challenge

#18.触れる【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】

2026/06/17 17:53
【お題】ダンデ×ソニア



 出会ったのが5歳。毎日一緒に遊び回って、時には何日もどちらかの家に泊まりこんで入り浸って、もはや家族ですか? ってくらい濃密な時間を過ごした、幼馴染。
 10歳の時なんか、国中を旅するジムチャレンジに一緒に挑戦して、べったりと毎日過ごした。なんてったって稀代の方向音痴。ちょっと目を離した隙に、まさに生死を分かつような方角へ突き進んでいく彼を、必死に軌道修正していた日々。そこはもうちょっと反省と感謝をしてほしい。
 でもそのあとは、まったく。住む場所も、環境も、立場も変わってしまって、わたしたちは共に過ごした数年間が嘘のように、突然会えなくなった。
 それでも細々と、本当に細く脆いつながりが、奇跡のように保たれて。わたしが留学で他地方に移り住んでからも、ダンデくんがどんどん防衛記録を重ねてガラルを熱狂させていく間も、完全な『別離』は訪れず、思い出したように繰り返される電話と訪問が続いた。
 だから、知らなかったとしても仕方がない。
 たった数年、5歳のころから親密に過ごしていたからといって、相手のすべてを知り尽くしていた、なんて、もちろん言えない。むしろ、思春期からいままで、一緒にいられた時間なんてほとんどないわけで、そんな状態で『ダンデくんのことはたいてい知ってます』なんて、言えるはずもない。
 ……けど。
 さすがにこれは、知っていればよかったなあ、と思う。
「……ダンデくん」
「……ん? ……あ、悪い」
 ぼーっとテレビを見ていたダンデくんが、わたしの声にようやく気付いたように、はっと手をどけた。いつの間にかわたしの肩に触れ、髪に触れ、それを我が物顔でいじっていた指が、あっさりと離れる。
 彼と一緒にいる時間が劇的に増えて、その呼び名も『幼馴染』から『恋人』にシフトチェンジして数週間。なんとなくそわそわと、収まりの悪かった関係にもわずかに慣れて、ようやく少しは落ち着いていられるようになったかな、と思い始めたころに気づいた、彼の癖。
 ダンデくんは、触り魔だ。
 こんなこと、幼い頃は気づかなかった。距離はめちゃくちゃ近かったし、どちらかといえばスキンシップは多かった(なにせ、常に手を繋いでいないとすぐに迷子になる)から、いま急にべたべたし始めた……という印象ではないんだけども、でも、その触り方というか、頻度というか……とにかく、すごい。
 例えばいまは、わたしは持ち込んだ仕事の関係でひとりでダイニングテーブルにモバイルと資料を広げ、ちょっとだけごめんね、と謝りながらも小一時間過ごしていた。取り急ぎメールを送らなければいけない案件に追われて、恋人との時間を削ってしまったのはわたしが悪い。
 でもダンデくんはあっさりと頷いて「テレビは見ていいか?」「いいよ」なんて、かる~く受け流し、リビングに鎮座するでっかい埋め込みモニターいっぱいに、先月のスタートーナメントの全試合を流して見ていた。そうすると、ふたりとも集中するもんだから、一切言葉も交わさず。久しぶりの逢瀬としては、なかなかに淡白だ。
 もちろん原因はわたしで、週末に仕事を切り上げられなかったスケジュールミスである。それを猛省しながら、爆速で作業を終了し、ふう、と息をついたのが、十五分前。
 怖いくらい真剣に画面を見ているダンデくんの背中に、一応声をかけた。
「ダンデくん、紅茶飲む?」
「……ん」
 おお、反応が返ったぞ。と、非常に低いハードルを喜び、わたしはさっさとキッチンへ向かった。電子ケトルですぐにお湯が沸いて、丁寧な蒸らし時間を経た紅茶を、ふたつのおおきなマグカップになみなみ注いで、ソファへ向かう。
 ローテーブルにカップを置いて、ワンパチがまるくなって眠る反対側の隣に座った。L字ソファの短辺、たくさんのクッションがあって、倒れこむと心地よく眠れる方。
 でもとりあえず、ダンデくんと肩が触れるか触れないか、くらいの距離に座って、カップを傾けた。ダンデくんは画面から視線をそらさずに、爛々と輝く金の瞳を見開いている。過集中。わたしも仕事の時、こんな顔してたら怖いなあ。
