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【永遠の勝負】《アレクシス×リオン@XENOGEARSパラレル》

2026/04/24 16:52
【お題】他



 出会った日のことは、なにからなにまで覚えている。
 自分がどんな服装で、どんな髪形をしていたか。
 彼がどんな歩き方で、どんな風に挨拶をしたか。
 多分一生、忘れない。


 母が亡くなってから、ほとんど縁も切れていた『父』に命じられ、政治の駒として婚約した。
 愛情なんて一切与えられずに育って、父へ期待することなんてなにも残っていなかったから、抵抗する気持ちも起きなかった。
 そして初めて会った婚約者は、生まれてからずっと受けてきた屈辱的な扱い……私を、私としてではなく、ただの駒としてしか見てくれない、まさに父のような男で。
 目が合って、ものの二秒で言われた言葉は。
「この縁組みは、歴然とした政略結婚だ」
 何も映さない、硝子玉のような瞳。
「私は夫として君を養う義務は持つが、男として君を愛する義理は持たない」
 理性的で排他的な、低い声。
「しかもこの時勢、なにがどうなって状況が変わるかわからない」
 真っ直ぐにこちらの目を見て、なにものにも揺るがない意思で。
「君も、暫定的な縁だと思って、割り切っていて欲しい」
 悪魔のように涼しげな顔で、彼がそう告げた瞬間。
 私は、自分でも信じられないほどの速さで、彼の取り澄ました頬を思い切り叩いていた。
 その時の私は、いままで溜め込んできた一生分の怒りと哀しみ、憤り、寂しさ、悔しさ、痛み、嘆き……色々な感情が混ざり合った、なにがなんだかわからない状態で。
 それまでずっと、自分自身でも気付かなかった本当の自分は、御仕着せのドレスの中で信じられないほど激しく高ぶり、呆然とこちらを眺めている最低の男の顔を、思い切り睨み上げて叫んだ。

「愛情のない結婚なんて真っ平!!」

 思えば、政略結婚の相手に対して、我ながら馬鹿なことを言ったものだ。
 だけど、そのときの私には、それは本当に耐えられないことだった。
 いままで、妾腹の子として蔑まれ、惨めな思いをしてきた自分が。
 なにもかも悟ったように、諦めていたはずの自分が。
 こんなに激しく主張できたことなんてない。
 まして、会って間もない男性をぶつなんて、そんなこと、出来るとは思わなかった。
 でも、もしそれで、破談になってもいいと思った。 
 父に、役に立たない小娘だと罵られても。
 彼に、暴力の報復を暴力で返されても。
 誰からも望まれない、うち捨てられた塵のような存在になっても。
 愛のない人生を歩むくらいなら、その方がずっといい。
 本気で、思った。
 一瞬にして、自分の十六年の人生を清算し、覚悟を決めた私の前で、わずかに赤くなった頬を手の甲で押さえながら、彼が言った。
「……君がどう思おうとも、この婚姻は契約に基づいて決定されたものだ。今更破談にはできない」
「でも、私はいや。愛のない人生を生きるくらいなら、死んだ方がマシよ!」
「一時の衝動で死を選ぶのか。あまりにも愚かだな」
 蔑むように見下されて、私は再びかっとなった。もう一度振り上げた手を、けれどすぐさま彼に掴まれ、ぎりりと握りこまれる。
 痛かった。ものすごく痛くて、声が漏れそうになったけど、意地でも泣いたりしたくない。私は黙って、目の前で表情を変えずにいる男を睨んだ。
 たとえこの場で殺されたって、私は負けない。
「……私の方から破談にすれば、君の父上も納得するか?」
 不意に問われた言葉に、私はぱちくりと目を見開いた。一瞬、なにを言われたのかわからず眉を寄せると、彼はさらに言い募る。
「この縁談が流れれば、両家に著しい不利益が生じる。だが、私の一存だと言えば、多少は君の父上の溜飲も下がるだろう。君への叱責はないと思うが、どうだ」
「……よく、わからないけど……、たとえあなたとの話が流れても、すぐ他の男にあてがわれるわ。でももう、私は自分の望まない人生を生きる気はないの。だから、いずれ父には殺されるでしょうね」
 それが遅かれ早かれ。役に立たない駒を残すほど、父は甘い人間じゃない。
 でも、たとえそうでも。
 もう、私は決めていた。
「だから余計な情けは無用よ。あなたに借りを作るなんて真っ平。父には私から言うわ」
「……」
 その時、彼の鉄面皮がわずかに崩れ、なんとも言いがたい苦々しい表情が浮かんだ。
 そして、掴んだままだった私の手首をおもむろに見やり、くっきりと指の痕がついたそこから、ふっと力を抜く。
 そのまま、ゆっくりと私の手を取って、赤い痕にくちびるを寄せた。
「――俺も、借りを作るのは嫌いだ」
 軽くキスされた瞬間、それまでとは違った意味で、心臓が高鳴った。
「このままお前を死なせたら、なにか大きな借りを作るような気がする」
「借りって……誰によ?」
「さあ。……だが、返せないほど大きな借りを、一生背負っていくつもりはない」
 そう言って、彼は私の手を離し、嵐の夜のような瞳を向けてこう言った。
「破談にはしない。お前と俺は貸し借りなしだ。その上で、お互いがお互いに望むものを望み、求めればいい。遠慮も会釈も義理も情けも無用だ。どちらかが折れるまで、戦い続ければいい……それとも、負けるのが怖いか?」
 にやり、と、挑戦的な笑みを浮かべる彼に、私はまともではない思考回路のまま、反射的に怒鳴った。
「馬鹿言わないで! 私にはもう、怖いものなんかない!」
 死ぬ気になれば、なんだって出来る。そう、思った。
 すると、私の底意地の悪い婚約者は、人間とは思えない酷薄な笑みをうっすらと浮かべ、癪に障るほど優雅に一礼した。
「言っておくが、俺は負ける勝負はしない」
 その言葉に、私の闘争本能がさらに燃え上がったのは、言うまでもない。
 そして私たちは、まるで開戦の狼煙を上げるように、婚約者同士の初対面の日を終えたのだった。



《お題30 『納得行かない』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借


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