Truth of the Twilight
「Trick or Treat!」
声をかけられて、ダンデは振り返った。
そこに立っていたのは、モルペコの着ぐるみを着た幼い少年と少女、そしてそれを監督しているらしい、薄明色の長髪の男性。彼はよくできたチャンピオンマントを羽織り、楽しそうに笑っていた。
「ハッピーハロウィン」
ダンデは言って、ポケットの中に入れていたちいさな菓子の包みを渡す。モルペコたちは歓声を上げ、背後の男性がぺこりと頭を下げた。
「すみません、通りすがりに。ありがとうございました……あ、ダンデの仮装、被ってますね」
「そうですね。あなたの仮装はなかなかの再現度だ」
「あなたの髭も、完璧な形ですよ。髪色だって……あ、まずい、怪獣たちを見失ったら女房にどやされる。では、ハッピーハロウィン」
父親らしい男性は口早に言うと、はしゃいで駆け出したモルペコたちを追う。ダンデは苦笑して、濃い色のサングラスを押し上げた。
十月の最後の日、シュートシティは一気にお祭り気分で盛り上がる。バトルタワーに改装した旧ローズタワーの敷地内は、おびただしい数の仮装者たちで賑わっていた。キッチンカーや出店の類も充実し、マクロコスモスグループが主催する特設ステージでは、生バンドの演奏が途切れずに流れている。
シュートスタジアムの方でも、今日はチャンピオンをはじめ多くのジムリーダー、名のあるトレーナーたちが集ってイベントを開催している。先年までは、ダンデはその中心で場を盛り上げていたが、今年は新たなチャンピオンを擁して、また違った催しを行っているらしい。
元チャンピオンとして、今年も招聘されていたのを断ったのは、新チャンピオンの晴れ舞台に水を差したくなかったのと、この十年ことあるごとに駆り出されていた反動で、少しは一般人らしく、イベントに乗じてプライベートを充実させたい欲があった。
「さて。タクシー乗り場は……と」
一歩踏み出せばすかさず道に迷う自覚はあるので、ダンデはとにかく、最短距離にあるロータリーを真っ直ぐ見据える。目標まであと五十メートル……気合を入れて歩き出した。
マンションの正面玄関から出てすぐのロータリーまでの間、少なくとも三人の『ダンデ』とすれ違っていた。ハロウィンの仮装は、幽霊や怪物を模すという古式ゆかしい伝統から、最近では著名人やバトルで人気のポケモンを真似する傾向にある。中でも根強く人気なのは、十年玉座に君臨した最強の男。
そのおかげで、本日のダンデは申し訳程度のサングラスをかけてはいるが、その他はきちんとしたディナー向けの格好ができていた。長い髪を一つの三つ編みにまとめ、前髪を上げるスタイルは、社交の場でダンデがよくする装いで、カジュアルだが品よくまとまったジャケット姿によく似合っている。上背があって押し出しの良い体格は少し目立つが、それでもすぐに本物だと見破られることはなかった。
ロータリーには、すでにダンデが予約したアーマーガア・タクシーが控えていた。真っ直ぐそれに向かうと、馴染みの運転手の男が、困ったふうに頭をかいている。
さらに近付くと、男の陰に立つ小柄な老女が見えた。
「やあ、なにかトラブルか?」
「あ、どうも」
ダンデの名を出さないところは、さすがにリーグ御用達の業者である。運転手はダンデに会釈すると、老女に向き合って言った。
「ほら、予約された方がいらしたんですよ。なので、あなたを乗せることはできないんです」
「あら……困ったわ」
ほっそりとした白い手を、皴深い口元に当てて、老女はおろおろとしている。見ると、一足早い冬の装いをした小柄な彼女は、ふかふかとしたおおきなストールに包まっていた。頭にはやわらかなベレー帽をかぶっていて、そこから覗く淡い色の髪は、大部分が白くなっているが、どうやら黄昏色をしているらしい。
ソニアの色だな、と思っただけで、ダンデはこの老女に不思議な親近感を抱いて歩み寄った。
