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7.a love affair 恋愛事件
2025/10/04 16:27【お題】ダンデ×ソニア
浮気の定義を決めよう、と夫は言った。
冷めたエメラルドグリーンの瞳を向けて、ソニアは手の中のワイングラスを揺らす。ご機嫌取りのつもりか、ずいぶんと上等な香りのそれは、おそらく相当希少性の高い一品だろう。こんなふうに、水のようにがぶがぶと流し込んでいいものではない。
十分理解したうえで、ソニアは再びグラスを干す。酔えない夜にはちょうどいい。
「……定義?」
ゆっくりと小首を傾げて、冷笑を浮かべた。彼女の眼前で俯きながら座る夫は、沈痛そのものの様子で眉を寄せている。
ソニアは氷のような眼差しのまま、新たな血の色をグラスに浸した。
「ダンデくんが思う、浮気の定義って?」
ボールはそちらのコートにある。それを思い出させるように促せば、ダンデはパッと顔を上げて、黄金の瞳をわずかに細めた。
「――ボディタッチは、浮気じゃない」
「へえ」
「キスは……場所による」
「ほう」
「一緒に寝るのは……時と場合によらないか?」
小首を傾げてあざとく問うてくる夫に、ソニアは【ぜったいれいど】の笑みを浮かべた。
「そう……それが、ダンデくんの浮気の定義、ね。いいでしょう。それでいくわ」
「本当か、ソニア」
「ええ、いいわよ」
にっこりと、少女のように愛らしく笑ったソニアは、次の瞬間ダンデの心臓をひねりつぶす一言を放った。
「じゃあ、わたしもそのへんで知り合った男の人と、その定義で仲良くなるね」
「ソニア!?」
「まさか、自分はよくてわたしはダメなんて、狭量なことは言わないでしょう? ダンナサマ」
血の色のワインをくるくると揺らして、小悪魔のような顔になるソニアを見上げて、ダンデはフローリングに正座していた体勢から縋るように身を乗り出した。
「異議あり! これは、あくまでも『ポケモンとの』距離感の話だろう!?」
「だってダンデくん、ポケモンも守備範囲なんでしょ?」
「そんなわけ……」
「どんな美人な女優さんよりも、ポケモンにデレデレしてたって聞いたことあるもん」
「独身の頃のパーティーで、オレがあんまり朴念仁だったからからかわれたネットミームだ!」
「実際、この話の発端は、奥さんよりもポケモンにふらふらついてって迷子になったことだったよね?」
「それは浮気じゃなくて……」
「本気?」
「ソニア~……」
がっくりと項垂れた夫の薄明色の髪を見やって、ソニアはふふ、と意地の悪い笑みをグラスに隠した。
軽率に迷子になって心配させたこと、たっぷり反省してもらいましょう。
