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ダンソニ長編【寄れば零れる恋のあや:第七章 寄れば零れる恋のあや】

2026/05/09 13:56
【お題】ダンデ×ソニア



 翌日、相変わらずダンデの書斎にこもっていたソニアのもとに、ジニアからの着信があった。
『ソニアくん。ちょっと耳寄りな情報が手に入ったんですが』
 スマホ画面の中で、ジニアが真面目な顔で言う。いつものおっとりとした様子とはちょっと違う、わずかに緊張しているような彼に、ソニアは不安になった。
「どんな情報ですか?」
『メタモンの繁殖について研究している方に今回の件を話したら、メタモンがタマゴを顕現させる際の現象に酷似している、との回答がありました』
「えっ」
 その言葉に、ソニアが思わず声を上げる。この数日で、一番核心に近づく情報だった。
『彼が言うには、タマゴを顕現させる前……彼が『繁殖期』と呼ぶ数日の間、メタモンのツガイになるポケモンに、今回ソニアくんが見舞われた現象と同じような状態が確認される、とのことです』
 曰く、メタモンに対する親愛行動、求愛表現が顕著になり、その現象の後にメタモン、もしくはメスのツガイのもとにタマゴが顕現するという結果だった。
『普段からツガイとしての親愛関係にはないメタモンとでも、この時期になれば、急速に親密になるということです』
「……つまり、わたしたちの仮説がある程度正しかった、ということですね?」
 ソニアの言葉に、ジニアは静かに頷く。
『『タマゴ』を顕現させるために必要ななにがしかの条件として、メタモンへの親愛感情は確認されました。それを、メタモンが誘発しているのか、それとも他の条件があるのか、解明すべき点はまだまだありますが、とりあえず、今回のソニアくんの件について、このメタモンの特性が原因だと仮定しますと……』
「なんらかの条件によって、人間であるわたしが『メタモンの繁殖期』と同じ現象を起こしている。他のポケモンたちにとって『タマゴを産める』というシグナルを発し、親愛行動に走らせている……ということですね」
 その言葉に、ジニアが頷く。ソニアは、わずかに肩の力を抜いてため息をついた。
「なるほど……だいぶぶっ飛んだ仮説ですけど、現状の説明には合致しますね。メタモンの行動の謎も、これで説明がつく……」
 この仮説には、まだまだ穴がある。けれど、とりあえずの整合性は取れていた。ソニアは安堵したようにほほ笑む。
「ホントにわからないことだらけですねぇ、ポケモンは。わたしも、ポケモン博士として生きる以上、覚悟を持ってかれらと接します」
 その言葉に、ジニアもわずかに苦笑した。
『そうですねえ。この奥深さが、我々研究者の探求心をくすぐりまくるんですよねえ……まあ、とはいえ今回のことは、メタモン研究をしている友人も、驚いてましたよお。でも、がぜん光明が見えた、と』
「光明?」
『ええ。メタモンには、まだまだ解明しきれていない能力があると彼は信じていまして。現在の「へんしん」や、他種族とのタマゴの顕現だけではなく、人間と同じように思考し、理解し、創造する力があると力説してましたねえ』
 創意工夫ができるポケモンは他にもいるが、メタモンの能力はさらにその上を行く、と研究者は言っているらしい。将来的には、人間と同じようにレシピなどを作り、ものを創造することができると実証されるかもしれない。メタモンの底知れない可能性に、ソニアは頷くしかできなかった。
「なるほど。今回の件を見れば、不思議じゃないですね。わたしも今後、メタモン研究には注視していきます。でも……用心に用心を重ねなきゃですねぇ」
 あはは、とおどけたように笑うソニアに、ジニアはどこか上の空でほほ笑み返す。なにかを言いあぐねているような、奥歯にものが挟まったような彼の態度に気づいて、ソニアは小首を傾げた。
「ジニア先輩?」
『え……ああ、すみませえん。というわけで、ソニアくんの状況が、メタモンの繁殖に伴う現象、と仮定するならば、一週間から十日くらいでおさまるそうですよお』
 気を取り直したようにほほ笑むジニアに、ソニアは頷く。一週間から十日…あと数日で、この生活は終わる。
 改めてそう思い、胸に湧き上がった寂しさにちいさく首を振った。
 ……もともと、この生活は限定的なもので、ダンデくんだって、わたしが困っていたから助けてくれただけで……すごく、優しくしてくれたけど……なんだか、昔に戻ったような、ううん、それとは違う、落ち着かなくなるほどの『なにか』があったような……
 そこまで考えた時、ソニアの心臓はドクリと嫌な音を立てた。
 顔色が変わったソニアに、画面の向こうからジニアが静かな眼差しを向けている。ソニアは、わずかに震えるくちびるを開き、恐る恐る呟いた。
「……ジニア先輩……もしかして、その『親愛行動に走らせる現象』って……ポケモンだけに、限った話じゃないんですか?」
 ソニアの問いに、ジニアはわずかに困ったようにほほ笑む。
『……やっぱり、そこに気づいちゃいましたねえ。ソニアくんは、見逃さないと思いました』
「……じゃあ……」
『あくまでも、仮説です。研究者の彼も、実際にメタモンの特性が、人間に作用したなんて話は、初めて聞いたのですから。ですが……可能性は、なんだってあり得ます』
「……」
 淡々とした言葉が、逆にジニアの思いやりを表すようで、ソニアは長い睫毛を伏せる。それから、精いっぱいに明るい顔で笑った。
「――なるほど。そう言われると、思い当たる節があります。ポケモンたちほど顕著ではなくても、人間にも作用するんですね」
『ソニアくん、先入観はいけませんよお。検証もできていない、可能性の話です』
「でも、実際わたしは体験してますもん。この騒動があった後の、ダンデくんの態度は、やっぱり変でした」
 昔と同じように、幼馴染の情を向けてくれていると、思っていたけれど……それだけではない、くすぶる熱のようなものを、彼の黄金の瞳に見つけたのは、いつだっただろう。
 初日や翌日ではない。けれど長く一緒にいることで、じわじわとメタモンの影響が広がっていったのだろう。昨夜のヒリヒリするような緊張感も、きっとそのせいだ。
 ふっと短く息を吐いて、ソニアは真っ直ぐにジニアに向き直った。
「ありがとうございました、ジニア先輩。セイジさんにも、よろしく伝えてください。落ち着いたら、またメタモン研究しますから」
『ソニアくん』
「だいじょうぶです。言ったでしょう? 難しい片思いなんですよ。だからただ……」
 ソニアの長い睫毛が、白いほほに影を差す。諦めたように笑って、彼女は言った。
「ただ、元に戻るだけです」