「マダム、なにかお困りですか?」
「ああ……いえね、今日中に家に帰らなければならないんですけど、タクシーがみんな出払ってしまっていて……」
老女の言葉に、運転手がかぶせるように言う。
「今日はこんなお祭りでしょう。予約外の流しのタクシーを捕まえるのは難しいと思うんで、鉄道をお勧めしたんですが……」
「わたし、鉄道は酔うんですのよ。若いころは平気だったんですけど、年を取ったら不思議と、ねえ」
「なるほど」
ダンデは少し考えるふうに小首を傾げる。
ソニアとのハロウィンディナーまで、あと三時間少々。ブラッシータウンに彼女を迎えに行き、その足で地元の行きつけのレストランに向かう。もしもこの老女にタクシーを譲っても、鉄道で向かえばぎりぎり間に合うが、自分が迷子になるロスタイムを考えると、無謀かもしれない。
かといって、ここまで見聞きした彼女の苦境を無視するのもできない相談だ。ガラル紳士として、ダンデはなすべきことをした。
「よろしければマダム、こちらのタクシーをお譲りしますよ」
「え?」
「いいんですか、お客さん」
運転手が驚いたように問うと、ダンデはにっこりと笑った。
「かまわないぜ。ただ、申し訳ないが、オレをシュート駅まで送ってもらえるだろうか」
「はい、そりゃあ……」
頷く運転手の傍らで、老女がおろおろと声をあげた。
「まあそんな、申し訳ないわ。あなただってご予定があるんでしょう? そんな素敵な装いで……」
「いいえマダム、気にしないで……」
「そうだわ、よろしければ、相乗りしませんこと?」
筋張った手を打って、老女が言う。ダンデが目をまるくすると、彼女は歳に似合わぬてきぱきとした様子で運転手に言った。
「ね、そうしましょ。ブラッシータウンまで、ふたり乗っても行けますでしょう?」
「ええ、もちろん。でも、オー……お客さんは、それでいいですか?」
うっかり『オーナー』と言いそうになった運転手に、ダンデは問題ないぜ、と頷く。
「まあ、嬉しい。では、お言葉に甘えて、相乗りさせていただきますわね」
「はい、マダム。喜んでご一緒します」
ダンデは優雅に一礼して、アーマーガア・タクシーの搭乗口へ老女をエスコートした。老女はおぼつかない足取りで車内に入ると、そのあとに乗り込んできたダンデに向かってにっこりと笑う。
「本当に、助かりました、ミスター……ダンデの仮装をしてらっしゃるから、ミスターダンデ、と呼んでもよろしい?」
「はは、構いませんよ。それではあなたのことは……」
「博士、と呼んでくださる?」
「え?」
運転手が扉を閉め、アーマーガアの操縦席に乗り込む。その揺れとともに言われた言葉に、ダンデは思わず目をまるくした。
アーマーガアが一声鳴くと、その場にダイナミックフィールドが展開される。フィールド現象によって圧縮された空気が、客車ごと浮遊させ、ほとんど揺れのない垂直上昇が可能となり、高度を得たアーマーガアのひと羽ばたきで、客車はゆっくりと気流をつかんだ。
滑らかに前進を始めた客車の中で、ダンデの正面に座った老女がころころと笑う。
「わたし、若いころに少しばかり研究室にいたことがあるの。いまの言葉で言えば……リケジョ?」
「ああ……なるほど。では、博士、二時間少々お付き合いください」
「ええ、ありがとう、ミスターダンデ。あなたのご親切、一生忘れないわ」
ゆったりと座席に背を預けながら、博士が言う。ダンデは車窓から見えるシュートシティの景色が、どんどんちいさく千切れていくのを眺めながら言った。
「ところで、博士」
「なにかしら?」
「あなたはどうして、オレの行き先がわかったんです?」
静かな問いに、博士はちょっと眉を上げる。正面から相対すると、彼女のキラキラと光るグリーンの瞳が、分厚い老眼鏡の向こうでまるくなっているのが分かった。
「まあ、ミスターダンデ、意外に鋭いのね」
「意外ですか?」
