1000文字で綴るアイラブユー




 妙齢の幼馴染同士が手を繋ぐなんて、よほど仲のいい同性か、恋人同士でもなければあり得ない。
 そのあり得ない現象は、しかしソニアにとっては日常茶飯事だった。
「あーもう、ステイだよ、ダンデくん!」
 ちょっと目を離した隙に、まるで逆方向へと自信たっぷりに歩き出す彼の手を、ソニアははっしと掴んだ。この先は、普通のひとでも迷いに迷うといういわくつきの森だ。いったんはぐれてしまったら、捜索の難しさは常の比ではない。
 無限の小言を胸に畳んで、ソニアはぎゅっとダンデの手のひらを握る。肉厚で指の長いそれは、習い性のようにソニアの手を同じ力で握り返した。
「ソニア、さっきそっちの茂みに珍しいテブリムが……」
「はいはい、まっすぐ歩いて。今日中に森を抜けたいんでしょ?」
 ここはまだ、森の手前の街中だ。ダンデの相棒のリザードンは、その圧倒的な存在感で、ダンデの苦肉の策である変装をすっかり台無しにしてしまうため、まだ出せない。比較的タイトなスケジュールなので、いつものようにファンに囲まれてしまっては、この後の行程で割を食うのはダンデではなく彼のスタッフだ。
 そんなはた迷惑な王様を、ならば無策で放り出す真似はよせばいいのにと、ソニアは思う。けれどきっと、止める間もなくいつも通り、自信満々で歩き出してしまったのだろう。ダンデの周囲のスタッフには、精神的慰謝料として特別手当が支給されるべきだ。
 そんな困った迷子と、悪魔的偶然でばったり出会ったのがソニアの運の尽き。この広いガラルにおいて、放浪中のダンデとの遭遇率が高いことにはもう慣れた。なんだかんだ言って、行動圏が共通する職に就いているのだ、仕方ない腐れ縁だろう。
 ソニアは諦めの境地で、ダンデの手を引いて歩きだす。
 相変わらず体温が高い彼の手のひらは、しっくりとソニアに馴染んだ。過不足のない力、不思議とぴったり合う歩調。子供の頃から変わらない、それはソニアとダンデのリズム。
「今度から、ガアタク使いなよね、大人しく」
「急ぎの用事の時は、そうしてるぜ」
「常にしなさい」
 説教するように言いながら、ソニアはふと、傍らのショーウインドウを斜めに見やる。
 ――傍から見れば、手を繋いで仲良く歩く、恋人同士に見えるかも。
 ふたりがただの腐れ縁、なんの変哲もない幼馴染同士だなんて、言わなきゃばれない。
「……」
 その空しい想像に、ソニアは諦めたように苦笑して、つないだ手にほんのわずかな力をこめた。


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