 
 ジニアとの通話が終わったころ、空は黄昏に染まっていた。
 ソニアはぼうっと窓を眺めて、無意識に指を折る。ここに来て、六日目。短ければ明日、長くともあと三、四日でこの生活は終わる。
 メタモンの影響が抜ければ、ダンデも元に戻るだろう。あの優しさも、思いやりも、熱を帯びた黄金の瞳も、また遠く隔てた向こう側へ帰っていく。
 どこまでが幼馴染で、どこからが違うのか、わからないくらい自然にソニアを包み込んでいたダンデの熱は、たった六日間でソニアの魂に刻み込まれた。
 幼い頃の親密さや、長年の片想いの切なさも、すべて吹き飛ばすほどの、強力な呪い。
「……罰が、当たったかな」
 ぼんやりと呟く。その時、傍らのクッションに背を預けていたゴリランダーが、むにゃ……と、寝ぼけた声を上げた。
 今日は、ランクアップ戦の対応のために、ダンデの手持ちはかれを除いてすべて出動している。本当はゴリランダーも必要だったのだろうが、ソニアの身を案じたダンデは、頑として護衛を残すと言い張った。
 その気持ちも、すべてメタモンの影響だとは言いたくない。でも、ソニアが望むものでもない。
 気安い幼馴染のまま、わだかまりのない日々を過ごしているだけ。それだけが、ソニアの幸せだったはずなのに。
 いつから、こんなに欲張りになったのだろう。自分とダンデのあまりの距離に、嘆いて諦めていたはずなのに。やがて来る恋の終焉を、待ちわびるように覚悟していたはずなのに。
 たったの六日間が、ソニアのすべてを変えてしまった。
「……」
 傍らを見ると、ゴリランダーが気持ちよさそうに眠っている。付き合いの浅かったかれも、この数日で完全にソニアにこころを許してくれた。いまでは、古参の手持ちと同じくらいソニアに甘えてくるかれを、やわらかく見守る。

