1000文字で綴るアイラブユー
ダンデは少し、恐れていた。
この扉を開けた瞬間、ずっと続いていたなにかが、すでに失われていたことに気づいてしまうかもしれないと。
五歳のころからこの胸にあった、静かで、しかし動かしがたい感情が、もしかしてすでに死んでしまったものに対する執着かもしれないと。
八年もの間、離れ離れだった幼馴染に対する、慕わしい思い。幼かった自分たちの、無邪気で無垢な交流で育んだ、絶対の信頼。互いに情熱をかけて臨んだ先にあった、容赦ない別離。突然、生木を割かれるようにして生まれた距離が、それまで気づかなかった感情に名をつけた。
けれど、それもすべて、もしかしたら。
自分のこころが生み出した、幻かもしれないと。
ダンデは恐れている。
ちいさなころの幼友達に対して、これほどまでに重い感情を抱く自分は、果たして本当に現実を見ているのか?
いつの間にか、別れた彼女に理想を投じて、思い出を美化してはいないか?
自分の寂しさを埋める、都合の良い存在として、彼女を作り上げてはいないか?
今更のように浮かんだ疑問に、ダンデは扉の前で立ちすくんだ。
自分に、こんな怯懦があったなんて。いままでどれほどの逆境、試練、困難を前にしても、決して己を疑わず、信念をもって突き進んでいた無敗のチャンピオンが、たったひとりの少女に会う、そのことだけで心底震える。
こころは、まるで五歳のころに戻ったようだ。
おさなくやわく、もろい自分の内心を抱えて、ダンデはいま一度、呼吸を整えるべく瞳をつぶる。
目の前の扉を開いたら。
なにかが変わってしまうかもしれない。
「……なーにやってんの、ダンデくん」
「っ!」
突然開かれた扉から、記憶にあるより少し落ち着いた、けれどやわらかく甘い声がした。思わず息を飲んで目を見開くと、飛び込んできたのは黄昏色のふわふわとした髪。慌てて視線を少し下げれば、真っすぐにこちらを見上げる少し吊り上がったエメラルドグリーンとかち合った。
「ソニア」
「よう、久しぶり」
ニカッと笑って、ソニアはわざとぶっきらぼうに言う。大人になった彼女は、幼いころの面影そのままに、けれど信じられないほど輝いて見えた。何度も想像した再会の瞬間、それらすべてを束にしたって適わないくらい、現実のソニアは。
「ソニア……」
なにも変わらない。姿かたちが変わっても、ひと目見た瞬間、こんなにはっきりと確信する。
そのことに、ダンデはこころの底からあふれる幸せに、手放しで笑い崩れた。