 そんなことを思いながら、もうひと口紅茶を飲んだ。その時、画面の中でルリナのグソクムシャのわざが鮮やかに決まって、大歓声があがる。すると、隣から伝わるブルリとした興奮。ちいさくくちびるを開いて、ダンデくんはめまぐるしく脳味噌を回転させているように集中していた。
 これは長引くなと理解し、テーブルにカップを乗せて、さて、と思う。夕方まで時間があるし、今日はデリバリーにしようと思ってたから準備もいらないし、持ってきた本は読み終えちゃったし、ワンパチもリザードンたちもみんな寝てるし……暇だな。
 トーナメントが終わるまでの時間をどうやって潰そうかと考えていたわたしの肩に、その時おおきな手が回ってきた。
「わっ」
 あっけなく引き寄せられ、その身体に体重を預ける。ダンデくんは爛々と輝く金の瞳を画面に向けたまま、こちらをちらりとも確かめずに肩を抱いて、なんのフォローもない。
 ……こういうことは、実はしょっちゅうだ。
 なにかに集中した時のダンデくんは、手持無沙汰なのかなんなのか、傍にあるものを引き寄せる傾向が強い。大抵それは、リザードンや彼の手持ちが多いけど、わたしがこの家に気軽に来るようになってからは、その距離の近さからかこちらに手を伸ばしてくることが圧倒的に増えた。
 最初は、付き合いたての緊張感や関係性が変わったことへの警戒心、恥ずかしさ、ちょっぴりの期待……なんかがない交ぜになって、大袈裟なくらい驚いていたけども。
 ダンデくんの触り方は、そりゃあもう、びっくりするほど健全だった。
 健全じゃない触り方に詳しいわけじゃないけども、さすがにこれは違うな、と初手からわかった。ダンデくんはわたしに触り、抱き寄せ、髪に触れ、ほほに触れ、なんだかんだと好き勝手振舞うけども、それは全くの無意識、もっと言えば性的なものなんか欠片も見えない。恋人同士の甘さですら皆無。
 いわゆる、『ポケモンの体調や精神状態をチェックしよう』の触り方、だ。
 毛並みチェック、肌質チェック、体温、発汗、表皮の確認……そういう作業。それを、人間の、ましてや妙齢の女性、ついでに言えば恋人になりたてほやほやの相手にも平気でできてしまうのが、ダンデくんのダンデくんたるゆえんである。
 もちろんわたしは抗議した。なんの下心もないとはいえ、勝手に触るのは失礼だよ、ダンデくん。そんなふうに言うわたしに、彼はいつでも心底申し訳なさそうに眉を下げる。ごめんなソニア、無意識なんだ。きみが隣にいると、つい、安心してしまうんだ。
 この言葉を、殺し文句だと認識してないのが怖い。
 そしてそう言われてしまうと、戸惑いよりも喜びの方に振り切れちゃう、わたしのちょろい恋心も怖い。
 かくして、何度かのツッコミと反省を繰り返しつつ、悪気のない悪癖はとうとう、ぬるっと市民権を得てしまった。強く言えないわたしが悪いのか、本気で改めようとしないダンデくんが悪いのか……結局受け入れてしまうわたしが負け越しだな。くそう。
 そんなふうに感じながらも、やっぱり恋人に触れられるのは無条件に嬉しい。
 幼馴染時代も距離が近かったし、スキンシップは多い方だったけど、思春期からこっちは、物理的にも精神的にも距離が開いて、挨拶のチークキスすら省略してしまっていた。道案内の時の手つなぎは平気だったけど、それ以外の触れ合いは、自覚してしまった恋心が邪魔をして、素直に受け入れられなくて。
 だから、晴れて恋人同士になって、こんなふうに距離が近づいたのは単純に嬉しい。まして相手になんの意図もなく、性的な緊張感や甘い雰囲気を一切感じさせない触れ合いは、実はわたしの精神衛生上もとても快適だった。
 お互いの気持ちを確認して、何度かキスはした。子供のおままごとみたいな触れ合いから始まって、懐かしさにはにかんで笑い合いながら、少しずつ、ちょっとずつ、相手の領土を侵し、自分の陣地を明け渡すようなキスを、手探りで繰り返す。
 そしてその合間に、こんなふうに情緒のない触れ合いを重ねて、わたしはようやく、その熱に慣れてきている。
 ダンデくんのおおきな手のひらが肩を滑り、わたしの髪に触れた。ふわふわと癖のあるやわらかい毛質が好きなのか、長い指に絡めるその仕草がいかにも丁寧で、気に入っている。
 全体重を預けても、小揺るぎもしない胸に寄り添いながら、ふわふわと撫でる手指の感触にうっとりとしてしまう。耳をかすめる暖かさに震えて、頭皮を撫ぜる指の先の心地よさに吐息をつく。
 ああ、きもちいい。