 ――ふと、なにかに呼ばれたような気がした

「……?」
 ゆっくりと顔を上げる。広くおおきな窓の向こう、ソニアの髪を映すような黄昏と、ダンデの髪を映すような薄明が、幻想的に混じり合っていた。
 ソニアは不意に、外の空気が吸いたい、と思った。自分とダンデが混じるような、あの空の下に立ちたい。
 野生ポケモンの出現を警戒して、ここ数日ソニアは部屋から一歩も出ることはなかった。ダンデのマンションのペントハウスはそれなりに高層だが、飛行ポケモンが飛べないほど高くはない。けれど、この家に来てからソニアは一切他のポケモンを目にした覚えはなかった。
 傍らのクッションで眠るゴリランダーに目をやる。幸せそうなかれを起こして、ほんのちょっとの気まぐれに付き合わせるのは忍びない。護衛としてソニアの傍についた若いゴリランダーは、たったひとりで今日を凌いだ疲れが出ているのか、うたた寝の眠りは深かった。

 ――さらに、誰かに呼ばれた気がして

 ソニアはふと立ち上がり、窓辺に向かう。一瞬前までの躊躇いはいつの間にか消え去り、音の立たない軽いサッシをするりと開けて、広々とした屋上へと足を踏み出した。
 裸足の下に、ザラリとしたコンクリートの感触があった。ここで、ダンデの手持ちたちがトレーニングを積むのだ。かれらの強さの秘密を吸った床は、ソニアの道行をざらざらと迎える。
 びゅう、と強く風が吹いた。ソニアはぼんやりとしたまま、そのぬるい風に黄昏の髪を遊ばせる。なにかを考えていた気がするけれど、こころのどこかが破れたように、なにもかもが鈍く遠く感じていた。
「……」
 ふっと眼差しを上げると、目の前に薄明の色があった。ダンデくんの色。焦がれるほど愛おしいその色に、ソニアが目を細める。
 ふわりと揺れる紫が、ソニアの眼前に迫ってきた。ゆっくりと、誘うようなその色に、ソニアは無意識に手を伸ばす。
 ダンデくん。
 ……ダンデくん――