「いいえ、意外ではないわね……あなたは、野生の勘が鋭そうに見えますよ」
諭すようにいう言い方が、意外なほどマグノリアを想起させて、ダンデは思わず背筋を伸ばす。上品な物腰に、理知的な語り口調、穏やかでいて威厳のある風情など、今更のように類似点が目についた。
老女はのんびりとした口調で、そうねえ、と呟く。
「理由はいくつかありますよ。まず、あなたの格好」
「オレの格好?」
「ええ。きちんとした格好ですけれど、シュートやナックル、エンジンシティのような、おおきな街のディナーにはちょっと向かないわね。それに、そのコーディネートなら、お相手は女性……恋人に近い、または類するひと。そういう方とのディナーに、まさか遅れて行けるはずもないから、ここからディナータイムまでの所要時間を考えれば、バウタウンかターフタウンが妥当だと思ったの」
「なるほど」
論理的な博士の言葉に、ダンデは素直に感嘆した。そんな彼に、博士はころころと楽しげに笑う。笑うと、皴深い目元がやわらかくたわんで、まるで少女のようだった。
「でも、予約をしたアーマーガア・タクシーの装備がね。この時期の上空飛行に備えた防寒対策に加えて、さらに長距離向けの装備が見えました。だとすれば、エンジンよりも先、ブラッシーかハロンタウンね」
博士はそこまで言ってから、まるで講義を受ける生徒に語るように、ゆっくりと頷いた。
「それで、最後はあてずっぽうです。ブラッシーじゃなくて、ハロンタウンだったら、途中で降ろしてもらえばいいわ、って思ったのよ。どう、種明かしはお気に召した?」
「はい、博士。あなたが頭がよくて、機転が利いて、それから茶目っ気がある方だということは、十分理解しました」
「あらあら」
褒められたことに、博士がほほを染めて笑う。ダンデはそれにつられたようにほほ笑んだ。
「あなたと話していると、幼馴染と話している気分になりますよ」
「あら、幼馴染がいらっしゃるの?」
「ええ。今日のディナーの相手です。あなたと同じく、理系で頭の回転が速く、機知に富んだユーモアがある女性です」
「ふふ、あなたにとって、その幼馴染は、魅力的なようね?」
悪戯っぽく言う博士の言葉に、ダンデは曖昧に笑った。明言を避けた彼に、博士は深追いせずに言う。
「わたしの夫も、幼馴染なのよ」
「へえ」
「もう、長い付き合いね……」
ふと、思い出を眺めるように瞳を細めた博士に、ダンデは好奇心で問いかけた。
「今日は、ご夫君は?」
「本当は、夫と一緒にシュートシティに来る予定だったんですけどね。あのひとったら、直前で迷子になるのだもの」
「え?」
迷子? 大のおとなに使うには少々奇妙な、けれど聞き慣れた自分の悪癖を言われているような気分で、ダンデが思わず言葉に詰まると、博士はやれやれと肩を竦めた。
「用事の時間があるから、夫の捜索は孫に任せて、わたしだけシュートシティに出てきたんですの。いまごろは、どこかの山ででも見つかってるかしら」
「はあ……」
「心配はいらないのよ。あのひとのてもちは、みんな強いから。最後の手段で、道案内ができる子もいますしね」
聞けば聞くほど、他人事とは思えない。ダンデは、自分の失態を聞かされているような居心地の悪さに視線を落とした。
「それでもね……」
ぽつん、と博士が言う。そのやわらかな声音につられて、ダンデが顔を上げると、彼女は皴深い目元をほんのりと赤らめながら、可愛らしくほほ笑んだ。
「呆れますけども、嫌いにはなれないの。わたしの選んだ夫ですもの、魅力があって困っちゃうわ」
「……」
手放しの惚気に、ダンデはなにも言えずにいた。ただ、少女のようにほほ笑む博士に、長い時間愛される夫に、強い羨望を覚える。
オレもこんなふうに、彼女に愛されたら。
「あら、もうナックルシティの夜景が見えるわ」