 きっとダンデくんの手持ちは、こんな気持ちなんだろうなあ。ダンデくんの指は不思議で、どちらかというと太くてごついのに、とても器用で慎重で、力加減も最高に心地いい。
 先ほど我に返って離れていった手は、けれど結局、画面に集中し始めたとたんに戻ってきた。再びわたしの肩を抱き、その腕を撫でる指先はくすぐったくて、なんだかドキドキしてしまう。
 少しずつ、少しずつ。ダンデくんの体温に慣れていくわたしは、一度注意したことを免罪符に、仕方がないなあ、という諦めのポーズで、彼の肩にほほを寄せ、そのあたたかい筋肉のやわらかさにうっとりと瞳を閉じた。
 彼がこちらに集中している時は、こうはできない。ぎこちないキスを交わす瞬間、逃げ出したくてたまらないほど緊張して、きっとその緊張は伝わっていて、だから未だに、深くは触れてこない。幼馴染だからわかる。ダンデくんは、攻めあぐねている。
 微妙な時期の恋人同士、という自覚はある。でも、わたしたちにはその土台となる、十七年間の幼馴染という歴史があって、それは良くも悪くも思い切った一手を封じてしまう気がする。
 闇雲に恥ずかしいのは、子供の頃の思い出が邪魔をするからか。お互いの隅々まで知り尽くしていた、と思える、あの幼く純粋な時間が、いまさら男女の顔をして近づくことに、必要以上の戸惑いと羞恥を覚えさせるのだろうか。
 だから、こんなふうに、なんの意図も思惑もなく、わたしに触れるダンデくんがいてくれたことに……実はかなり、感謝している。
 少しずつ、少しずつ。
 恋人の距離と温度に、慣れていって。
 そうしていつか、お互いにきちんと集中し合って、熱を分け合う時が来れば……
「……んっ」
 ぼんやりと幸せに浸っていたわたしは、ダンデくんの指が滑り、わたしの耳にそっと触れた瞬間、無防備な声を上げてしまった。くすぐったさを耐えるためには、集中していないといけない。うっとりと油断していたことに気づき、慌てて気を引き締めるべく顎を引いて――
「……っぁ」
 そのまま、ダンデくんの指がからかうように首筋を伝う。一番敏感なところに、羽根のような感触が触れて、堪え切れず吐息が上がる。
 さすがに気まずくて、口を押さえようと上げた手のひらが、素早い動きで阻められた。
「え」
 はっきりと意図を感じる力。目の前のテレビからは、いまもまだ、白熱したバトルの映像が届いている。ダンデくんは集中してそれを見て――
 いない。
「!?」
 至近距離で目が合って、わたしは息を呑んだ。いつも、過集中から戻ってきて、漫然と触れていたわたしに気づいた瞬間、気まずそうな、照れくさそうな顔でごめんな、ソニア、と言うダンデくんはそこにはいなかった。
 いたのは、真っ直ぐに意思を持ってわたしを見つめる男。いつの間にかはわからないけれど、彼の興味はテレビではなくこちらに100%集中している。
「あ、あの、ダンデく」
「ごめんな、ソニア」
 そっと落とされた台詞は、いつもと同じなのに。
 眼差しの意味が、いつもと同じではない。
 わたしを包むダンデくんの熱が、じわじわと炙るように伝わる。緊張するはずのその熱さは、けれどずいぶん前からわたしに馴染んでいて、気持ちはともかく、身体はすでに彼の存在を受け入れていた。
 少しずつ、少しずつ。
 自分でも気が付かないうちに、訪れていた変化。
 でもきっと、ダンデくんは気づいていた。というより、仕掛けていた。
 数週間、虎視眈々とこの時を待ち、こうかばつぐんを狙って――
「くち、あけて」
「……っ」
 そのちいさな囁きに、わたしは操られるように従った。
 きっとダンデくんの手持ちは、こんな気持ち。自分のことを大切にされて、理解されて、こころと身体が万全だと見極められた瞬間、最高のパフォーマンスを引き出される。
 恐るべし――伝説のチャンピオン。
 蕩けるような心地よさに瞳を閉じながら、わたしは完全に白旗を上げていた。




《恋する動詞111題》
#18.触れる【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】




【恋する動詞111題☆★#1~20お気に入り投票】
お題も20作達成いたしました!
ダンソニお題でお気に入りのお話などありましたら
是非教えてください🫶💕

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