「彼女を連れていくことは、オレが許さないぜ」

 ソニアの身体が強く引かれた。なにかに包み込まれた彼女が、ハッとしておおきく目を瞠ると、薄明の空に浮かんでいた巨大なフワライドが、怪しく光る赤い瞳でこちらを見下ろしている。
 ダンデはソニアを後ろから抱きしめて、真っ直ぐな黄金の瞳でそれと対峙していた。彼の薄明色の髪が、強い風に煽られてソニアの視界に散る。フワライドの紫は、その奥で濁って見えた。
 やがてフワライドは、ぬいぐるみのように愛らしい無表情のまま、黙って上昇し始めた。強い風にふわふわ煽られながらも、高く高く舞い上がる。
 その姿が、宵闇の雲間に消えていった瞬間、ソニアの身体を抱きしめるダンデの腕に、万力のような力がこもった。
「っ……だ、ん」
「……うかつすぎる……!」
 顔を伏せたダンデの、地を這うような低音がソニアの耳を焼いた。ソニアは、息が苦しいほどに締め付けられ、身体中を拘束された状態で、それでも泣きたいほどの安堵を感じていた。
「ごめん……ごめんね、ダンデくん……」
 息苦しさに声を細めながら、ソニアが呟く。ダンデはハッとしたように力を緩め、ソニアの薄い肩を掴んだ。
 振り返らされたソニアは、宵闇に光るダンデの黄金の瞳が、真剣な輝きで自分を射抜いているのに、真っ直ぐ対峙した。これほど怒っているダンデを見たことがない。子供の頃、幼い喧嘩で見せた怒りとは、根本的に違う激しさがあった。
 ダンデの激情を肌で感じながら、ソニアはしかし、一言も弁明できずにただ視線を合わせ続けた。
 彼女の深いエメラルドの瞳に映るダンデが、ひとつ瞬きをする。
 なにかを噛みしめるように、もうひとつ。
 自分でもどうしていいかわからない、衝動的なものを抑え込むように、もうひとつ。
 ソニアの目の前で、ダンデはゆっくりと我に返っていった。次に目を開けた彼は、理性の灯る黄金の瞳で、静かにソニアに問う。
「……一体、なにを考えていたんだ、ソニア。なんのために、ゴリランダーを護衛につけていたと思ってる。かれを置いて外に出ることが、どれほど危険なことか、わからなかったのか」
「……ごめんなさい」
「オレに謝る前に、かれを見ろ」
 厳しいダンデの言葉に、ソニアが室内の方を見やる。そこには、悄然と立ち尽くすゴリランダーと、厳しい表情を見せるリザードンがいた。リザードンは、ソニアを責めるような、嗜めるような、深い眼差しを向けている。かれの傍らで、ゴリランダーが心底痛々しげに肩を落としていた。
 その、表情を見て。ソニアは、湧き上がる後悔と罪悪感に喉を鳴らした。
「ご……っ、ごめんなさい!! ゴリランダー、あなたのせいじゃない、わたしが悪かった!」
 叫んで、そちらへ駆け寄ろうと身をよじるソニアを、けれどダンデは離さなかった。きらめくエメラルドが涙の珠を風に飛ばし、その細い肩が小刻みに揺れる。それでも、ダンデはソニアを離さなかった。
 嗚咽を漏らすソニアに、ダンデはなおも厳しく言う。
「かれらは、オレは、きみを本当に護りたいんだ。その気持ちを軽んじて、自分の身を危険にさらすことは、オレたちに対する最大の裏切りだ」
「うっ……うぇっ……、ご、ごめ、な、さ……っ」
 しゃくりあげるソニアの謝罪に、ダンデはたまらず眉を寄せ、再び彼女を抱きしめる。今度は力を加減し、壊れ物を扱うように、優しく。
 ソニアの震える喉が、ダンデの首元をくすぐった。全身をこわばらせる彼女を包み込み、ダンデはなだめるようにその背を撫でる。
「……わかってくれたらいい。オレも厳しすぎた。きみがフワライドに連れて行かれそうになったのを見て、頭に血が上ったんだ。すまない、ソニア」
「っ……でっも、わた、し、わる……っ」
「うん……わかった。もう二度と、オレたちを裏切らないな?」
「んっ……うんっ……」
「それだけでいい……ソニア、もういい、泣くな」
 優しく囁いて、ダンデがソニアの顔を上げさせる。涙でべたべたに汚れた彼女の白いほほに、おおきな手のひらを這わせた。
「もういい、だいじょうぶ、怒ってないから」
「うっ……ひっく……っ、ん、」
「止まらないか? そうか……」
 涙に濡れたソニアのエメラルドが、溺れるようにダンデに縋る。ダンデは彼女をそっと仰向かせると、震えるくちびるを軽くふさいだ。
「……っ、――ヒック」
 息を呑んだ瞬間、ソニアがしゃっくりをする。あまりに驚きすぎて、呼吸が止まりそうになって、肺ではないところに空気が入った気がした。
 そんなソニアの様子に、ダンデは困ったように笑う。
「涙は……止まったよな?」
 まるで悪戯が成功したような顔をする彼に、ソニアははくはくとくちびるを震わせた。涙はとうに引っ込んで、代わりに胸を焦がすような羞恥が押し寄せる。
 ソニアの狼狽に、ダンデはすまなそうに眉を寄せた。
「ごめんな、ソニア。……我慢、できなかった」
「が……我慢……ヒック!」