しばらく心地よい沈黙が続いた後、博士が呟いた。その言葉に、ダンデが車窓に顔を向ける。進行方向に背を向ける彼が振り返ると、山を越えた遠くの景色がぼんやりと明るく染まって見えて、夕闇に浮かぶ宝石箱のように美しかった。
「懐かしいわ……若いころ、ちょっとしたトラブルを夫と一緒に調査したことがあるのよ」
「調査ですか?」
「ええ。それからも、ナックルには夫のとても親しいお友達がいたから、夫もわたしもよく遊びに行ったの。いまも仲良しなのよ」
「へえ。オレのライバルも、ナックルに住んでるんですよ」
「まあ、ライバル? いいわねえ」
瞳を細めて、博士が言う。彼女の白い面が、車窓にぼんやりと映って光った。
「わたしの夫にも、ライバルがいるわ。長い人生で、たくさんの素晴らしい好敵手と出会って、そのたびに成長して、楽しげに活躍する彼を見るのが、辛かった時期もあるけど……」
ふふ、とちいさく笑う。博士の独白に、ダンデは思わず問いかけた。
「どうして、辛かったんです?」
それに、博士は少しはにかんだようにくちびるを曲げた。
「そうね。置いて行かれるような気がしてたのかしら。……でも本当は、先に置いて行ったのはわたしなのにね」
「え?」
その時、アーマーガアが一声嘶いた。車窓の向こうに、野生のアーマーガアらしき群れの影が見える。客車に通じるマイクから、運転手の声が届いた。
『すいません、少し高度を上げるんで、揺れますよ』
「わかった」
答えると、客車は風に煽られたようにがくんと揺れた。博士の華奢な身体が手毬のように弾み、クッションのきいた座席に斜めに倒れかかる。
「きゃっ」
「おっと」
ダンデは車窓の上にあるハンドルを握り、もう一方の手を伸ばして老女の身体を支えた。その時ふわりと香った香りに、強烈な既視感を覚える。
懐かしいように甘く、心地よい香り。遠い昔、どこかで嗅いだ覚えのあるようなそれに、ダンデが思わず睫毛を伏せると、彼の腕に縋っていた細い腕に力が込められた。
「ああ、びっくりした。ありがとう、ミスターダンデ」
言いながら、博士が身体を起こす。こころなしか、その動きが機敏に見えて、ダンデは薄暗くなり始めた車内で彼女の顔をよく見ようと目を細めた。
「ワイルドエリアは相変わらずね」
博士は車窓に顔を向け、眼下の丘陵を眺めて呟く。暮れゆく空は、ダンデの髪の色を映すように見事なマジックアワーに染まり、家路を急ぐ飛行ポケモンの群れや、水辺に揺蕩う水棲ポケモンたちの影が見える。
「懐かしいわ……何百回とキャンプをして、そのたびに新たな発見があった。ワイルドエリアは、ポケモンの生態にとって宝箱のような空間ね」
博士の独白は、追憶を覗くように静かだった。ダンデは彼女の横顔を見つめながら、その若々しい表情に問いかける。
「もしかして、博士はジムチャレンジをしたんですか?」
すると博士は、少しばかり悪戯っぽく肩を竦めた。
「バレちゃった。ええ、そう、わたしは幼馴染の男の子と一緒に、ジムチャレンジをしたわ。十歳の頃ね」
「幼馴染の、男の子……」
「夫よ」
その言葉に、無意識にダンデの胸が高鳴る。博士はずっと薄明の景色に目を向けながら、問わず語りのように呟いた。
「彼と一緒に、たくさん旅をした……あのひと、子供の頃から迷子癖があってね。もう、本当に目が離せなかったの。でも本当は、わたしが彼から離れたくなかった」
「……」
「彼の手を引いて、たくさんのポケモンと出会って、戦って、捕まえて……その時間は、いまでもわたしの宝物。ずっと長い間、ひとりになったわたしの心を支えてくれた思い出よ」
そう言って、博士がそっとダンデを見やる。
ダンデの視線の先で、彼女のエメラルドグリーンの瞳が星のように輝いた。分厚かった老眼鏡の妨げは、いつの間にかほとんど気にならない。吸い込まれるほど美しいその緑は、ダンデの黄金のまなざしの先でゆっくりと細められた。
「でも、わたしは彼を一人ぼっちにしてしまった。思い出を胸に、自分勝手に離れて行って、本当に支えなければならなかった時に、その手を離してしまった」
