challenge

【街角のヴィーナス】《デルムッド×レイリア@FIRE EMBLEM聖戦の系譜》

2026/04/16 20:44
【お題】デルムッド×レイリア



「おにいちゃん、あっち、あっち! みんないっぱい集まってるよ!」
 幼い女の子に手を引かれ、デルムッドは前屈みになりながら歩いた。もう一方の手には、さらにちいさな男の子を連れている。
 彼らと出会ったのは、昨日のことだった。戦禍を被った幼い姉弟とその母親は、混乱の中デルムッドが率いる部隊に保護され、民のために開放された教会へ避難していた。子供たちは無事だったが、母親は逃げる際に深い怪我を負っており、現在治療を施されている。
 そういった避難民であふれかえった教会において、居場所がなかった子供たちを、任務から外れたデルムッドが面倒を見ると買って出たのは、愛嬌よしの姉と、怖がりだが素直な弟に、なんだかんだと懐かれたのが理由だった。
 恐ろしい目にあいながらも、健気に母親を助けようとする姉弟に対し、デルムッドは遠い昔の自分たちを思い出していた。帝国の目から逃れて暮らし、子供ながらに助け合いながら成長した過去を思うと、どうしてもなにかしてやりたくなる。
 焼け石に水のようなデルムッドの善意は、けれど幼い姉弟にとってはなによりも嬉しい出来事だった。騎士といってもどこか柔和で、威圧感のないデルムッドにまとわりつくように親しむ彼らは、一応の平和を取り戻したおおきな街が物珍しいらしく、明るい声を上げている。デルムッドはそのことに、穏やかな安堵を覚えていた。
「ねえねえ、早くいこう、おにいちゃん」
 おしゃまで機転の利く姉の方は、先ほどからあちこちと興味の対象を変えている。あまり遠くに行って、治療を終えた母親とすれ違いになることは避けたかったので、デルムッドは幼い少女をそれとなく誘導しながら、おおむね非常に上手く世話をやいていた。
 少女の指差す方向を改めて見ると、なるほどやけにひとが多い。おおきく開けた辻に、不自然に集まった観衆の中央になにがあるのか、デルムッドは純粋な好奇心と、解放軍の一員としての警戒心でもって確認すべく向かった。
 すると近づくにつれ、ひとの輪が奏でる陽気な拍手や歌声が響いてきた。戦乱という災いを味わったはずの人々が、そろって楽しそうにはしゃぎ、歌い、笑っている。
 そのことに驚いた瞬間、人垣の隙間から覗いた白い肌に、二度ぎょっとした。
 やんやの喝采を浴びて踊るのは、豊かな黒髪の妖艶な踊り子。均整の取れた瑞々しい肢体を惜しげもなく晒し、しなやかで優美な舞を披露をしている。
 雑多な街角には似合わない、それはまるで女神の饗宴。
 デルムッドは、非日常的なその光景に半ば呆然としていた。
「すごーい! きれい!」
 デルムッドの手を引いて、少女が感嘆の声を上げる。同時に、踊り子はこの世のものとは思えない優雅な手つきで空をかき、人々の歌に合わせて複雑なステップを踏んだ。
「すごい!」
 その動きに、姉に比べて引っ込み思案な上、戦乱の恐怖にこころを閉ざしがちだった少年が、デルムッドの手を強く握って呟いた。見ると、ちいさな彼の顔中に、明るい笑顔が浮かんでいる。ただ純粋に、綺麗なものへの強い憧憬が伝わってきて、デルムッドは再び踊り子へと目を転じた。
 彼女はうつくしく、そして驚くほど輝いている。その輝きに魅せられた人々は、知らぬ間に笑顔と希望を取り戻し、埃のたつ街角の辻が、まるで王宮のように華々しく変化していた。
 いつの間にか彼女から目が離せなくなったデルムッドが、食い入るようにその舞を見つめていると、人々の歌声が終わりを迎え、同時に踊り子の舞が優美な余韻をもって終了した。
 黒髪のひと房までもがうつくしく静止すると、次の瞬間ぱっと彼女が顔を上げる。
 その時初めて、デルムッドは彼女が類稀なる美貌の持ち主であることに気がついた。
 おかしな話だが、踊っている時は、彼女がこれほどうつくしい顔をしているとはわからなかった。辛うじて、しなやかな手足や華奢な肢体が均整が取れていることはわかったけれど、そんなものよりも、その舞の圧倒的な輝きに夢中になり、彼女の美醜にまで考えが及ばなかったのだ。
 彼女の舞には、美醜にとらわれない不思議な魅力がある。そう感じ、なんとなく目が離せないまま人々に朗らかに笑いかける彼女を見つめていると、ふとした拍子に目が合った。
 辻を挟んですら、その驚くほどおおきな瞳が、黒曜石のように清らかに澄んでいることが知れて、デルムッドは慌てて会釈する。不躾に女性を見やっていたバツの悪さを感じる暇もなく、彼の手を引いた子供たちが、ずんずんと彼女へ近づいていった。
「こんにちはー」
 物怖じしない少女の挨拶に、踊り子は意外なほど無邪気にほほ笑み返した。
「はい、こんにちは」
 その声はなめらかに低く、しっとりと耳に心地よい。自分の生き方に誇りを持つ女性の声音に、デルムッドは素直に感心した。
「ねえねえ、どうしてこのお姉さん、裸で踊っていたの?」
 その時傍らで、少女が子供特有の素朴な疑問を投げかけてきた。同時に、踊り子の顔に苦笑めいたものが閃く。おそらく、何度も同じようなことを聞かれているのだろう。デルムッドは深く考えず、自分の連れである子供の疑問に答えてやった。
「このひとは、踊り子なんだよ。裸じゃない、踊り子の衣装を着ているんだ。さっきの踊り、綺麗だったろう? このひとが踊り子の衣装を着ているのは、その踊りが一番綺麗に見えるようにしているためだよ」
 そう答えていながらも、デルムッドは内心、彼女ならば、どんな服を着ていようとも、必ずひとのこころに触れるだろうと確信していた。そこにはまるで魔法のような、強烈なまでの光がある。
 それに憧れ、自分も踊り子になりたい、と言い出した少女をあしらっていると、ふと、自分にあてられた彼女の、強烈な視線を感じてちらりと目をやった。
 踊り子は、吸い込まれるほど深い、闇色の瞳を見開いて、じっとデルムッドを見つめていた。真っ直ぐに視線が合った瞬間、デルムッドは確信する。
 ああ、彼女のこの光は、踊りだけではない。彼女そのものから発される輝きだ。
 それはおそらく、持って生まれた才能に、気の遠くなるような努力を重ねて得た、彼女自身の光。騎士が己の刃を研ぐように、踊り子はその舞でもって、自らを輝かせている。
「あなたもたくさん練習したのでしょう?」
「えっ?」
「これほどの舞を会得するために、努力されたのでしょう。感服しました」
 気がつけば、素直な賞賛の言葉が浮かんでいた。
 デルムッドの言葉に、踊り子は少し、困ったように言葉を失い、それから驚くほど無邪気な瞳で、デルムッドを見つめた。
 その、こころの底を覗くような澄んだ瞳に気圧されて、デルムッドは思わず息を呑む。
 きらきら光る彼女の瞳は、デルムッドの次なる言葉をいとも容易く忘れさせてしまっていた。



《お題27 『キラキラヒカル』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借



コメント

[ ログインして送信 ]

名前
コメント内容
削除用パスワード ※空欄可