「今度はしゃっくりか。これも、驚かせばいいんだったか?」
 そう言って、ダンデは再びソニアに顔を寄せる。ソニアは何事か叫ぼうと口を開き、そのままダンデの熱いくちびるに塞がれて、息ごと呑み込まれた。
 今度はゆっくりと、丁寧にダンデのキスが続く。ソニアは酸欠になるほど長く拘束されて、しまいにはゲホゲホと忙しなくむせてしまった。
 散々な様子の彼女に、けれどダンデは全く悪びれずに言った。
「しゃっくり、止まったな?」
「――っ! ダンデ!!」
 羞恥に叫ぶソニアに、ダンデは蕩けるようにほほ笑む。そのあまりの甘さに、ソニアは怒りを持続できずに眉を寄せた。
 この腕の中で、なにかをまともに考えるのは難しすぎる。けれど、彼女にはどうしても通さなければならない筋、明らかにしなければならない真実がある。
 決して欺瞞を許さない、研究者としての誇りだけが、その時のソニアを突き動かしていた。
「――ダンデくん。きみはいま、メタモンの影響下にあるんだよ」
「……は?」
 突然真面目な顔でそんなことを言うソニアに、ダンデはおおきく目を見開いた。
 自分の腕に抱かれて、蕩けるほど甘く、信じられないほどやわらかく溶けていたソニアは、一瞬で石のように固くなっている。真剣な眼差しは冴え冴えと強く、こわばった顔色は紙のように白い。
 理知的な眼差しで、ソニアはゆっくりと続けた。
「わたしのこの現象は、メタモンによる『繁殖期の親愛現象を誘発する作用』である可能性が高いの。つまり、わたしがタマゴを産むのに最適な相手に見えてる。だから、ポケモンたちはこぞってわたしに群がってきた……そういう仮説が、有力なの」
「はあ……」
「そしてその影響は、おそらく人体にも及ぶ。ダンデくん、きみは気づいていないかもしれないけど、ここ数日、様子がおかしかったんだよ。普段よりもわたしに優しい……ていうか、甘い……ていうか、あの、えっと……」
 真っ白だったほほに、ぽっともも色がともる。ソニアはエメラルドの瞳を泳がせて、必死に言葉を選んでいた。
「……まるで、わたしに恋してるみたいだった。わ、わたしの勘違いだと思ってたけど、メタモンの影響だったんだよ。ダンデくんのせいじゃない、わたしのせいなの。だから、安心して」
「……はあ」
 気の抜けた声に、ソニアは恐る恐る視線を戻す。見ると、ダンデはソニアを見下ろして、こころの底から呆れたように眉を寄せていた。
「え、ダンデくん? もしかして、怒った……?」
「いや……怒っては、いない」
「そだよね……自分が無意識になにかに影響されてたなんて、気分のいい話じゃないよね……ホント、迷惑かけてごめん……」
「いや……」
 はぁ、とため息をつくダンデ。ソニアは胡乱な様子の彼に、どうにか誠意を伝えられないかと、真剣な眼差しで言った。
「ダンデくんには迷惑だっただろうけど……わたしは嬉しかったんだ。だって……わたし、わたしは、ずっとダンデくんのことが好きだったから」
「……」
「でもこんなの、わたしにばっかり都合がいいよね。ほんとごめん。喜んじゃってごめん。幼馴染のくせに、変に期待して、嬉しくなっちゃって……あ、こ、こんなん言われても困るよね」
「……」
「あの、この影響も、あと三、四日でおさまるから! そしたら、わたしはできるだけダンデくんに近づかないようにするから、だから……!」
 ソニアがまくしたてるようにそこまで言うと、再びダンデの顔が覆い被さってきた。今度は、ちょっとやそっとでは逃げ出せないように、背中から後頭部までを両の腕でがっちり拘束し、完全にソニアを捕まえたまま、ダンデのくちびるが彼女を翻弄する。
 息ができなくてあえぐくちびるすら、許されずに溺れた。怖がるような彼女に、そっとなだめる舌が這う。
 口腔内からじんわりと快感が広がって、いつの間にかソニアは、全身の力を抜いてダンデに縋りついていた。
 やがて、ようやくソニアのくちびるが声を取り戻した。
「――だ……ンデ、く……」
 すでに暗い夜の闇、眼下に広がる広大なシュートシティの夜景の灯りだけが、ソニアの濡れたくちびるを光らせる。その艶めかしい表情、力の抜け切った煽情的な様子に、ダンデはにっこりと狼のような笑みを浮かべた。
「……ソニア。オレもきみが好きだ、大好きだ、昔から死ぬほど好きだぜ」
「ふぇ……」
「この気持ちがメタモンの影響だって言うなら、オレは五歳の頃から操られてることになる」
「はぅ……」
「聞いてるか? ……聞こえてないな? それでもいいぜ、ソニア。やっとオレのターンだ」
 くすくすと笑いながら、ダンデがソニアの耳朶を甘噛みする。やわらかく、気が遠くなるほどかぐわしい彼女を、ようやく手に入れた。
 十八年来の長い両片想いは、怒涛のような六日間で、あっさりと幕を閉じた。



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