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#17.自惚れる【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】

2026/06/15 19:08
【お題】ダンデ×ソニア




 *#16.ときめくの兄弟サイドのお話です。



 冬を超えた牧草地は、みずみずしい新緑にあふれ、そこここに可愛らしい野花が輝いている。
 ウールーたちはみな健康で、春先に生まれたこどもたちも順調におおきくなっていた。ダンデは遠い記憶の父親が、満足そうに誇らしそうにこの光景を見ていたことを思い出しながら、傍らの弟にハンマーを手渡した。
「やってみるか」
「おう」
 ズシリと重い金属製のハンマーも、少年と青年の過渡期にある弟の手に余るということはない。いつの間にか随分とダンデに近づいてきた目線を屈めて、兄がしていたように手際よく釘を取り出すと、雪の名残に朽ちかけた木の柵の修繕を始める。
 器用に動くホップの手際を眺めながら、ダンデは爽やかな風に薄明の髪を揺らした。
 本来、この広大な牧場を継承し、生業にするべき立場の兄弟は、どちらも他業に就いている。男手を失った家業はしかし、一部法人化して人を雇い入れ、手広く事業を展開することで、父親の代とは違った発展を遂げていた。
 その地盤を築き、金銭的な面で不安のないように整えた功績は、ダンデが成し得た親孝行の中でも最も誇らしいものだ。そのかわり、なかなか顔も見せに来られないほど多忙になってしまったことへの罪滅ぼしのように、年に数回はこうして実際に身体を動かし、家業の現状を把握するように努めている。そういう兄のやりようを、弟も見様見真似で受け継いでいた。
 この形態が、どこまで続くかはわからない。ダンデがいま担っている立場を返上し、いつかハロンの農場主に専念する日が来るかもしれず、ホップがライフワークの研究職の傍ら、ウールー事業に精を出すかもしれない。
 未来はどう転ぶかわからないが、現状の兄弟にとっては、先祖代々受け継ぎ、自分たちの父が手塩にかけて育てた家業を、出来る限り大事にしていくことが望みだった。
「アニキ、どうだ?」
 声を掛けられて、ダンデはホップの手元を確かめた。きちんと接ぎ木をし、朽ちた廃材は撤去している。ダンデのおおきな手が柵の強度を確かめ、満足そうにニカッと笑った。
「バッチリだぜ! やるな、ホップ」
「へへっ。じゃあ、ここからあの木までは全部オレがするぞ」
「そうしたら、休憩するか。そろそろソニアたちも退屈だろう」
 兄弟の作業に同行したソニアとユウリは、軽やかに笑って外仕事からあっさり逃げ出し、丘の上の木陰でピクニックよろしくお茶を楽しんでいる。時折風に乗って届く彼女たちの笑い声に癒されながら、ダンデはじんわりとした幸福にほほを緩めた。
 シュートシティの豪奢なペントハウスにソニアがいてくれることも嬉しいが、自分の実家の、草とウールーの匂いに満ちるのどかな情景に彼女がいるのを見ることが、昔からたまらなく好きだ。幼い日の無邪気な思い出が、この世界の隅々に満ちている。
 そんなふうに、ダンデが少々呆けている傍らで、ホップが神妙な顔で呟いた。
「……なぁ、アニキ」
「……ん?」
「聞いていいか」
 いつになく真剣な声色に、ダンデはわずかに目を見開く。それから弟を見下ろして、真っ直ぐに黄金の瞳を合わせた。
「いいぜ。どうした?」
「……アニキは……」
 そう言うと、ホップは珍しく言葉に詰まるように息を止め、それから急いで身を屈めた。先ほどと同じく修繕作業を始めながら、ダンデに背を向けたままで続ける。
「アニキは、いつ、ソニアが自分のことを好きだって気づいたんだ?」
「ん?」
