challenge
#09.悩む【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
2026/05/30 16:07【お題】ダンデ×ソニア
*#07.想うの数日後のお話です。
久しぶりの招集は、ダンデからの声掛けだった。
互いの仕事の都合にもよるが、なんだかんだと月に一度くらいは集まって、ダラダラと酒を酌み交わすようになってから、もう数年経つ。それほど仲がいい自覚もないし、なんなら公にはライバルだの競合相手だのとビジネスライクな関係で有名だし、プライベートで友人と呼べる間柄でもない。
強いて言えば、腐れ縁。互いにクチバシの黄色いひよっこの頃から、大人の中に放り込まれてもみくちゃにされ、己の実力ひとつでのし上がってきたという特異な経験が、断ちがたい絆のようなものを生み出している。そんなこと、口が裂けたって言わないが。
というわけで、久しぶりに訪れたダンデの住まいは、劇的な変化を遂げていた。
「おおう」
「こりゃまた……」
巨大なリビングルームの扉の前で、男二人が感嘆の声を上げる。最後にこの部屋を訪れたのは、確か三月ほど前だ。季節がひとつ巡るほどの間に、男の住まいは完全な『女の気配』に支配されていた。
「なんだこりゃ可愛いな。このドラメシヤ柄のブランケット、どこで売ってんの?」
「おー、とうとうコーヒーマシン置いたか。これ便利でしょう。……おっと、紅茶までカバーしてる。高っけぇやつだね」
「うちでも使ってるぜ、このアロマディフューザー。ポケモンにリラックス効果と安眠効果があるんだよな。うわー、観葉植物めっちゃ増えてらぁ。オマエ、管理が難しいってスポンサーからもらったもんもすぐ枯らしてたのに」
「ポケモンの世話以外はポンコツでしたからね……お、このスパイスラックの充実ぶり、博士とは気が合いそうだ。保存容器も増えてるな……どれ、どんな作り置きがあるかチェックしときますかね」
「小姑かよ」
「ウチのダンデちゃまを篭絡した女狐の、お手並み拝見ザマス! ……『野菜食べること』『このソース勝手に使わないで』『牛乳買っといて』……ダンデぇ、尻の下の居心地はどうですか?」
巨大な冷蔵庫に残された『指令書』を読み上げて、ひとしきりキッチンを探検し終えたネズが、にやにやと人の悪い笑みを浮かべながらソファへ戻ってくる。ダンデは通称『ソニアの巣』であるもこもこのクッションに埋もれながら、満足そうに頷いた。
「快適だぜ!」
「あ~あ、この顔、全ガラルの夢見るお嬢さんに見せつけてやりゃあいいのに。そしたらいっぺんで、ダンデ担が死滅するぜ」
キバナが長い脚を折りたたみ、彼の定位置であるL字ソファの長辺に陣取る。その傍らの短辺に、ネズもやれやれと腰を下ろした。
ローテーブルの上には、マンションのラウンジから運ばれてきた《いつものセット》が並べられている。コールドプレートには生ハム、スモークサーモン、チーズ各種などのツマミが銀のトレーに載っていて、その周りにはまだほんのりあたたかいミニミートパイやローストビーフ、ハーブソーセージが一口大で上品に盛られていた。
ワゴンに用意された酒は、熟成年数長めのシングルモルト。キバナやネズが置いていったワインやエールも所定の位置にあり、いつも通りの男飲み会が始まった。
ウィングチェアに深く座り、ワンパチ模様のクッションを膝に抱えたダンデがクイクイとグラスを煽る。その早いペースに、酒も料理もそつなく楽しむキバナがチーズを片手に苦笑した。
「相変わらずオマエ、高い酒はペース早いな!」
「高いのか、これ? 美味いな、と思って」
「食に無頓着なくせに、高級品に慣れてやがる。ソニア博士の手料理と、どっちが美味いですか?」
「手早く食べられれば、どっちも好きだぜ」
「それ、絶対ソニアちゃんに言うなよ。刺されるぞ」
「え、まずいのか?」
「あーこりゃ言ったな。時すでに遅しってやつだ」
「今更この程度のノンデリで愛想を尽かすような関係じゃないってことですか。熱いねぇ」
キバナとネズのポンポンとテンポの速い軽口に、ダンデがぼんやりと聞き役になる。いつもの空気だったが、今日はどこか、ダンデの様子が重かった。
「んで? 今日の議題はなんだよ」
「議題?」
「なんかオレさまたちに相談があるんだろ? さっさと吐いちまえよ、ネズがつぶれる前に」
「オマエのデケェ図体を誰がいつもソファベッドに転がしてやってると思ってんですか」
「リザードンだろ。オマエにオレさまを持ち上げられるはずがない」
「バカいえ、タチフサグマだ。うちの子に面倒かけといて、自覚もなしかよ」
「えー、そうだったのか! 今度高級ポケフード詰め合わせ贈らせてもらいます」
「一番高っけぇやつをお願いしますよ」
