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#15.待つ【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
2026/06/11 17:01【お題】ダンデ×ソニア
しとしとと、そぼ降る雨。
ダンデのマンションから見えるシュートシティの夜景が、雨粒に滲んで幻想的に美しい。
遮音効果に優れているおおきなガラス窓は、近づいて指を触れさせても外界の激しさを感じさせない。それでも、だんだんと叩きつけるように強くなる雨脚が、ソニアのこころを憂鬱にした。
すでに入浴も終え、寝支度を整えている。常に快適な温度に保たれた室内で、ソニアはゆったりとした寝間着にもこもこした靴下を履いていた。ゆっくりと湯船に浸かって、爪の先までぬくまったまま、ベッドにもぐりこむのが好きだった。
けれど、ひとりで眠る気にはどうしてもなれず、家主の帰りをずっと待っている。
リビングの向こうに備えているポケモン用の寝床には、ワンパチとゴリランダーが仲良く眠っていた。その向こうの部屋には、ドサイドンとオノノクスの気配が、穏やかな寝息と共に伝わる。
今日のダンデのお供は、いつものリザードンと、ギルガルド、ドラパルト。三体は定期的なメディカルチェックを受けるためにバトルタワー常駐のポケモンセンターにお泊りだ。
ダンデに聞かされていた予定を諳んじながら、ソニアは少しずつ雨脚の強まってきた暗い空を見上げる。リザードンがいないので、今日はマンションの玄関前までアーマーガアタクシーに乗って帰ってくると言っていた。けれどこの雨では、その行程は難儀するだろう。雷でも鳴れば、ガアタクは使えない。地上のタクシーに切り替えるとはいえ、荒天の夜の移動は危険を伴うだろうし、ことによったらバトルタワーに泊まるかもしれない。
そんなことを考えながら、ソニアは窓辺から離れた。時計を確認すると、二十二時を過ぎる頃。帰宅予定は四時間以上前だ。
夕方、スマホロトムに飛び込んできたメッセージには、軽いトラブルに見舞われたので、帰りが予定より遅くなる旨があった。せっかく来てくれたのにすまない。先に寝ていてくれ。
週末の通い婚のような逢瀬に、トラブルが重なるのは初めてで、ソニアは残念に思いながらもすぐに返事を返した。こっちは気にしないで。頑張ってね、お疲れさま。
ダンデのために拵えた、彼好みの味付けのカレーが、手持ちたちに振舞ってもまだたっぷりと鍋に残っている。明日の朝には、さらに旨味とコクを増しているだろう。ダンデの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
おおきなL字ソファに座り、たくさんのクッションの中に身を横たえた。暖かなソニアの巣。ここにまるくなっていると、つい、うとうとして眠ってしまう彼女を、何度ダンデがベッドに運んだだろう。
この家に通うようになってから、まだ数か月だというのに、その数は十指に余る。
すっかりと彼との日常に慣れた自分に気づき、ソニアはくふんと笑った。
ちょっと前ならば、こんなふうに夜のマンションでダンデの帰りを待つなど、考えられなかった。そもそも、彼との未来、彼とこころを通わせる可能性なんて、みじんも想像できなかった。
ふたりはずっと昔からの知り合いで、幼馴染と呼び合いながらも、物理的に離れていた時間も長い。精神的にはそれ以上に、遠く隔たっていた過去もある。
無敗のポケモンチャンピオンとして、国中の熱狂を背負ってきたダンデに、絶望的なまでの距離を感じて逃げていた。自分の不甲斐なさを憎み、何者にもなれない未来を恐れ、我武者羅に走り続けた数年間。
ダンデは、ソニアをただ待っていた。
そのことに気づいたのは、初めて彼と気持ちを通じ合わせた時だった。それまでは、自分のことをダンデが待っているなどと、夢にも思わなかった。そもそも、待つ価値があったとは思えない。彗星のごとく輝いたダンデに対して、ソニアはどこまでも地上人だった。
待ってどうなるものでもない。ソニアはすでに、ポケモンバトルから退いているのだから。
