Parallel World
人は慣れる生き物だから
喉元を過ぎれば熱さを忘れる
どんなに過酷な過去であろうとも
常にそれを心にとどめておくことは
神ならざる身には難しい
だから
ほんの少しだけ 掛け違えたボタンは
じわじわと 狂いを生じて 気が付けば
手遅れになってしまうことも ある
人はその時 なにを望むのだろう
Parallel World
「ああもう、うるせぇな!」
心底面倒そうに吐き捨てて、バルトは乱暴に立ち上がる。その途端、治療したばかりの腕がじくりと痛んで、思わず舌打ちが漏れた。
「うるさいってなんだよ!」
心外そうに言って、マルーがバルトを見上げる。大きな碧玉の瞳がきらりと光り、本気で腹を立てていることがわかって、バルトもますますまなじりを上げた。
「うるせーからうるせーって言ってんだ!」
「人が心配してるのに、そういう言い方はないでしょ!」
「誰が心配しろなんて言った!」
「言われなきゃ心配しちゃいけないの!?」
「しつっこいんだよおまえは!」
「若が、全然本気で反省しないからでしょ!」
ヒートアップしたやり取りは、狭い治療室の外にもガンガン響いていた。たまたま通りかかったフェイとエリィが、何事かと顔を出す。
「おい、どうしたんだよ、二人とも」
「なにをそんなに言い争ってるの」
善意の第三者の介入も、アドレナリン全開のファティマ一族には効く由もなく、まるで角を突き合わせるようにしてにらみ合っていたバルトとマルーは、同時にフンッと顔をそらせる。
「あぁーあ、こんなに口うるさいんなら、ニサンに置いときゃよかったなぁ!」
これ見よがしにため息をついて、バルトが背を向ける。それを聞いて、マルーもますます意固地になった。
「よく言うよ! 若だって、一人じゃなんにもできないくせに!」
「なんだと!?」
「なにさ!」
再び睨み合おうとした二人の間に、フェイとエリィが素早く割って入る。
「まあまあ、落ち着けって二人とも」
「そうよ、ほら、ちょっと離れて……」
犬猫の喧嘩のように、物理的に距離を取ればなんとかなると思っているのか、エリィはマルーを、フェイはバルトを半ば引きずるようにして連れて行く。顔を真っ赤にしたファティマの従兄妹同士は、憤懣やるかたないように悪態をつきながらその場を後にした。
それは特に珍しくもない、戦艦ユグドラシルの日常風景。
ここまで派手な諍いは稀だけれど、気心の知れた幼馴染同士、売り言葉に買い言葉でじゃれ合いの延長上のような口喧嘩はよくあることだった。
たまにまともに心配する者もいるけれど、当の本人たちがケロリとした顔で、いつの間にやら夫婦人形のような距離でくっついているのだから、世話はない。
だから。
こんなことは、日常の断片に過ぎない――――
はずだった。
喉元を過ぎれば熱さを忘れる
どんなに過酷な過去であろうとも
常にそれを心にとどめておくことは
神ならざる身には難しい
だから
ほんの少しだけ 掛け違えたボタンは
じわじわと 狂いを生じて 気が付けば
手遅れになってしまうことも ある
人はその時 なにを望むのだろう
Parallel World
「ああもう、うるせぇな!」
心底面倒そうに吐き捨てて、バルトは乱暴に立ち上がる。その途端、治療したばかりの腕がじくりと痛んで、思わず舌打ちが漏れた。
「うるさいってなんだよ!」
心外そうに言って、マルーがバルトを見上げる。大きな碧玉の瞳がきらりと光り、本気で腹を立てていることがわかって、バルトもますますまなじりを上げた。
「うるせーからうるせーって言ってんだ!」
「人が心配してるのに、そういう言い方はないでしょ!」
「誰が心配しろなんて言った!」
「言われなきゃ心配しちゃいけないの!?」
「しつっこいんだよおまえは!」
「若が、全然本気で反省しないからでしょ!」
ヒートアップしたやり取りは、狭い治療室の外にもガンガン響いていた。たまたま通りかかったフェイとエリィが、何事かと顔を出す。
「おい、どうしたんだよ、二人とも」
「なにをそんなに言い争ってるの」
善意の第三者の介入も、アドレナリン全開のファティマ一族には効く由もなく、まるで角を突き合わせるようにしてにらみ合っていたバルトとマルーは、同時にフンッと顔をそらせる。
「あぁーあ、こんなに口うるさいんなら、ニサンに置いときゃよかったなぁ!」
これ見よがしにため息をついて、バルトが背を向ける。それを聞いて、マルーもますます意固地になった。
「よく言うよ! 若だって、一人じゃなんにもできないくせに!」
「なんだと!?」
「なにさ!」
再び睨み合おうとした二人の間に、フェイとエリィが素早く割って入る。
「まあまあ、落ち着けって二人とも」
「そうよ、ほら、ちょっと離れて……」
犬猫の喧嘩のように、物理的に距離を取ればなんとかなると思っているのか、エリィはマルーを、フェイはバルトを半ば引きずるようにして連れて行く。顔を真っ赤にしたファティマの従兄妹同士は、憤懣やるかたないように悪態をつきながらその場を後にした。
それは特に珍しくもない、戦艦ユグドラシルの日常風景。
ここまで派手な諍いは稀だけれど、気心の知れた幼馴染同士、売り言葉に買い言葉でじゃれ合いの延長上のような口喧嘩はよくあることだった。
たまにまともに心配する者もいるけれど、当の本人たちがケロリとした顔で、いつの間にやら夫婦人形のような距離でくっついているのだから、世話はない。
だから。
こんなことは、日常の断片に過ぎない――――
はずだった。
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