再びポンポンとラリーが続く。ダンデが無心にミートパイを咀嚼していると、不意に視線を感じて顔を上げた。キバナが呆れたように目を細めている。
「おい、家主。会話を放棄するんじゃねぇ」
「すまん。あまりに高速だったからな……」
「そーゆーやつだよ……で? はい、オマエのターン。悩める子羊よ、懺悔をどうぞ」
「懺悔というか……」
ダンデは改めてウイスキーでくちびるを湿らせると、不意に真面目な顔つきになった。キバナとネズは、ひょいと眉を上げてそれを見やる。
「……先日、ソニアが研究所で襲われかけた」
「は?」
「マジですか」
ぎょっとしたように声を上げる悪友に、ダンデは静かに頷いた。長い睫毛を伏せ、間接照明の光でほの暗く陰る黄金の瞳をじっとテーブルにあてて続ける。
「幸いにも、被害はなかったがな。オレが潜ませていたゲンガーが撃退した。相手は、オレのファンを名乗る女性で、彼女の連れていたポケモンは、明らかに恐慌状態だった」
「恐慌状態?」
「グレイミントか」
ネズが鋭く言う。ガラルの裏社会の情報を素早くキャッチする彼は、このところ秘かに流通し始めている脱法ミントの存在にもいち早く気付いていた。まだ表立った被害はなく、ポケモンに対して摂取させることによるメリットも確実性に乏しいが、賞金を懸けた野良バトルの場などでは、まことしやかに噂されている。
このミントの厭らしいところは、比較的簡単に入手できる原材料を使っているという点だった。ポケモントレーナーの間では、手持ちにミントを使用し、様々な効能でバトル戦術の幅を広げることは当然の行為とみなされていた。ポケモンへの影響や健康への安全性は担保されていて、かれらへの医療行為に使用されることもある。
けれど、その精製方法や混合比、抽出方法などで本来のミントの効能を変化させ、それを用いたポケモンの行動や思考に強制的な影響を与えるのが、『行動抑制型精製ミント』通称《グレイミント》の正体だった。
ネズの言葉に、キバナも厳しい表情になった。
「グレイミント関連で襲撃未遂事件だと? 聞いてねえぞ、そんな話」
「リーグ本部で戒厳令を敷いてる。襲撃犯の使用していたものは、精製が不十分ないわゆる『パチモノ』で、入手経路もクラブで知り合った行きずりの男から買ったものらしい。警察の方で、そのルートを捜査しているが、正直あまり期待できない」
「だとしても、せめてジムリには情報共有すべきだろ。オレたちは、ポケモンバトルの最前線で旗振ってる立場だ。なにも知りませんでした、じゃ通用しねえ。オマエがひとりで抱え込むな」
「……ああ、そうだな。近く場を設けよう」
ダンデが静かに頷く。前任の委員長からその立場と責任を引き継いでまだ日も浅い青年は、暗闇を手探りで歩くような不安と、心強い仲間の存在とを改めて感じて、ぱっと表情を改めた。
「ミントの件は、現状打てる手は打つ。他地方との折衝も始めてるぜ」
「おう。んで? 今日の相談事はそれか?」
「いや、それに付随しているが、聞きたかったのは護衛の話だ」
「護衛?」
キバナが目を瞠り、それから素早く頭を回転させる。
「ああ、ソニアちゃんの話か。そっちが本命ってわけね」
「どっちも本命だぜ」
「はいはい。で? 護衛っていうと、ゲンガーのことか? 撃退したんだろ?」
ハーブソーセージを齧りながら問うキバナにダンデは難し気に眉を寄せた。
「ああ。だが、今後のことを考えると、ゲンガーひとりでは心許ないと思ってな。そこで、知恵を貸してもらいたい」
「つまり、おれたちに護衛に適したポケモンを考えてほしい、ってことですか?」
「なんだそれ。オマエ、自分で考えられるだろうが」
呆れたように目をまるくするキバナの言葉に、ダンデがどことなくしゅんとしたように肩を落とした。
「それが……オレが推薦するポケモンは、バトル特化過ぎて護衛には向かないって言われて」
「バトル特化……」
キバナとネズが、思わず顔を見合わせる。
ダンデの手持ちの顔触れは、ほとんどすべて知っていた。十年以上にわたり、様々な形で対戦してきたが、その時々でメンバーや戦法を変え、千変万化ともいわれる多彩さでガラルの頂点を譲らなかった男。
彼が手塩にかけたポケモンは、例外なくバトルを楽しみ、実力を最大限に出し切る。かれらの特性や個性を余すことなく引き出すダンデの手腕は、神がかってさえいた。
けれども。
「……確かに、オマエに任せるととんでもなく派手な護衛になりそうだなあ」
「面構えからして違う大型戦闘ポケモンで、ぎっちぎちになった研究所が想像できますよ」
「……それ、ソニアにも言われたぜ……」
情けなく項垂れるダンデの薄明の髪を見やって、キバナが遠慮なく噴き出した。
「はっは! 幸せな悩みだなあ、ダンデ」
