1000文字で綴るアイラブユー
33.Even distance cannot keep us apart. 心はいつでもあなたとともに
ダンデの腕にはめられた時計は、常に未来を指している。
それに気づいたのは、わざわざ地元まで調整試合をしに来てくれたライバルに、最高のナックル料理を振舞ってやろうとした時だった。
「道混んでるな。……ダンデ、いま何時?」
タクシーの後部座席で、長い足を持て余し気味に座っていたキバナが問うと、隣で窓の外を眺めていたダンデが、ああ、と頷いてボディバッグを開けようとする。キバナはそれに、怪訝そうに眉を寄せた。
「え、待て待て、お前時計してるじゃん。ぱっと見で答えてくれるかと思ったんだよ」
「ああ、これか。えーっと……」
言われて気づいたように眉を上げ、ダンデは右手首につけた腕時計を検めた。使い込まれた重厚なそれは、彼の父親の形見で、物は古いが丈夫で正確。いまでも十分使用に耐えるそれを見やって、ダンデはわずかなタイムラグで答えた。
「……20時だぜ」
「ん? なんか、変な間があるな。ちょい見して」
遠慮なく腕を伸ばし、ダンデのそれを掴む。引き寄せた時計は、長針が9を指していた。
「え、21時じゃん」
「いや、これは一時間進んでるんだ」
「はあ? なんで?」
不思議そうに問うキバナに、ダンデはするりと答えた。
「パルデアに合わせてある」
「パルデア?」
どこかで聞いたような……と、最近その話をした記憶が秒で蘇った。
「あぁ、幼馴染が留学してるって言ってたな。え、で、なんで時間合わせてんの?」
「いや、別に……」
突然、あからさまに話題を切ったダンデの横顔に、キバナは珍しいな、と鼻を利かせた。それからふと、今日一日のダンデが、ことあるごとに腕時計を眺めていたことを思い出し、察しの良さを発揮する。
「あれか? 電話する時、時差を計算しやすいように……いや、たかだか一時間程度でそれはないな……お、わかった、あっちの時間に合わせることで、常に一緒にいる感覚になりたい、とか?」
さすがに少女趣味すぎたか? と、半ばネタのようなつもりでからかったのに、浅黒い顔色をわずかに赤く染めたライバルが、珍しく苦々しい顔でこちらを睨むので、キバナは遠慮なく爆笑した。
「ぶはっ! マジか、おマエ! プライマリースクールでも今時ねぇぞ、そんな純情!」
「キバナ……」
「あ、おい待て、その手はなんだ……ボールを掴むな、握るな!」
大柄な成人男性が暴れたために大きく揺れたタクシーは、一瞬だけラインを超えそうになった。慌てて謝る乗客に、熟練のタクシー運転手は力なくほほ笑んだ。