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【ママは神出鬼没です】《アルベルト×ミドリ@XENOGEARSパラレル》
2026/05/14 18:34【お題】他
「しまったな……」
時計を見ながら、アルベルトは苦々しく呟いた。
時刻はすでに、真夜中を回っている。
大学から地下鉄で三駅ほど離れた閑静な住宅街にあるマンションへ、彼は出来る限りの急ぎ足で向かっていた。
この道を帰宅するのは、実に四日ぶりのことで、見慣れた景色がいやに懐かしい。自分がどれほどこの道を帰りたかったのか、いまさらのように自覚した。
もう一度、時計を見やる。それから、目前に迫ったマンションの、自宅と思しき窓を見上げた。
当然のことながら、灯りはついていない。
「もう、寝ちゃったか……」
残念そうに呟いて、けれど仕方がない、と諦めた。
本当は、討論会の最終日の今日、夕方には帰宅できる予定だったけれど、教授陣たちに捕まって遠方から来た客員たちへの接待に巻き込まれ、気がつけば午前様になろうかという頃、ようやくの思いで家路についたのだ。
一応留守電にメッセージは入れていたけれど、早く帰れるよ、と約束していた手前、深夜の帰宅は申し訳なさが募った。
やがてアルベルトは、エレベーターを降りて自宅の前までたどり着いた。懐から鍵を取り出しドアを開けると、室内は案の定しんと暗かった。
音を立てないように気をつけながら、回廊の奥にある寝室へ向かう前に、リビングへと立ち寄った。荷物を置くためだが、その時ふと、テーブルの上に置かれた紙切れに気づいてそれを手に取った。
<アルベルトへ
ミドリちゃんをお借りします。
あなたもシングルライフを楽しみなさい。
母より>
「…………は?」
思わず、疲労で霞んだ目をごしごしと擦った。
そして、弾かれたように寝室へと駆け込む。そこには、整然と整えられたベッドがあるが、その中に主はいなかった。
「な……な……っ」
手にした手紙(らしきもの)を握り締め、わなわなと震える。
それからすぐに、懐から携帯電話を毟り出し、乱暴にボタンを押した。ミドリの番号も、母の番号も繋がらない。半ば予測していたが、その事実に眩暈さえ覚えた。
すぐさま気を取り直し、実家の番号にかけ直す。
『――はい、バンデラス……』
「ライ! ミドリはどこだ!?」
『あー? ……その声は、だぁい好きなお兄サマ。こんな時間に素敵な電話をありがとう、僕は元気でやってるよ』
「ふざけてる場合か! 母上はどこだ?!」
『母上なら、三日前から出奔中ですよー』
「父上はどうした!」
『親父さんがいたら、お袋さんが家を出るわけないでしょー。ノアトゥンでサミット中。明日の朝……あーもう今日じゃんか。今日には帰るって……てか、なに? なんかあった?』
寝惚けたような弟の声音に、アルベルトはいらいらと前髪をかきむしりながら、彼らしくもなく上ずった声で答えた。
「母上が……ミドリを拉致した」
『らちぃ? はー、まあ、いつかやるかもとは思ってたけどねえ。そんで? なんでそんなに焦ってるの?』
「焦らずにいられるか!」
『お袋さんのことだから、ミドリと一緒に楽しくやってるって。それに、朝には親父さんが帰ってくるんだから、間違いなくその時までにはうちに帰ってくるだろ。心配いらないよ』
「……」
弟の言葉に、アルベルトは興奮していた自分を自覚して、ふうと溜息をついた。
確かに、ライムントの言う通りだ。母はきっと、一人きりで家にいたミドリを連れ出し、気晴らしをさせているだけなのだろう。
けれど、ひっかかるのは手紙の一文。
<シングルライフを楽しみなさい>
これが非常に気になる。
母は聡明なひとだが、時折なにを仕出かすかわからない危うさがある。加えて、アルベルトには、その言葉に気後れする理由もあった。
確かに、ここしばらくというもの、ろくに家にも帰れず、ずっと大学で研究に明け暮れていた。論文の追い込みに何日も徹夜し、連絡すらままならない日々もあった。
これでは、まるで独身者の気ままな生活だ。妻帯者としての自覚がない、と、母は暗に言っているのだろう。
とすると。
今頃は、母に連れ回されたミドリも、独身気分で楽しんでいるのでは……たとえ彼女自身にそんなつもりはなくとも、夫婦間の愛情に敏感なあの母のことだ、不甲斐ない長男を懲らしめる意味でも、あれこれとミドリをけしかけ、思う存分楽しませていることだろう……
「くそ……!」
思わず受話器を握り締め、アルベルトは呪詛の言葉を吐き出した。回線の向こうで、弟が笑いを噛み殺している気配が伝わる。
『とりあえず、こっち来たら? 親父さんも帰ってくるし、そしたらお袋さんも素直にミドリを返すでしょ』
その言葉に、アルベルトは深い溜息をついて通話を切った。
そしてすぐに、玄関へと向かう。徹夜と接待に消耗しきった身体に鞭打って、実家への道を急いだ。
《お題31 『シングルライフ』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借