「いや、全然幸せじゃないぜ。いまのところゲンガーは優秀なボディーガードだが、かれの初手『ふいうち』に怯まない相手だった場合の、フォロー役がいる」
「なるほど? ゲンガーの弱点をカバーしつつ、極力目立たず、さらにいえば研究所の空気にも馴染んで、ソニアちゃんのストレスにもならず、ついでにワンパチとの相性も考えて……」
「意外と難題ですね」
静かにグラスを傾けていたネズが、感心したように呟く。ダンデはぱっと顔を上げて、ようやく味方を得たとばかりに破顔した。
「そうなんだ! で、きみたちだったらどうするかと思って、意見が聞きたい」
「オレさまたちだったら? って、もしもオレさまたちがソニアちゃんの警護を考えるとしたらってこと?」
「いや、きみたちが最愛の人物を護るとしたら、どうするかってことだ」
なんのてらいもなく堂々と言ってのけるダンデに、キバナとネズが呆れたように半眼を閉じる。馬鹿馬鹿しい、とばかりにダレた雰囲気が流れた。
「あーはいはい、念願叶って婚約発表したばっかだもんなァ。そりゃあ、いまが一番浮かれる時だ」
「惚気は酒がマズくなる。一昨日きんしゃい」
「惚気じゃないぜ。結構切実だ! 意外と難題だって、ネズも言ったじゃないか」
慌てたようにダンデが言うと、キバナとネズはちらりと顔を見合わせる。それからやれやれと酒を煽った。
「しょうがねぇなあ。浮かれポンチの委員長様に、貸しひとつだぜ」
「助かる! 今度、スタジアムでの調整試合を組むぜ! 時間無制限、ダイマックスアリの無観客試合だ」
「おっよっしゃ! 話がわかるねぇ、ダンデくん」
「おれはそんなもんじゃ靡かねぇですよ」
「前にマリィくんが、ソニアとルリナと一緒にブティック巡りをしたいと言っていたな。セッティングしよう。全部オレ持ちだ」
「乗った」
あっさりと言って、ネズがにやりと笑う。それから細長い指でこつんとローテーブルを突いた。
「おれがもし、最愛の相手を護ろうと思ったら、街を上げて細工をしますね。近隣住民を抱き込んで、四六時中相手の安否を確認する」
「なるほど……」
「オマエそれ、まんまエール団……」
「ブラッシーはそれほど大きな街じゃねぇし、近所づきあいも良好でしょう? ガラル唯一のポケモン研究所は、街の観光名所でもあり、威信をかけて守るべき名誉です。そうやって、オマエの雷名で彼女の外堀を埋めちまう」
「ははあ」
感心したようにダンデが唸る。キバナは多少ドン引きしながらも、まあ一理あるか、と頷いた。
「あくまでも、ソニア博士には知られないように。どうせ結婚しちまえば、オマエはもっと公明正大に彼女を護れるし、博士だって著名人の妻って立ち回りを嫌でも覚える。婚約期間だけのミッションです」
「ああ。そのくらいなら、みんなに協力してもらえそうだ」
明るい顔でそう言うダンデに、キバナが長い指を突き付けた。
「あとは、わざと出しておく威嚇用のポケモンが欲しいな。ゲンガーは万が一の隠し玉だとして、そいつがいることでよからぬ輩をビビらせる……まあ、オマエんとこのレギュラーメンバーなら誰でもいいと思うが」
正攻法のアドバイスに、ダンデは難しく眉を寄せる。
「実は、かれらもそうしたくてうずうずしてるんだ。だが、毎日交代で、研究所に派遣するって言ったら、ソニアに止められて……オレの業務に差し障るって」
「んなの、説き伏せちまえよ。オマエのことが心配でたまらない、オレのためだと思ってこいつらを置いてくれ、じゃないとオレが直にオマエを護りに来るぞ……とかなんとか、脅しちまえ」
「脅すのか」
「そう。……だが、日の下で言ったら逆効果。こういうことは、夜言うもんだ。当然、相手の思考力を殺いでから、たっぷりムードを演出してな」
伊達男の面目躍如の流し目でにやりと笑うキバナに、ダンデはわずかに苦笑する。
「……さすがだな、キバナ。参考になるぜ」
「だろぉ? オマエは馬鹿正直に、真正面から行こうとするのがダメなんだ。女性には搦め手。時と場合と場所を味方につけりゃ、大抵うまくいくってなもんよ」
「刺されちまえ、プレイボーイ」
「オレさまがそんなヘマするかよ!」
混ぜっ返すネズと、仲良く言い合いを始めたキバナ。悪友たちの金言を噛み締めながら、ダンデはゆっくりとウイスキーのグラスを揺らした。
「まずは……ブラッシー町長と、マグノリア夫妻に相談だな」
綿密な計画を頭で組み立てながら、ダンデは最愛の幼馴染を思い浮かべてやわらかくほほ笑んだ。
《恋する動詞111題》
#09.悩む【ダンデ×ソニア@Pokémon Shield】
【恋する動詞111題☆★#1~20お気に入り投票】
お題も20作達成いたしました!
ダンソニお題でお気に入りのお話などありましたら
是非教えてください🫶💕
