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【欲しがりません勝つまでは!】《アーサー×フィー@FEユグドラ学園》

2026/04/22 18:26
【お題】アーサー×フィー



 早朝の風は清々しく、眩い光に満ちている。
 まだ、世界がまどろむその時間、閑静な住宅街を進む二組の足音があった。
「ほーらっ。あご出てるぞぉ」
「っ、な、こ、と、言ったって……っ」
「どしたどしたぁっ。まだ5キロしか走ってないぞ!」
「ごきろぉ??!」
 数字にして示されると途端に疲労が倍増しになる。アーサーはぜいぜいと喘ぎながら、ほとんど惰性で足を前に進めていた。
 彼の数歩先で、フィーが余裕で足踏みしている。ショートパンツから伸びたすらりと細い足は、アーサーのそれとは対照的に羽根でも生えているかのように軽やかだ。
「あとちょっとで自然公園だよ。アーサーファイトォ」
「う~~~い……」
 酔っ払いの親父のような声で答え、アーサーは高く結い上げた紫銀の髪を揺らしながら汗だくになって走った。
 やがてようやく、ふたりは国立公園へと到着した。よく整備された芝生の上に倒れこんだアーサーに、フィーは軽く湿った額をタオルで拭きながら、呆れたように肩を竦める。
「もー。こんなに体力落ちてたとは知らなかった。最近運動不足じゃない? アーサー」
「俺……は、文……系、人間……だから、いいんだ……よっ」
 ぜいぜいと息も絶え絶えに喘ぐ彼を見下ろし、フィーは呆れたように眉を上げる。それから軽やかに踵を返し、たったった、とどこかへ駆け出していった。
 自分の呼吸の音と、心臓の音だけが耳に反響する中、アーサーが緑の芝生のちくちくした感触さえ気付かずにいると、ややしばらくして突然冷たいものが頬に押し付けられた。
「ぅわっ」
 思わずがばりと身を起こすと、そこにはドリンクを片手ににっこりと笑うフィーが。
「おつかれさまのごほうび!」
「あ、さんきゅ……」
 ありがたく受け取り、キャップを開けた瞬間ごくごくと喉を鳴らしてドリンクを飲んだ。身体中の汗腺から絞り出た汗の分、水分を染み込ませるようなアーサーの傍らに腰を下ろし、フィーもきゅっとボトルを開ける。 
「でも、ほーんと。こんなんじゃ、先行き不安だなぁ」
 はぁ、と溜息をつきながら言うフィーに、ようやく人心地ついたアーサーがじろりと視線をやる。
「あのなぁ。アスレチックは持久ゲームじゃないんだぞ」
「でも、体力はあった方がいいんでしょ? 去年のゲームに参加したひとから聞いたら、結構ハードだったって」
「そりゃそうだけど……」
 毎年夏に行われる、自由参加のサマーキャンプ。そこでは、学生会主催で様々なイベントやアトラクションが催される。知力体力時の運を問われるそれらのイベントごと優勝者を決め、それぞれにかなり美味しい賞品や権利が用意されていた。
 今年初参加のフィーが選んだイベントは、キャンプ場に設置されたアスレチックフィールドにおいて、男女ペアがゴールを目指す、アスレチックゲーム。当然の如くその相方に選ばれたのは、幼馴染兼恋人未満の少年だった。
 本来決して体育会系ではない彼を選んだのは、運動能力のネックを差し引いても、誰よりも息の合う呼吸で挑めるメリットに加え、決して彼には明かせない、ある理由があった。
「とにかく。俺だってそりゃ、体力に自信ある方ってわけじゃないけど、運動神経が悪いわけじゃないから、ここまで特訓しなくてもそこそこいいとこいくって」
「それじゃダメなの、優勝しなきゃ!」
「へ?」
 意気込んだフィーの言葉に、アーサーがきょとんとする。フィーは思わず口を押さえ、慌てて取り繕った。
「あっ、いやその、どうせ参加するなら優勝を目指しましょう! ねっ?」
 その動揺っぷりに、アーサーはじろりと不審な視線を返した。
 思い返せば、このゲームに彼を誘った時も、フィーの様子は変だった。妙にどきまぎしているかと思えば、早朝のランニングに無理矢理誘ったり、不自然なほどやる気に満ちていて。
