1000文字で綴るアイラブユー
月に一度の血液検査。半年に一度の人間ドッグ。三週に一度のメンタルケア。数か月単位で歯科や眼科の定期健診。
チャンピオンとしてエンターテイメントの世界に身を置いていた時から、オレの生活は厳密に管理されていた。
この他にも、髪を切るにも契約があったり、服を新調するのもいちいち確認が必要で、その辺のこだわりが強いキバナなんかはぶつぶつ言っていたが、まったくこだわらないオレは、こまごま用意されたものをありがたく身に着けていた。
オレが自分の意思を貫いたのは、ポケモン関連のことだけで、そこはどんな些細な問題も決して妥協しなかった。その代わり、オレという素材を最大限に活用するための制約はどれほど煩雑でもすべて吞む。
それは、チャンピオンの座から退き、いち企業人になってからも大きく変わりはない。ガラルの中枢を担う巨大グループの象徴となったオレに課せられた制約は、現役時代よりもより繊細になった。求められるパフォーマンスのために必要なことは、なにもかも過不足なく手にしている。
だが――
「学会? 半月も?」
思わず口にした声音は、まるで子供の駄々のように恨みがましくて、我ながら笑ってしまう。目の前で紅茶を口にしている恋人は、けろりとした顔で頷いた。
「うん、そう。カントーの方へ」
「いつ?」
「明後日から」
「……月末は、一緒に過ごせないわけか」
「うん、そうなるね」
ごめんねぇ~、と、まったく悪びれずに言うソニアに、オレはますます恨み節で睨んだ。
「あっさり言うな。申し訳なさそうな顔くらいしてくれよ」
「あれれ~、ダンデくん、拗ねてるの~?」
言わずもがなのからかいを口にして、にやにやと笑う。いいさ、わかってる。これは先月、オレがまったく同じことをソニアに言って、珍しく寂しげだった彼女に嬉しさ余って絡んだ件への仕返しだ。聡明な彼女が復讐のチャンスを逃すはずない。
けど……くそ、これは思った以上に胸が痛む。
「だいじょぶだってぇ。わたしがいなくても、ダンデくんは困らないでしょ」
笑いながら言うソニアは、ずば抜けて頭がいいのに、なにもわかっていない顔をしていた。
そうさ、オレが『ダンデ』として機能するためのすべては、過不足なくそろっている。
だが――
「困るぜ、ソニア。……きみがいないと、オレは」
呼吸さえできないかもしれない、なんて言っても、リアリストのきみは笑うだけかもしれないが。
そのくらい、必要なんだぜ。
オレにとって、きみは。