1000文字で綴るアイラブユー



「――……参ったぜ」
「バギュア……」
 鬱蒼と茂る木々の中、ダンデは相棒の首を撫でながら唸った。傍らで、リザードンも神妙な面持ちでいる。言葉を介さないかれは、その代わり視線と重苦しい溜息で遺憾の意を表していた。
「ギュウゥ……」
「わかってるぜ、リザードン。迷う前に自分を出しておけ、だろ」
「バギュ」
「それはそうなんだが……珍しい色のバタフリーを追いかけていたら、突然森が濃くなってきてな。真っすぐ戻ろうにも道が消えたんだ。不思議だろう?」
「ギャウア!」
 抗議するリザードンの首をポンポンと叩き、ダンデは焦ったふうもなく周囲を見渡した。
「さあて……おまえに乗れるくらい開けた場所に出なきゃな……」
 密集した木々は狭く、このままリザードンを出し続けるのも難しい。心配そうな相棒を宥めすかして再びボールに入れると、ダンデはふう、と息をついた。
 彼ほどの迷子のプロになれば、無暗に焦ることもない。日はまだ高く、過ごしやすい気候の土地だ。最悪、野宿するにしろ最低限のサバイバルキットは常備している。
 それでも、最善手を目指すべくダンデは空を見上げた。闇雲には動かず、まず状況を確認する。
『――焦んない、ダンデくん。森に呑まれたらシャレにならないよ』
 矯めるような声音が浮かんで、ダンデは思わず苦笑する。
『――太陽の向きを見るんだよ、どっちに傾いてる?』
 見上げた空は、あいにく太陽の位置までは見通せない。その代わり、背高の木の梢が、上空の強い風に右へなびいていた。
『――風は海から吹いてくることが多いよ。潮の香りはする?』
 ここに至るまでの道は、海へと続くものだった。自分がバタフリーに気を取られた瞬間を思い出し、それから唸る。
「……海へ向かった方がいいのか?」
『――確証がなければ、下手に動かない! 開けた場所で、リザードンを出しなさい』
 開けた場所の見つけ方。それも、ソニアが教えてくれた。
 木の種類が変わる。低木やシダが増える傾向がないか、目を滑らせる。風の動きを見れば、谷筋の方向が分かるだろう。木々の色味にも注目し、光が集っていそうな場所を探す。
 過去の彼女に導かれ、ダンデはわずかに開けた土地に出た。リザードンを繰り出すと、かれは咆哮一閃、ダンデを背に舞い上がる。
 上空の強い風に煽られて向いた先には、ポケモンセンターの光があった。
「サンキュー、ソニア!」
 常に胸に住まう有能な幼馴染に礼を言うと、ダンデは風をはらんで空を舞った。


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