1000文字で綴るアイラブユー

 ※No.17【Be happy together  一緒に幸せになろうね】のダンデのアンサー



 弓張り月の細い光が、眠るソニアのすべらかな肌をそっと撫でる。
 ブラインドの隙間から漏れるそれを見やり、ダンデは彼女のむき出しの肩にブランケットを引き上げた。彼の腕に頭を預け、幼い顔つきで眠る彼女は、その動きにも目を覚まさない。
 ふたりで寝具に沈む前、結婚後の新居についてちょっとした意見の相違があった。ダンデは短絡的に、ガラルの主要都市に拠点がある方が便利だろうと、ソニアの生活を滑らかにすることだけを考えて案を出したのだが、その荒唐無稽さにソニアは呆れていた。
 確かに、無駄な支出が多いかもしれない。けれど、長い目で見れば利便性の方が勝るし、いまのダンデにとって、その出費は決して無理のあるものではない。浪費のうちにも入らない提案に、けれどソニアは決然と言った。
『きみは、自分だけがわたしを幸せにするつもりだろうけど、そうはさせないからね。わたしだって、きみを幸せにすることを放棄しない』
 さすがに付き合いの長い幼馴染は、ダンデの性情をよく理解している。
 ダンデは恵まれた才能と環境を手にし、ほとんどの者が憧れてやまない栄光を掴んだ。それによってもたらされた富も名声も、彼自身を変えることはなく、幼い頃からの純粋な価値観は、いまでも彼をひとりの人間として輝かせている。
 自分の手の届く範囲で、役立てることがあれば迷わず動いた。富も名声も、そのためにならば惜しみなく使える。自分の根っこの部分は、いまでもハロンタウンの牧童で、周囲の人間の幸せな笑顔がなによりも嬉しい。
 その中でも。
 ダンデが、自分の手で幸せにしたいと願うのは、たったひとり。
 ソニアのことだけは、誰にゆだねることもなく、誰を介することもなく、ダンデただひとりの力で、絶対に幸せにしたかった。
 それは、真実ガラルの片田舎で、牧草とウールーの毛にまみれていた幼い時分から、ずっとダンデの胸に刻まれた目標で、憧れ。
 初めて出会った瞬間、いままで見たこともないほど圧倒的に可愛らしい、まさに『良家のお嬢様』だったソニア。生まれも育ちも格式高い、本物の高嶺の花だった彼女を見初め、焦がれ、必死に手を伸ばし続けたダンデ少年は、最高の形で夢を叶えた。
 ソニアを、幸せにする。
 それは、博愛精神に富むガラルの英雄ダンデが、唯一利己的になる、たったひとつの願い。
「……こればかりは譲れないぜ、ソニア」
 かすれるように囁いて、腕の中の憧れの姫君を、ダンデは一晩中抱きしめて眠った。


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