 思わず目をまるくして、ダンデが腕組みをする。見下ろす弟の手際は確かだが、自分と同じ浅黒い色の耳が、じんわりと赤く染まっていくのが見えて、ダンデはははぁ、と内心頷いた。
 これは……つまり、俗にいう、コイバナか?
 いままでの人生で、コイバナに興じた経験など皆無に近い。そもそもが、恋愛ごとに縁のない暮らしを送っていたし、周囲にいた悪友たちも、色恋の話をするよりはポケモンバトルの戦術を語る方がよほど生き生きとする連中だ。
 そうはいっても、彼らが恋愛沙汰に縁がなかったわけではない。ダンデの知らないところではしばしば艶聞でお茶の間を沸かせたり、たまに何気なく相手を紹介されたりすることもあった。
 ただ、徹底的に『ダンデとコイバナ』は縁がない。周囲もダンデにその手のスペックは期待しないし、ダンデも自らそういった話をする意思も興味もない。
 だが、最近になってその不文律は崩壊してきている。ソニアと交際し、婚約を決め、結婚を見据えたダンデのあまりのスピードと迷いのなさが却って周囲の興味と意欲を買い、いままでの分を取り戻すように根掘り葉掘り聞かれることもある。そのたびにダンデは、彼らしく堂々と答えていた。ちなみにソニアはそれを知らない。
 そんなわけで、まんざら門外漢でもないと自覚しながら、ダンデはさて、と考えた。
 年の近い悪友とコイバナ……赤裸々な話をするのには抵抗はないが、生まれた時から知っている可愛い弟に、しかも相手もまた、彼と長い付き合いの姉貴分ときて、どこまでぶっちゃけて話すべきだろう。ダンデはさすがに慎重になった。
 そんなふうに沈黙した兄に、ホップはテキパキと修繕を続けながら、再び口を開く。いつもよりも少し上ずった、照れの混じる声だった。
「いや、いきなりごめん。アニキたちをずっと見てきたから、お互い好き同士だっていうのはオレにはわかってたけど、アニキもソニアも、あんまり自覚してないように見えてたから……」
 オレにはわかってた? ダンデにとっては、ホップのその言葉の方が気になる。聡い弟は、一体いつから自分たちの両片想いに気づいていたのだろう。そのへんを今度詰めよう。
 それはそれとして、いまはどうやら自分に『相談』があるらしい弟の方を優先すべく、ダンデはゆっくりと口を開いた。
「そうだな……気づいたというよりも、知ってた、に近いかな」
「知ってた?」
「ああ。長い付き合いだからな、積み重ねた時間が、きっとそうだろうと思わせた。だが……それをお互い確かめることもなく結構時間が経って、その間オレは、オレ自身の直感をずっと信じてた……ってことだ」
「つまり、思い込み?」
「……」
 ズバリとしたホップの言葉に、ダンデはすぐには反論できなかった。なかなかに切り口の鋭い弟に、年上の余裕でニヤリと笑う。
「勝算の高い思い込みだ。確率で言えば、ズバリ100%」
「どうやったらそこまで自信持てるんだよ……いや、結果的に大正解だったけど」
 わずかに呆れたように、けれど眩しげに笑いながらホップが立ち上がる。屈めていた腰を伸ばし、やわらかな風に瞳を細めながら、するりと呟いた。
「勝算の読めない思い込みは、ただの自惚れかなあ」
「……読めないのか?」
「読めないぞ!」
 カラッと笑いながら、ホップは次の柵へと向かう。その時、傍らに一体の赤ちゃんウールーが手毬のように弾みながら寄ってきた。かれらのお守りをしていたワンパチが、少し離れたところで呼び戻すようにぬわぬわ吠えている。
「ほら、ワンパチが呼んでるぞ。作業中だから、あんまりこっちに来ちゃだめだ……」
 そう言いながら、ホップが優しくウールーに手を伸ばす。彼の骨ばったおおきな手のひらに、赤ちゃんウールーは恐れげもなく身を寄せて、すりすりとやわらかな毛をこすりつけた。
 その甘えた様子に、ホップがほほ笑む。片膝をつき、懐っこいウールーをそっと抱き上げた。
「かわいいな」
「ユウリくんよりもか?」
「はっ!?」
