1000文字で綴るアイラブユー




 35.You've never been in love, have you? 君、恋したことないだろう



 ※No.34【I love you more than words can say. 言葉にならないくらい好き。】のダンデサイド



 幼馴染に恋をして、かれこれ十五年以上経つ。
 正確には、恋を自覚したのはもっと後だが、五歳のころに初めて出会った瞬間の、脳天を殴られたような衝撃はいまだに覚えている。
 それまで見たことがないほど、ふわふわできらきらな生き物。自分の知らないポケモンじゃないかと、半ば本気で思った。多分、そうだったらボールにゲットして、自分のものにできると願ったんだろう。
 当時は自覚もなかったが、そのころからオレはソニアに首ったけだった。
 とはいえ、ガラルの片田舎の牧童の情緒だ。恋だの愛だの、そんな名前を知る前に、オレは彼女といる時間の心地よさに夢中になった。
 一を聞いて十を知る機転、恐れげもなく未知を求める勇気、ともにいてこころから安心できる信頼感。ソニアがいれば、オレの世界は満ち足りていたし、彼女に求めるものは、幼く清らかな独占欲だった。
 その気持ちに色と名前をつけたのは、十歳の別離の後。
 目まぐるしく変化する環境と立場に揉まれながらも、どうしても手放せない、己を苛むほどの執着を、恋だの愛だのといった綺麗な感情だと思い込もうとした。
 実際にはもっと、どろどろとした醜いモノだったかもしれないが、オレは根性でそれを自浄し、公明正大にソニアに愛を語れる男になるべく切磋した。
 ポケモンとバトルにしか興味がないチャンピオン。世間はそんなふうにオレを揶揄したが、実際は、恋を自覚し、愛に苦しむただの男だったのだ。
 もちろんそんなこと、おくびにも出さない。
 この世で唯一、オレのそんな強がりを察してもいい相手は、とことんまでオレに無関心だった。
 いや、無関心というのは厳しすぎる。ソニアはずっと、いつでもオレを特別に思ってはくれていた。
 分かちがたい時を過ごした幼馴染として、互いを高め合えるライバルとして、ソニアはオレと歩調を違えながらも、ずっと高みを目指し続けて。
 そしていま――ようやく、オレを見た。
 念願叶ってポケモン博士になって、いままでの努力が実った瞬間。ソニアは魔法が解けたように、その美しいエメラルドの瞳をオレに向けて、いま初めて気づいたといわんばかりの愛を映した。
 ああそうか、ソニア。きみは、恋を知らなかったんだな。
 オレに向けていた感情、それはいつでも特別な、オレだけに与えてくれた、オレだけのための。
「ソニア」
 恋を知らず愛を捧げ続けてくれた、不器用で一途な彼女を抱きしめながら、くちづけに震えるその肩を永遠に離すまいと誓った。



35/43ページ
スキ