自分のライバルとして育ち、共に切磋琢磨して力をつけ合った幼友達を、いつまでも好敵手と捉えているほどダンデの世界は甘くない。次々に現れては彼に挑み、魂が燃え上がるほどの熱いバトルを交わしては、進化し続ける者たちがダンデの周りには多くいた。
ソニアの代わりなど、掃いて捨てるほどに。
それなのに、ダンデはただ、ソニアを待っていた。切磋琢磨するライバルとしてでも、思い出を共有する幼馴染としてでもなく、ただソニアがソニアとして、自分の元に帰ってくることを。
ずっと待っていた。
「……なんでかねぇ……」
ふと呟いて、ソニアが眉を寄せる。冷静に考えるとやはり理解できない、ダンデの自分への執着。
その不可思議をこそ、ひとは愛と呼ぶのかもしれない。
そんなことを考えながら、ソニアは一人でモダモダと暴れた。
「あ~~~~、もう、乙女~~~~!」
恥ずかしさに身悶えする。とんでもない自惚れと、動かしようのない事実の狭間で脳が沸騰しそうだ。
ダンデとこころを通わせて、もう数か月。来月には婚約式を控え、来春には結婚式を予定しているというのに、未だこんなに浮足立ってしまう。長い長い片想いの末の夢のような日々に、ソニアの乙女心が少しずつ耐性をつけながらも、それを上回る幸福に振り回され続けていた。
「……ソニア?」
「っっ!」
クッションの海で暴れていたソニアの耳に、その時ふと聞き慣れたテノールが届いた。ぎょっとして身を起こすと、ソファの背もたれ越しにこちらを見下ろすダンデが、しっとりと濡れてたたずんでいる。
「だ、だんでくん!?」
息が止まるほど驚いているソニアに、ダンデはしんなりとした薄明の髪をかき上げながら苦笑した。
「ただいま。……なにか邪魔したか?」
「い、いやっ……え、ていうか、あれ? ど、どこから帰ってきたの?」
「普通に玄関から……」
「え、ウソ、エレベーターの到着音聞こえなかった……」
「あ、すまん。寝てると思ったから、遠隔で切っておいたんだ」
「うそぉ……」
すっかり油断していた自分を恥じ入り、ソニアはクッションの中に埋もれる。そんな彼女に、ダンデは爽やかに笑った。
「オレのことなら気にしないでくれ。ここを自分の家だと思って、気兼ねなく暴れて構わないぜ」
「暴れてないっつの! そ、そんなことよりも、めちゃくちゃ濡れてんじゃん、早くお風呂に入ってきなよ!」
飛び起きるようにしてソニアが言う。ダンデは楽しそうに笑いながら踵を返した。
「わかったぜ。ああそうだ、ソニア、カレー食っていいか?」
「え、ご飯まだなの?」
「まだなんだ。機材トラブルの対応が思ったよりも長引いて」
「わかった、用意しておくから、よくあったまってきなね」
「サンキュー」
ひらりと手を振ってリビングを出ていく背中に、ソニアは火照ったほほを冷ますべく首を振る。乙女モードを切り替えて、友達恋人モードに移行しなくては。
そうして再びカレーに火をつけ、付け合わせのサラダやスープなどを用意していると、ワンパチとゴリランダーが起き出してきた。いい匂いにぴすぴすと鼻を鳴らすふたりに、ソニアは呆れたように眉を上げる。
「なぁに、きみたち。晩御飯食べたでしょうが」
「イヌヌワ~」
「ガウウ」
「夜食~? うーん……果たしてそれを許してくれるかなあ。きみたちのトレーナーは、体調管理も厳しいぞ。あ、ワンパチは最近ちょっと太り気味だからだめね」
「ぬわうっ!!」
ガーンと絶望のオノマトペを背負うワンパチと、慰めるようなゴリランダー。そんなやり取りに、ポケモンルームからのしのしとおおきな身体がやってくる。
「わあ、オノノクスとドサイドンまで起きちゃったか……えーどうしよう。こんな時間に食べていいの?」
「構わないぜ」
「ってうわっ、ダンデくん早いな!?」
慌てて振り返ると、ホカホカと身体から湯気を立てながらも、濡れた髪をろくに乾かさずに部屋着に着替えたダンデが立っていた。彼は期待するような手持ちたちの眼差しにニカッと笑う。
「今日は特別だぜ。その代わり、明日のトレーニングは朝からきついぞ」
「ガウウッ」
「ギュワ!」
嬉しそうな大型ポケモンが小躍りするように揺れるのに、ソニアはやれやれと苦笑した。
「そういうことなら、みんな自分のお皿持っておいで。ワンパチ、特別にきみもいいよ」
「イヌヌワッ!」
