ポケモンに面通しし、見込みのありそうなポケモンを鍛えたり育てたりすることを一種の息抜きにしていた。
先日新たな候補としてやってきたミブリムは、あまりにも感受性が強く、ほとんどのスタッフにこころを許すことはなかった。そもそもがヒトの感情に聡く、育成が難しいとされるミブリムだったが、その中でもことさらに扱いづらいかのじょを、スタッフは適正なしと判断したが、たまたま面通しに来たダンデがその素質を見抜き、初期の育成を買って出たという。
「この子は、確かに育てにくい。複数のトレーナーにレンタルされる環境には一見して向かない。だが、裏を返せばそれほど人間の感情に聡く、親和性が高いんだ。レンタルポケモンとして、最も適した能力だと言える。きちんと育成し、進化させれば、最高のバトルパーティーになれるぜ」
「なるほどねぇ……」
その説明に頷くソニアの膝では、ミブリムが安心したようにすぅすぅ寝入っている。ソニアはそんなかのじょの頭を優しく撫でながら、それで、と続けた。
「なんでわたしがこの子を預かるってことに?」
「明後日から一週間、オレに出張の予定が入ってるのは覚えてるか?」
「うん。国際チャンピオン親善事業で、カントーに行くんでしょ? ユウリのサポート役と、リーグ委員長として」
「ああ。だが、この子がタワースタッフにさっぱり懐かない。かといって、まだ育成途中のかのじょを、他地方に連れていくわけにもいかず……最後の望みで、ソニアに来てもらったわけだ」
「いやいや、なんでわたしが最後の望みよ。わたしにこころを開いてくれる保証はなかったじゃん」
「だが、ご覧の通りだろ?」
そう言って、ダンデが自信満々に笑う。ソニアは自分の膝で眠るミブリムを見下ろし、不思議そうに小首を傾げた。
「まあ……確かに。でもなんで? スタッフさんじゃダメで、わたしならいい理由は?」
「それはオレにもさっぱりだ。ミブリムにしかわからない理屈だと思うぜ」
「わからないのに、わたしを当てにしたんかい」
「まあな」
臆面もなく胸を張るダンデに、ソニアは呆れたようにため息をついた。それから、バッグの中にいるスマホロトムへ声をかける。
「ロトム~。スケジュール開いて」
《了解ロト~》
ふよんと浮き上がったロトムがアプリを開く。ソニアはそれを確認して、いくつかの業務をすいすいとスワイプさせると、うん、とちいさく頷いた。
「差し迫った業務もないし、なんとかなりそう。いいよ、この子を一週間預かりましょう」
「助かる。なにかあった時のフォローは、タワースタッフにも依頼しておくぜ。それで……できれば、ここで預かってほしいんだが」
「ここ? って、ダンデくんちに泊まるってこと?」
「ああ。ここならタワーに近いからフォローも行き届くし、ミブリムの生活圏をいきなり変えるのは不安があるんだ。頼めないか?」
眉を下げるダンデに、ソニアはやれやれと肩を落とす。頼んでる体をして、もはや決定事項なのはご愛敬だ。
「しょうがないなあ……研究所はホップに任せて、わたしはリモート対応するか。わかった、ここでミブリムのお世話をして、ダンデくんの帰りを待ってるよ」
「ありがとう、ソニア。本当に助かったぜ!」
「はいはい。そのかわり、お土産たくさん買ってきてよね~」
「任せてくれ。現地スタッフのおすすめ商品を総ナメするぜ」
「あ、常識の範囲内でお願いします」
そんなやり取りをしたのが、八日ほど前。
ダンデの出張前日に、一週間分の荷物を持ってペントハウスにやってきたソニアは、珍しく相棒のワンパチを伴っていなかった。ミブリムの反応を慮り、極力ストレスを与えないようにと配慮した彼女に、ダンデはすまなそうに言う。
「ワンパチにも、高級フードを土産に買ってくるぜ。オレの手持ちの中では、ゴリランダーとオノノクスがこの子と相性がいいようだから、護衛がてら置いていく。基本は、かれらもミブリムの面倒を見てくれるはずだ」
「オッケー。心強いわ」
そうして、三体のポケモンと一緒にダンデのペントハウスで留守番をすることになった。
はじめは少し不安だったソニアだったが、初対面の時と同様不思議と彼女にこころを開いてくれているらしいミブリムは、おおきなトラブルもなくソニアとの共同生活に馴染んでくれた。手持ちの中でも特に穏やかな気性のゴリランダーと、面倒見のいいオノノクスにもよく懐き、話に聞いていたほど気難しい印象もなく、日々が流れる。
けれど、その平和も三日四日と日がたつほどに怪しくなり、徐々にミブリムの様子が変わっていった。そわそわと落ち着きがなくなり、夜になると玄関の方へ行ってじっとなにかを待っている。ダンデがかのじょのために用意したおもちゃを抱きしめながら眠る姿は、なんともいじらしく哀れを誘う。
