1000文字で綴るアイラブユー
夜半のポケモン研究所。当然閉所時間は過ぎていて、すべての扉は厳重に施錠されている。窓から漏れる光で、中にひとがいることは察せられても、よほどでない限り訪う者はいない時刻。
「……で?」
「腹が減って、な」
対空用フライトジャケットの下には、パーティー会場からそのまま抜け出してきましたと言わんばかりのブラックタイ。質の良いディナージャケットの肩をすくめ、ダンデはわずかにおもねるように小首を傾げた。
ソニアははぁ~っと溜息をついて、自分用にと算段していた夜食の鍋に向かう。大鍋で煮たポトフは結構量があり、ダンデに振舞ってもまだあまる量だ。
「リザードン、おいで」
ダンデの後ろでワンパチとじゃれていたリザードンを優しく呼ばわる。ここまでダンデを運んできた功労者を労う傍ら、おこぼれに預かろうとするワンパチに「いま食べると太るぞ~」と言いながらも、仲良く椀に顔を寄せる二体を見守ってから、ソニアはてきぱきと人間用を準備した。
「はい、お待ち」
「ありがとう、ソニア」
「どぉ~~いたしましてぇ。馴染みの定食屋ですからぁ~」
嫌味な感じで半眼を閉ざす幼馴染に、ダンデはさすがに苦笑して、懐から貢物を捧げ出す。
「いつも我儘を聞いてくれる、最高の料理人に」
「料理人じゃないっつーの。……ん、あ、これ!」
限定販売のマカロンは、開店数分で品切れになると言われるもので、当然予約販売も瞬殺。憧れの眼差しで受け取ったソニアは、コロリと愛想よく笑った。
「今日のダンデくんは気が利いてるダンデくんだぁ~。ありがとね」
「願わくば、いつも気が利いてるダンデくんと言われたいぜ」
「んっふふ、要努力。それよりも、今日のパーティーはお料理出なかったの?」
「出たぜ。高級なやつ」
「えぇ~、もったいない、食べなかったの?」
「まぁ……」
「それにずいぶん早く引けたよねぇ。映画俳優とか、有名モデルとか、著名人もたくさん出席してたのに」
「詳しいな、ソニア」
ダンデがポトフを食べながら言うと、ソニアは一瞬顔を赤くして、それからポトフに目を落とす。
「残業のついでに、ちょっとテレビつけてただけ。豪華なパーティーだったのに、ダンデくんはこんな質素なポトフで夕食かぁ」
「すごく美味いぜ」
「そりゃどうも」
軽くいなすソニアを見つめながら、ダンデはそっと苦笑する。
素朴だが暖かなソニアのポトフだけが、今宵のダンデを満たす唯一のものなのだと、彼女が自覚する日が待ち遠しかった。