「……」
「ごめんね、――ダンデくん」
ちいさなちいさな囁き。幽玄のように揺れる博士の表情が、一瞬だけ十歳のころのように幼く見えて、ダンデはゆっくり首を横に振った。
「謝るなよ、ソニア。きみはなにも悪くないぜ」
ソニア。その名前を呼ばれて、博士は少しだけ恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑った。
ベレー帽をそっと外して、そこから流れた豊かな黄昏の髪をふるり、と揺らす。老眼鏡はすでになく、皴ひとつないつるりとした頬は薄紅に上気して、夢見るように潤んだエメラルドグリーンの瞳が、愛おしげに細められた。
「……わかってるよ。ダンデくんは、怒ってないし、気にしてない。わたしがひとりで、きみを置いてけぼりにしたかもしれないことを、悔やんでるだけ……」
その言葉を聞いて、ダンデはそっと、ソニアの手を取った。ほっそりとした指は緊張で冷たくなっていて、彼は宝物を扱うように大切に、それを自分の両手で温めた。
「怒ってないが、寂しかったぜ。ソニアが傍にいないことが、気にならないなんてことない」
「……」
「でもそれは、オレたちどちらにも必要なことだった。オレはチャンピオンとして戦う道を選んで、きみはポケモン博士を目指す道を選んだ。どちらが置いていったとか、そんな話じゃないぜ」
ダンデの掌の中で、ソニアの冷たい指がじわじわと熱を持った。彼の眼差しの先で、輝くエメラルドが、うっすらと水の膜を作る。
「わたしがもっと……強かったら。きみと一緒にバトルを続ける人生を選んでいたら、違ったかな?」
ソニアらしくない、気弱げな問いかけ。けれど確かに『ソニア』だろう彼女を見つめて、ダンデは真摯に答えた。
「ソニアは十分強かった。でももし、オレとバトルを続けていたら……そうだな、いまとは違う形だっただろうけど、やっぱり一緒にいられただろう」
「そうしたら、ダンデくんは、寂しくなかった?」
「寂しさは感じなかったかもしれない。でも、一緒にいることで感じる孤独もあるぜ」
そっとソニアの眦に指を這わせ、浮かんだ雫を払う。ダンデは静かに瞳を細めた。
「きみと切磋琢磨して、ポケモンバトルに邁進していたら、きみがいてくれるからと安心して、いまほどがむしゃらになってないかも。あっさり満足して、チャンピオンの座を投げ打って、まだ見ぬポケモンを求めて旅に出ていたかも。きみが傍にいてくれることに胡坐をかいて、自分の気持ちに気づかないまま、きみの手を離したのはオレの方だったかも」
「……」
「あったかもしれない未来なんて、興味ないぜ。そんなものよりも、オレは……」
ソニアの白い頬に手を添えて、ダンデは蕩けるような笑みを浮かべた。
「オレの手を離したきみが、ひとりでつかみ取った未来が誇らしい。傍にいなかったきみが、いつだってオレのこころを支えていてくれた、そのことが誇らしい。オレとは違った歩調、違った道を進んだきみが、いま、隣に立ってくれていることが、なによりも誇らしいんだ、ソニア」
「ダンデ、くん……」
頬に添ったダンデの手に、そっとソニアの手が重なる。ぽろぽろと零れる真珠のような涙が、ふたりの指を濡らすのも構わず、ソニアは震えるくちびるを開いた。
「ありがとう、ダンデくん。わたしも、きみのそばに居られて、すごく嬉しい。きみの隣に立てる自分が、すごく嬉しいよ」
「ソニア……」
「いまも、昔も、ずっと。きみと一緒にいられることが……」
その続きは、そっと重ねたくちびるの中に吹き込む。
ソニアからのキスに、ダンデが反射的に瞳をつぶった時、彼女の香りがやわらかく彼を包んだ。
「……一番の幸せだよ、ダンデくん」
だから、早く会いにきて。
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