 これは何かあるな、と、アーサーは確信した。
「優勝すると、なんかいいことあるの?」
「えっ?!」
 ぎくぎく。小作りなフィーの顔いっぱいに『まずい!』が張り付く。そんな素直な様子を微笑ましく思いながらも、アーサーは俄然好奇心が疼いた。
「なんだよ? なーに隠してんの、フィーちゃん?」
「か、隠してないよ?! えっと、あ、そうだ、確かアスレチックの優勝賞品は、ユグカフェの全品一ヶ月無料券、だったよね?! すっごいよねー!」
「……」
 あやしい。
 と、顔面に貼り付けたアーサーの、容赦ない視線に晒されながらも、フィーは内心冷や汗をかきつつこれだけは死んでも言えない、と念じた。
 まさか、言えるわけがない。
 このゲームに参加するわけが……
 他愛無い友人同士の賭け、だなんて。
 そしてその賭けの代償……もしも自分が負けた場合。
 パートナー……つまり、アーサー、と。
 みんなの前で。
 キスをすること。
 ……だなんて!
 言えるわけないじゃないっっ!!
 一体どうしてこうなったのか、細かいことはよく覚えていない。けど、とにかく、ラクチェとリーンとパティにだけは、絶対に絶対に負けられない、のだ!
 そのためにも、アーサーには死ぬ気で頑張ってもらわなくっちゃ!
 意気込みを新たに、フィーはめらめらと燃える瞳で幼馴染を見つめた。
「アーサー! がんばろうねっ!!」
「えー。俺、てきとーでいいよう」
「なっ、なに言ってんのぉっ」
 やる気の欠片もないアーサーの反応に、フィーは焦って声をひっくり返した。がばり、と芝生に手をついて、寝転がったアーサーにずいっと顔を近づける。
「がんばってよ! じゃなきゃ負けちゃうじゃないのっ」
「誰にー?」
「えっ? あ、いや……ほ、他の参加者によ!」
「いーじゃん負けたってさぁ。こういうのは、参加することに意義があるんでしょ?」
「それじゃだめー!」
「ふうん……だったら」
 にやり、と、猫のように瞳を細めて。アーサーは、近づいてきたフィーのおおきな翡翠の瞳をじっと射抜いてこう言った。
「頑張ったらごほうびちょうだい?」
「ごほうび?」
「そ」
 にっこり。無邪気に笑う幼馴染に、フィーはしばし眉を寄せる。
 ごほうび。う~ん、それでやる気が出るんなら……
 一瞬で、損得勘定が終了した。背に腹は変えられない。
「よし、わかった。優勝できたら、なんでもひとつ言うこときいたげる」
「マジで?!」
 がばり、と、アーサーが跳ね起きる。思った以上に太っ腹なフィーの言葉に、いつの間にか目が爛々と輝いていた。
「その代わり、優勝したら、だよ?! 本気出して頑張ってくれなきゃだめだよ?」
「うんうん、まーかせて! よぉし、俄然やる気が出たぞぉっ」
 そう言って、軽やかに立ち上がったアーサーの、あまりにも晴れ晴れとした顔に一抹の不安を覚え、フィーは慌てて付け加える。
「あっ、でも、あんまり高いものとか、だめだよ? お小遣いの範囲内ね!」
「オッケーオッケー。大丈夫、フィーの財布は痛めないから」
 にっっっこり。
 輝くようなアーサーの微笑みに、本能的に危険なものを感じつつも、フィーは目前に迫ったよりリアルな賭けの代償にばかり気をとられて、自分が契約書にサインしたことにまだ気付いていない。
 ひとはそれを、悪魔の契約書、と呼ぶことも知らず。
「さー、フィー! そうと決まったら、走りこむぞっ」
「うんっ」
 爽やかに走り出したカップルのうち、勝っても負けても結果が同じだということに気付くのは、どちらが先だろう?
 それはまさに、神のみぞ知る。



《お題29 『息も絶え絶え』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借



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