 突然ダンデがブッ込むと、ホップは真っ赤になって弾かれたように振り返った。腕の中の赤ちゃんウールーが、大きな声に驚いたように固まる。我に返ったホップが、慌ててかれを地面に下ろした。
「ごめんごめん、驚かせたな。ほら、仲間のところに行くんだぞ」
 ぐめぇ、と鳴いて、ウールーがもこもこと駆けていく。ホップはそれを見送ってから、まだ赤さの残るほほで振り返り、兄を睨んだ。
「いきなりは卑怯だぞ、アニキ!」
「ははは、ふいうちは有効打だぜ」
「……オレがわざを出してなかったから空振りだぞ」
「おっ、じゃあ、次はなにでいくかな?」
「あーもう、なんでもバトルの話にしないでくれよアニキ! オレは結構真剣に悩んでるんだぞ」
「悪い悪い。じゃあ次は、勝算の読めない思い込みの話を詳しく聞かせてくれ」
 懐に飛び込むようなダンデの切り返しに、ホップは再び顔を赤くしたけれど、覚悟を決めたように口を開いた。
「オレはユウリが好きだ。で、多分ユウリもオレが好き。確率は……正直読めないぞ」
「ふむ。それで?」
「ユウリに告白すべきか悩んでる」
「なんで悩んでるんだ?」
「それは……」
 一瞬ホップが眉根を寄せ、それから難しげに言った。
「……いまは、オレもあいつも夢の途中で、お互いに割ける時間がないんだぞ。そんな中途半端な状態で、告白したってどうしようもないかも……」
「片やチャンピオン、片や博士助手、か」
「そうだぞ。誰かさんたちみたいだろ」
 わずかに強がるようにホップが笑う。ダンデはそんな弟の頭にポン、とおおきな手を乗せた。
「わかるぜ。相手が自分を好きだって知ってるけど、それを形にできないのは辛いよな」
「……自惚れてるだけかも」
「いいんじゃないか。自惚れも本当にしちまえば真実だ」
「アニキみたいに、本気でそう思って突っ走れればいいけどさあ」
 くしゃっと笑って、ホップがダンデを見上げる。その目の高さが本当に近くなったな、と改めてダンデは述懐し、まるで父親のような万感を込めて口を開いた。
「告白するのに、中途半端な状態も、完璧な状態もないと思うぜ」
「え?」
「勝機を探ってばかりじゃチャンスを逃す。かといって闇雲にわざを撃ってもバツグンは取れない。時には、思い切った攻撃が劣勢を覆すこともある。バトルも恋愛も、考えすぎるのが一番悪手だとオレは思うぜ」
「……思い切り、か」
 ホップがぽつりと呟く。それから、ニッと太陽のような笑みを返した。
「サンキュー、アニキ! なんだか勇気がわいてきたぞ!」
「そうか。ちなみに、オレが見るところおまえの告白が上手くいく確率は……」
「わっ、ストップ! やめてくれよっ、決心が鈍るだろ!」
「ははは、自惚れが足りないんじゃないか、ホップ?」
「アニキほど自信家にはなれないぞ!」
 むくれたように言って、ホップはくるりと振り返る。そのまま残りの柵の修繕に向かう弟の背中に、ダンデはやわらかくほほ笑んだ。
「……おまえのアニキは自信家じゃなくて、天下無敵の自惚れ屋だぜ、ホップ」
 自惚れも、本当にしちまえば真実になる。
 ホップに言ったアドバイスは、自分が彼くらいの年齢のころ、好きな子との絶望的な距離に押しつぶされそうになりながら、何度もこころで唱えた呪文。
 そんな情けないコイバナも、いつか酒でも酌み交わしながらできればいい。弟の成長を誇らしく待ちながら、ダンデはゆっくりと歩き出した。



《恋する動詞111題》
#17.自惚れる【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
 


【恋する動詞111題☆★#1~20お気に入り投票】
お題も20作達成いたしました!
ダンソニお題でお気に入りのお話などありましたら
是非教えてください🫶💕

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