Trick of the Twilight
「Trick or Treat!」
突然の高い声に、ソニアはハッと我に返る。気が付くと、彼女の傍らにはサマヨールの被り物をかぶった少年と、ミミッキュの帽子をかぶった少女が期待に満ちた目で立っていた。
「あ……はい、どうぞ」
ソニアは、籠の底に残っていたふたつのクッキーの袋を渡してやる。子供たちは歓声を上げて礼を言うと、パタパタと足音を立てて研究所を出ていった。
ひとり残されたソニアは、まるで夢から覚めたような面持ちで呆然と立っていた。恐る恐る自分の顔を撫でると、いつもと変わらない感触。やわらかな頬から、そっとくちびるに指を滑らせると、こころなしかしっとりと濡れて、じんじんと熱を持っている――ような。
「……っ!?」
いまのいままで見ていたものが、夢なのか幻なのか、それともハロウィンの夜に紛れ込んだポケモンの仕業でもあるのか、ソニアは判断がつかないまま真っ赤になって唸る。
「うぅ~……っ、なんて夢だよぉ……っ」
これからどんな顔をして幼馴染に会えばいいのか。珍しくアポイントを取った彼が、ハロウィンディナーにソニアを迎えに来るまで、あと数時間。
ソニアは、平常心を取り戻すためと、予定通りにドレスアップするため、ことさら念入りに研究所の戸締りを確認する。急いで家に帰って、支度を済ませて、ダンデを迎えて……
「うぅぅぅ~~~~っ!!」
ダンデを思い浮かべるたびに、爆発しそうなほど恥ずかしい。しっとりとしたくちびるの感触は、呪いのようにリアルだった。
はたして――その感触を、一日も経たずに再び味わうことになろうとは、この時のソニアには知る由もない。
ハロウィンの夜に訪れた奇跡は、彼女にだけもたらされたとは、限らないのだから。
END.
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