少しでも気を紛らわせようと、ソニアはダンデの映るポケモンバトルの映像や、出演番組などを引っ張り出して日がなミブリムに見せていた。彼の匂いの残る衣類やシーツ、愛用の運動器具などと戯れさせたり、どうにかダンデの影を追いながら、迎えた帰宅前日。
ソニアの眠るゲストルームの扉の向こうから、か細い声が届いた。
「……みゅぃ……」
その声に気づいて、ソニアがそっとベッドを抜け出す。扉を開くと、案の定すぐそこにいたミブリムが、心細げに見上げてきた。
「どうしたの? 眠れないの?」
「みぃ……」
「そうかぁ……寂しくなっちゃったかな?」
優しく言って、ソニアはそっとミブリムを抱き上げた。まだまだ甘えたい盛りのちいさな未進化ポケモンは、ダンデによって本格的に育成される前の、ヒトに慣らしている段階だった。
この時期の性格形成・トレーナーとの信頼構築は、その後のバトルパーティーとしての能力におおきく関わる、とソニアは思っている。ポケモンをただの『駒』として扱うトレーナーも少なくないが、そういった人間が、バトルで名を成すことなどほとんどない。
ポケモンの種族値や能力、持って生まれた特性にはとどまらない、トレーナーとの見えない絆が勝敗を分けるシーンを、ソニアは何度も目にしている。ポケモンと人間との関係は、それほどに大切なのだ。
だから、そんな大事な時期のポケモンの育成に、自分を頼ってくれたことが、ソニアには嬉しかった。ダンデの不在を埋める役割に、応えられることが嬉しい。
やわらかくミブリムを抱きしめながら、ソニアはそっとゲストルームを抜け出し、回廊を進む。リビングとは反対の角を曲がり、奥にあるダンデのベッドルームへと向かった。
主不在のその部屋をそっと訪い、ソニアは真夜中の静謐な空気に混じる彼の匂いに胸を膨らませる。おおきなキングスサイズのベッドの他は、いっそ閑散としている飾り気のないそこは、手持ちたちが甘えて眠りに来ることも考えて、極力インテリアを排除していた。
ソニアはミブリムと一緒に、おおきなベッドの端に座る。膝に乗せたかのじょが、窺うようにソニアを見上げた。
「……ここはダンデくんでいっぱいでしょ? 寂しくないよ」
「……みぃぅ」
ふるる、とミブリムが震える。まるで否定するように身体を揺らすかのじょに、ソニアは穏やかな眼差しで苦笑した。
「……そっか、そうね。かえって寂しいね……」
言いながら、ソニアはダンデのベッドに倒れこんだ。ぽすん、とやわらかなベッドマットがソニアを受け止める。その反動で、ちいさなミブリムがわずかにジャンプし、みゅっと鳴いた。
「あは、ごめんごめん。おいで」
ミブリムを引き寄せて胸に抱き、ソニアは静かに目を閉じる。
もうすっかり馴染み深い、ダンデの寝室。何度も訪れ、何度も朝を迎えたそこに、ダンデ本人がいないことは初めてだ。
そう思い、ソニアは静かに嘆息する。
「――移っちゃったよぉ、ミブリム……」
ダンデと恋人になってから、これほど長く離れていたのは初めてだ。たかが一週間、されど一週間。幼馴染時代は、もっともっと長く、それこそ年単位で離れていたというのに、たったの数日でこれほどダメージがあるとは思いもしなかった。
ダンデからミブリムの世話を任された時は、ただ嬉しく誇らしく、彼の期待に応えたいと、それだけだったのに。
ダンデを求めて鳴くミブリム。
その気持ちに引きずられたか、ソニア。
我ながら情けなくなって、ソニアはくるんとまるまる。胸に抱いたミブリムを抱き込んで、もぞもぞとベッドにかかったブランケットをめくり、そこへもぐりこんだ。
馴染み深い香り。ダンデの匂い。ミントのように爽やかで、草いきれを思い起こさせる、懐かしい匂い。
「……寂しい、ね」
「みぃ」
「明日、帰ってくるよ」
「みゅ……」
「帰ってくるからね、だいじょうぶ……ここに、かえって、くるからね……」
うたうように、ささやかに。
ソニアの低い声音が、夜のしじまに溶けていく。
そうしてふたり、闇の中。寂しさを分け合うようにして、眠りに落ちていった。
《恋する動詞111題》
#19.寂しがる【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
【恋する動詞111題☆★#1~20お気に入り投票】
お題も20作達成いたしました!
ダンソニお題でお気に入りのお話などありましたら
是非教えてください🫶💕