「その代わり、明日はみんなに交じってダンデくんに鍛えてもらいなさい」
「ヌ、ヌウワ……」
大変な葛藤を抱えながらも、ワンパチは目先の欲望に抗えずに急いで皿を咥えて来た。ダンデと協力して手持ちたちにカレーを盛ってやると、ソニアはようやくテーブルに落ち着いたダンデのために、夕食を振舞う。
「いただきます」
嬉しそうに言って食べ始めるダンデの長い髪が、先の方から雫を垂らした。生乾きのそれを見かねて、ソニアが立ち上がる。
「もう、さすがに風邪ひくよ」
「らいじょうぶ」
もぐもぐと咀嚼しながら答える彼の背後に立ち、肩にかかっていたタオルで丁寧に髪を挟む。食事の邪魔をしないように、やわらかくタオルドライするソニアの動きに、ダンデは嬉しそうにほほ笑んだ。
「そういえば、さっきはなにをあんなに暴れてたんだ?」
「へ?」
あっという間にカレーを食べ終えたダンデが、食後の片づけを終えて再びテーブルに着く。ソニアはポケモンたちの世話をし終え、同じくテーブルに着いたとたんに投げられた問いに、思わず間抜けな声を上げた。
「あ、いや、別に?」
「乙女がどうとか言ってたな」
「どこから聞いてたんだよ!?」
恥ずかしそうに叫ぶソニアに、ダンデはにこにこと無邪気に笑っている。その余裕ぶった雰囲気に、ソニアの負けん気に火がついた。
そもそもが、幼馴染で、ライバルで、対等だったふたりだ。どれほど立場が隔たっても、大人になったとしても、根っこの部分ではつい、張り合ってしまう。
「いや~、ダンデくんを待ってる間にさ、そういえば、ダンデくんもわたしのこと、ずいぶん待ってたな~って思ってさ」
「ん?」
にやにやと笑うソニアの言葉に、ダンデがきょとんとする。ソニアはからかい口調で続けた。
「博士になるどころか、何者にもなれないかもしれなかったわたしをさ、よく待てたよねえ。感心しちゃう」
「ああ」
挑発的とも取れるソニアの言葉に、けれどダンデはいっそ清々しいほどの笑顔で答える。
「待ってたっていうかな」
「うん?」
「知ってた」
「え?」
その言葉に、ソニアがきょとんと目をまるくする。ダンデはテーブル越しに真っすぐにソニアを見つめて、ほのやわらかく瞳を細めた。
「ソニアはずっと、ソニアだっただろ?」
「うん?」
「ポケモンが好きで、知りたいことが我慢できなくて、夢中になったら一直線」
「え、ううん……そんな奴か、わたし……?」
「出会った時から、ソニアはブレない。それがわかってたから」
「うん」
「きみがやりたいことをやりきったら、それがいつでも、どんな立場でも、絶対に帰ってくるって知ってた」
「はぇ?」
「オレのところに」
「へ!?」
自信たっぷりに言うダンデに、ソニアは顔を真っ赤にして思わず叫んだ。ダンデはそんな彼女を嬉しそうに眺めて、小憎らしいまでにあっさりと言う。
「だからオレは、辛抱強く待ってたとか、きみを信じて待ってたとかじゃなくて、きみがきみである限り、いつかはこうなる、って知ってたってことだぜ」
「ヘ、あ、はぁ……? ちょ……っとそれは、さすがに、言い過ぎでは……?」
あまりにも自信過剰な傲慢さに、けれどソニアはそれ以上なにも言えなかった。
何故ならば、結果としてダンデの言葉は正しい。他の選択肢や、違う未来があったとしても、現実にソニアはダンデの元に帰ってきた。
その事実の前では、ダンデの自惚れともいえる持論に、ひとつも反論できない。
「ぐ、ぐぬぅ……」
真っ赤になって唸る最愛の恋人に、ダンデは蕩けるほど甘くほほ笑んで言った。
「これを言い過ぎだって思うなら、認識を改めた方がいい。きみの運命は、五歳のころから決まってたんだぜ」
「いや、それはさすがに言い過ぎだな!」
「乙女だな、ソニア」
「どっっっちがだよぉ!」
夜更けのペントハウスに、恋人たちの高い嬌声が上がる。ポケモンたちは満腹で、幸せそうに寝床に潜り込む。
そんなありふれた、ある雨の夜の話。
《恋する動詞111題》
#15.待つ【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
【恋する動詞111題☆★#1~20お気に入り投票】
お題も20作達成いたしました!
ダンソニお題でお気に入りのお話などありましたら
是非教えてください🫶💕
