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【ある詳らかな愛】《アルベルト×ミドリ@XENOGEARSパラレル》

2026/03/24 21:58
【お題】他



 長い冬に入る間際の、乾燥した日の光が、さらさらと踊る金の髪を照らしている。
 歌いだしそうなくらい上機嫌で、彼は歩いていた。実際、かすかだが鼻歌のようなものも聞こえてくるような気がして、少女はその高揚が伝染したかのように鼓動を速める。
 広大な国立大学の敷地を、ただ並んで歩いているだけでも、幼い彼女には胸躍るもので、それに加えて初めて見た時からこころを奪われたうつくしい少年が、傍らで楽しそうにしているのは、まさに天にも昇る幸福感を与えてくれた。
 本当は、誘いに乗ってくれるか不安だったけれど……それが杞憂だったと知り、内心嬉しくなる。自分の容姿には自信があったので、この結果も当然のことだと、自己満足でほほが緩む。
 きっと彼の方でも、自分とふたりだけで歩くことを望んでいたのだ。幼さゆえの楽観主義で、彼女はそう結論付けて言った。
「ねえ、アル。ちょっと遠出してみない? 近くに新しいショッピングモールが出来たって聞いたわ。そこへ遊びに行きましょうよ」
 出かける口実は、近所の店に買いだしに行くことだったが、予定を変更しても問題はないだろう。少しでも遠くへ行けば、それだけ長く一緒にいられる。
 彼女の言葉に、アルベルトは上機嫌のままほほ笑んだ。
「モールへ行きたいの?」
「うんっ」
「じゃあ、こっちにメトロがあるよ」
 行き先を変えて、アルベルトが進んだ。その腕に、思い切って捕まってみる。身体を寄せても、彼は驚きも嫌がりもしなかった。嬉しくなる。
「少しくらい遅くなっても平気よね。室長さん、いいって言ったもんね」
 さりげなく確認するように言うと、アルベルトはうん、と頷いた。ますます嬉しくなって、彼女はさらに饒舌になる。
「室長さんて、最初もっととっつきにくいひとかと思ったけど、意外にいいひとよね。口数は少ないけど」
「そうだね」
「私たちよりも、ずいぶん年上なのよね?」
「六つ年上だよ」
「あら、そうなの。大人っぽいから、もっと上かと思った」
 少しだけ皮肉を混ぜてみる。けれど、アルベルトは表情も変えずに笑うだけで、密かに心配していたような反応は全然見られない。
 なによ、やっぱりあんなの、根も葉もない噂じゃない。
 ようやく確信を得て、彼女は無邪気な喜びをいっぱいに振りまいて笑った。
「ねえ、アル。私、今度からもっと大学に遊びに来るわ。だって、こんなところに一人ぼっちじゃあ、アル、つまらないでしょう?」
「そんなことないよ」
「嘘よ。周りは大人ばかりだし、研究室だって、あの愛想のない室長さんとか、オジサンばかりじゃない。話だって合わないだろうし、毎日退屈じゃないの?」
「そんなことないよ」
「私ね、おじいさまに頼んで、春からこの近くの学校に通うつもりなんだ。そしたら、毎日頻繁に会いにこれるし」
 その時ぴたり、と、アルベルトが歩を止めた。そこがメトロの入り口だと気付いて、少女は彼を促した。
「早く行こう、アル」
「うん。気をつけて。さようなら」
「え?」
 不意に、掴んでいた腕をするりと解かれて、彼女はきょとんと目を丸くした。アルベルトはそのまま踵を返し、元来た道を足早に戻っていく。 
 その背中を、少女は慌てて追いかけた。
「待って! ねえ、どういうこと? 一緒に行ってくれるんでしょ?」
「いや、僕は行かないよ。早く買い物をして研究室に帰らなきゃいけないから」
「買い物って……まさか、ビタミンサプリ?」
「うん」
 尖った少女の問いかけに、アルベルトはこともなげに頷いた。そんな彼の腕を掴み、正面に回りこんで少女が言う。
「なんで! どうして、そんなこと言うの? 別に、室長さんは急がなくていいって言ったじゃない。私と買い物してきなさいって言ったじゃない」
「違うよ。君と買い物をして来いなんて、一言も言っていないでしょう?」
 穏やかに言われて、少女は悔しそうに頬を強張らせる。
「同じことでしょ! アルと買い物に行ってもいいかって聞いたら、いいわよって言ったじゃない!」
「それは、きみの希望を聞き届けただけで、僕になにかを命じたわけじゃないよね」
 優しいはずのアルベルトの声音が、ちっとも優しくない言葉を放つ。それに苛立って、少女は癇癪を起こしたように叫んだ。
「私より、室長を取るの?!」
 その言葉に、アルベルトは瞬間絶句して、すぐに思い切り噴出した。
「い、いつの間に、君とミドリが同列に序されたのかな? ちっとも気付かなかった」
 あまりにもひとをバカにした返答に、少女は可愛らしい顔を険しく歪める。
「……ッ、なによ! あんな年上の女のどこがいいの? みんな噂してるけど、ちっとも似合わないわよ! それに、あの人はアルが思ってるほど、あなたのことなんか興味ないじゃないの!」
 少女が言うと、アルベルトは笑いを収め、次の瞬間透き通るような海色の瞳をすう、と細めた。くちびるは笑みの形を作っていたけれど、その表情はどこか、圧倒的な怜悧さを湛えている。
「どうして君に、そんなことがわかるんだい?」
「だ……っ、だって、私がアルと買い物に行ってもいいって……普通、好きならそんなこと言わないでしょ」
 しどろもどろになりながらも、言うべきことは言ってやらねば気がすまない。あの瞬間、確かに自分は、年上の彼女を退けたという優越感を感じたのだから。
 けれど、その言葉にアルベルトは、鮮やかにほほ笑んだ。 
「だって君は、『ミドリ』にじゃなく、『室長』に許可を求めたじゃないか。彼女の性格上、公私混同するはずがないと踏んだんでしょう?」
 強かな計算を軽く見通されて、幼いながらも女のプライドを傷つけられた彼女はますますカッとした。
「それじゃあ、『ミドリ』に聞いたら、なにか違っていたっていうの!?」
「さあ?」
 軽くいなして、アルベルトがほほ笑む。少女が一目で恋に落ちた、それは物柔らかでうつくしい笑みだった。
「その答えがどうでも、僕の行動は変わらないから、わからないな」
「な……によ! 結局あなたは、ミドリがどう思っていようと、自分のしたいようにするだけじゃない!」
 精一杯の皮肉をこめて言うと、弱冠十三歳の少年は、年よりもずいぶん大人びた、妖しいまでの色香を湛えてちいさくほほ笑んだ。
「それが恋ってものじゃないかな?」
 その言葉に絶句した少女を置いて、少年は軽い足取りで、大学への道を駆け戻っていった。



《お題22 『NO』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借


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