拝啓、いとしのきみよ
【親愛なる ダンデくんへ
8才のお誕生日、おめでとうございます。
それから、ようやくわたしと背が並んだことも、おめでとうございます。
女の子の成長期と、男の子の成長期はちがうんだと、何度説明しても納得できなかったダンデくん。これで少しはきげんが直ったかな?
でも、心配しなくても大丈夫だと思います。
だって、ダンデくんのおじさまはとても背が高いし、おばさまも中くらい以上には背が高いもの。だからきっと、ダンデくんもおおきくなったら、おじさまのように背の高い男の人になると思います。
でもね、ちょっとだけごめんね。
わたしも、おばあさまは背が高いし、お父さまも背が高かったの。お母さまは少しちいさかったけれど、かくせい遺伝というものを信じれば、きっとわたしも背が高くなるはずです。
だからたぶん、次の背比べの時は、またわたしが高くなっちゃうと思います。がっかりしないでくださいね。
ダンデくんは、かけっこもわたしより早いし、重いものも持てるし、なによりもヒトカゲとのバトルごっこがすごく上手なので、わたしに背の高さくらいはゆずってください。
あと、ホップと仲良くなるのもダンデくんの方が早いんだから。やっぱり背の順は、しばらくゆずりません。
お誕生日のお手紙なのに、ちょっといじわる書いちゃったかな?
最後に、とっておきのヒミツを教えてあげます。
よく寝て、よく食べて、よく運動すると、背が伸びるんだって。
ダンデくん、夜更かしばかりしちゃダメだよ。
背の高さよりもポケモンの知識の方が大事だと思う ソニアより】
これはゆゆしき問題だと、ダンデは唸っていた。
スクールの級友たちの中でも、ダンデは背が低い方だ。ソニアとはこの間ちょっと並んだ時期もあったけど、またすくすくと差が開いて、いまでは拳ひとつ分ほどあちらが高い。
そのことでぶすくれていると、ソニアがこんこんと諭してきた。男の子の成長期はもっとずっとあとだとか言われても、いま、ソニアよりも目線が低いのがやるせないのだ。
ソニアが言うように、ソニアの祖母であるマグノリア博士は、女性の中では背が高い。すらりとしなやかな手足は長く、いつだったかダンデの母が、尊敬とあこがれの眼差しで『モデルさんみたいねぇ』とこぼしていた。
ソニアが、もしもマグノリアと同等に背が高くなった時。
自分が、いまくらいの成長しか見込めていなかったら。
それは、なんだかとっても焦る。
ほかの友達には、こんなふうには考えない。ソニアよりも背の低い子は他にもたくさんいるし、その子たちよりも高いからと満足できない。
他の子じゃあなくて、ソニアよりも高いかどうかが、どうやら自分には大事なことのようだった。
「にーちゃ」
「ホップ。つむじを押さないでくれ、これ以上縮んだら困るぜ」
キルトの上に寝転がっていたダンデのつむじを、ちいさなもみじの手がつんつん突つく。どうやら最近、兄の頭に生えている薄明色の髪の毛がすこぶる気になる弟は、ことあるごとに手を伸ばしては引っ張ったり押したりと忙しい。そのうち、自分の頭にも同じものが生えていることに気づけば、興味の対象も逸れるだろうと楽観してはいるが、痛いものは痛い。
「カゲー!」
その時、兄弟が転がっていたリビングに、来客の足音を聞きつけたヒトカゲが嬉しげに鳴いた。その鳴き声で、来訪者が丸わかりのダンデは、続く「ぬわふっ」というワンパチの鼻息と一緒にやってきた幼馴染を見上げる。
「こんにちはーダンデくん。宿題終わった?」
「終わってないぜ。ソニアを待ってた」
「むむ。丸写しはさせないぞー」
「わかってるさ。でもたぶん、教えてもらわないと進まない気がする」
「なんだよその自信」
けらけらと笑いながら、ソニアはダンデの頭にしゃぶりつこうとしていたホップの身体をひょいと持ち上げる。あたたかく湿った重みを胸に抱きこむと、ミルクの匂いに鼻を鳴らした。
「うーん。ホップぅ、また重くなったな、えらいぞぉ」
「そにゃー」
「あっ、こら、それはおもちゃじゃない、やめなさい」
ソニアの頭を結っていたきらめき色のリボンに手を伸ばすホップから身をよじって、ソニアが慌てる。ダンデはそれを寝転がりながら見上げて、ホップくらいちいさければ、抱っこされてソニアの頭に手が届くのか、と思った。
でも自分は、ソニアに抱っこされるわけにはいかない。
自力で彼女のリボンに手が届く男にならねば、と、改めて強く思った。