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【姫君の大いなる素朴な疑問】《クリフト×アリーナ@DQ4》
2026/02/25 19:26【お題】他
とある宿屋の一室。世界を股にかけ、文字通り救世の勇者として旅をする一行の華やかな一団は、いつも通り三人一緒にひとつの部屋を取っていた。
夕暮れ間近に宿に入り、ここ連日の野宿の疲れを癒すべく、それなりの晩餐を済ませたあと、あてがわれた部屋でまったりとくつろぐ時間。
殺風景な宿の部屋も、妖艶な踊り子、美貌の占師、可憐な姫君がくつろぐだけで、まるでどこぞの王宮の一室のように、鮮やかな雰囲気に包まれる。
中でもとりわけ元気なのが、昼間魔物相手に存分に暴れたはずの、まだ初々しい年頃の少女。彼女の声は姿同様、甘く弾けて耳に心地好く、密かにその声に聞き入りながら、踊り子は昼間の強行軍でかさついてしまった肌の手入れに余念がない。
「魔法って、かける相手によって効力が変わったりするの?」
天然の巻き毛を濡らしてあどけなく問うアリーナは、世話好きなミネアに言われた通り、柔らかなタオルでその髪を拭きながら、ベッドの上で胡座をかいている。
一国の姫君にしては、少々雑駁すぎる所作にも、慣れたものか咎めもせずに、妙齢の占師は頬に手をあてた。
「さあ……聞いたことないわねえ」
その若さに似合わず、およそこの世に謎などないというほどの博識を誇るミネアでも、初耳に近い素朴な疑問。それでも律儀に、記憶の箱をひっくり返そうと眉根を寄せる。
「そうだよね。あたしがキングレオにかけた呪文だって、別に普通だったもんねえ。相手によって効果が違うなら、も少し派手に焼けたっていいのにさ」
顔中に得体の知れないクリームを塗りつけたマーニャが、鏡台の椅子の上で器用に振り返る。そうして、いつもつるつると触り心地の良い姫君の肌にも、そのおこぼれを塗りたくろうと手を伸ばした。
「ううん、攻撃呪文じゃなくてぇ……たとえば、ホイミとか」
くすぐったそうに、マーニャの手から逃げるアリーナの言葉に、ミネアはきょとんとする。
「回復呪文の効果が、かける相手によって違うかってこと?」
「うん」
頷いたアリーナは、油断した拍子にマーニャの細指から白いクリームを鼻先につけられて「ひゃあ」と声をあげた。
「マーニャ、なんかこれ変なにおいがする~」
「罰当たりなコねえ! それ、この界隈じゃあ若い娘は人押しのけてまで欲しがるっていう、おっ高い香料入ってんだからね」
「でもね、なんかこれお父様のおひげのにおいがするよ~」
「……」
姫君の言葉に、マーニャは顔中に塗っていたクリームを嫌そうな顔で見やる。アリーナはそんな事を言いつつも、鼻先のクリームを興味深そうに指で撫で付けていた。
二人のかけ合いに苦笑しながら、ミネアは話の本筋を戻す。
「それはないと思うわ。攻撃呪文なら、あるいはこちらの精神力が加算されて、思いがけない効果が望めるかもしれないけど、補助呪文なら効力は一定のはずだわ。ねえ、姉さん」
「あたしは回復使えないからわからないわねえ。でもどうして急に、そんなこと聞くの?」
アリーナのやわらかなほっぺたに、今度は潤いを保持する無香料のクリームを塗りつけながら、マーニャが聞いた。アリーナはう~んと眉根を寄せて、言葉を選ぶ。
「なんかね、違うなあって……もちろん、誰の呪文もきくんだけど、一番きくのは……」
「ははぁーん」
アリーナにみなまで言わせず、マーニャはしなやかな指を弾いて悪戯に笑った。
「なるほどね。神官くんのホイミが一番きくのが不思議って言いたいわけ」
機先を制され、アリーナは無邪気に驚いた顔を見せた。
「そうなの、どうしてわかったの?」
「どうしてってアンタ、そりゃあ……」
「姉さん」
純粋培養の姫君を、ことあるごとにからかっては愛情を確認している、このへそ曲がりでひねくれた愛すべき姉をたしなめて、ミネアは優しくほほ笑んだ。
「アリーナは、そう感じるのね?」
「うん。気のせいかもしれないんだけど……」
「そりゃ気のせいじゃないわよォ。あり得るあり得る」
うんうんと頷くマーニャに、ミネアは困ったような顔をした。
「姉さん、いい加減な事言わないのよ」
「いいじゃない、本人がそうだって言ってるんだから」
ねえ、と笑うマーニャに、アリーナは少しだけ不思議そうな顔をして、うんと頷く。
「だからね、不思議だったんだけれど、もしかしてクリフトは真面目な神官だから、神様もクリフトの頑張りを認めて、ひとより多く愛してくださっていて、それで回復呪文がよくきくんじゃないかと……」
アリーナなりに考え出した仮説は、けれど美貌の姉妹に感銘を与えず、そのかわり弾けたような哄笑と、堪えきれないような苦笑を誘った。
「きゃ~っははははは! アリーナ、あんたそれ本気で言ってる?」
「ちょっと、姉さん……そんなに笑っちゃ悪いわよ……っ」
「なによ、ミネアこそ……っ、くく、でもさぁ、あんまり神官君が不憫でさぁ」
「もー、なによふたりして! そんなに笑うことないでしょう!」
さすがにふくれてしまった姫君に、踊り子と占師は目配せを交わす。可愛らしくほほを膨らませ、天井を睨むアリーナの両サイドに腰かけて、姉妹はとっておきのほほ笑みを浮かべた。
「ごめんね、アリーナ。でも、きっとそうじゃないと思うわ。愛されてるのはクリフトさんじゃなく、あなただと思うの」
「え? 私? どうして私が神様に?」
きょとんとしたアリーナに、逆サイドから明るい声が降る。
「馬鹿ね、神様に、じゃないわよ。まあどっちにしろ、明日神官君にそれを言ってやんな。きっと喜ぶよ」
「そう?」
マーニャの意味深な言葉を素直に受けて、アリーナは嬉しそうに笑う。言葉の奥を深く探らないタチの彼女は、案の定姉妹の意味ありげなほほ笑みには気づくこともなく、すっきりしたような顔で頷いた。
結局、効力の違いの謎は解けなかったけれど、クリフトが喜んでくれるのならば、別にそんなことどうだっていいや、と、姫君は無邪気に思って、ベッドに入った。
翌日、神官が姫君の無邪気な言葉で天に昇り、踊り子の意地悪なツッコミで急降下して、あたふたと弁明したのは、言うまでもない。
