拝啓、いとしのきみよ




【しんあいなる ダンデくんへ


 6さいのおたんじょう日、おめでとうございます。
 あなたとお友だちになれて、わたしはとってもうれしいです。
 
 このお手がみをよんで、きっとダンデくんはこう言うと思う。
 「なんで、へんなことばでかくんだ?」
 って。だから先にかいておくね。
 あのね、おてがみをかく時は、ていねいなことばでかくのがマナーなんです。
 マナーっていうのは、あいてのことを思いやって、いやな気もちにさせないようにすることだって、おばあさまにおそわりました。
 だから、わたしは、ていねいにおてがみをかきます。
 
 わたしがおばあさまとおじいさまのおうちでくらすようになったとき、いちばんさいしょに仲よくなってくれたのが、ダンデくんでほんとうにうれしいです。
 いつも、ポケモンのお話をしてくれて、聞いてくれて、ありがとう。
 ブラッシータウンのことと、ハロンタウンのことをたくさんおしえてくれて、ありがとう。
 わたしは、ダンデくんといっしょにあそべて、まい日たのしいです。
 これからも、たくさんたくさん、いっしょにあそぼうね。

 あなたを大好きなお友だち  ソニアより】



 

 そのやさしくて、やわらかな言葉のつづられた手紙を手にしたダンデは、なにかとんでもなく貴重な、得難いものを贈られたような高揚感と、生まれて初めて実感した、怒涛のような多幸感に全身を震わせた。
 ソニアは、先週抜けた前歯を隠すように唇に指を当てて、ふふふっと笑った。ちょっとだけはにかんだその笑顔に、ダンデの胸がきゅっと高鳴る。手紙を書いてくれたソニアの方も、何故かとっても嬉しそうに見えて、ダンデは喜びに弾むように叫んだ。
「ソニア! ありがとう!!」
「どういたしまして、ダンデくん。あのね、そのウールーのスリッパね、一番やわらかいのをお店で選んだんだよ」
 嬉しい手紙と一緒に、ウールーのスリッパも渡されていた。それをいま思い出したように、ダンデは急いで手にしたスリッパのさわり心地を確かめる。
「うん、ふっかふかだぜ!」
「ふふっ、よかった!」
「でもソニア、オレが一番うれしかったのはさ、ウールーのスリッパよりも、この手紙でオレのことをさ……」
「あっ、あー、あ、だめだめ!」
 きらきらと輝く金の瞳を丸くしたダンデに、ソニアは慌てたようにふりふりと手を振った。それから、抜けた前歯のことも忘れて勢いよくダンデに言う。
「あのねっ、お手紙に書いたことはね、お話ししちゃダメなの!」
「えっ」
「それが、ルールなんだよ」
「ルール?」
 ぽかんとしておうむ返しに問うダンデに、ソニアはうん、とおおきく頷いた。
 それから、最近ではめったに見せなくなった――半年前にはよく見せていた――寂しそうな眼差しで、遠い思い出を振り返るように呟く。
「あのね……お母さまとのお約束なの。ふだん、あんまり言えないことや、こころの中の正直な気持ちを、お手紙にして書くこと。たとえば、さびしいとか、悲しいとか、もっと一緒にいてほしいとか……そういうね、いつもはうまく言えない気持ちを、お手紙ではちゃんと伝えるの」
「……」
「言葉では言えないことでも、そうすると素直に伝えられたから。だけどね、そのことを、お顔を見て話されると、わたしは恥ずかしくって、うまくお手紙を書けなくなっちゃうの。だからね、お手紙に書いたことは、絶対に口に出して言っちゃダメ。そういうルールなの」
「わかったぜ、ソニア!」
 ソニアの言葉を最後まで聞くと、ダンデは真夏の太陽のように翳りなく笑った。ソニアはほっとしたような、少しばかり居心地が悪そうな、不安そうな瞳でダンデを見つめる。
「いいの? このルール、ダンデくんも守ってくれる?」
「もちろん。ソニアがくれた手紙、すっごくすっごく嬉しかった。だから、ソニアがしてほしくないことは絶対にしないぜ」
「わあ、ありがとうダンデくん! あのね、お母さまとお父さまがいなくなっちゃってから……お手紙を書く相手がいなくなっちゃったの。だからね、また、ダンデくんにお手紙書いてもいい?」
「嬉しいぜ! オレも書くよ、ソニアに」
「えっ、本当?」
「うん。オレ、字とかあんまり上手じゃないけど……あっ、そしたらさ、手紙に書いてくれたことの返事、手紙でなら伝えてもいいか?」
 ぱっと閃いたように言って、ダンデがソニアのやわらかな手を掴む。一本道でも迷子になる奇特な癖を持つダンデを、知り合ってわずか半年の間に何度も何度も道に戻した実績のあるソニアにとって、今更手をつなぐことにはなんの躊躇もないけれど、その時のダンデの手が、いつもよりもあたたかくて強い力だったので、ソニアは不思議と『つなぎとめられた』ような気分になった。
 両親を亡くしてから、胸の中のどこかがふらふらと、海に漂う小舟のように揺れていたソニア。そのちいさなこころに、いま確かな錨が投じられた。
「うん! 嬉しい、ダンデくん。ありがとう!」
「こちらこそだぜ!」
 ちいさな身体中に喜びをみなぎらせたふたりは、そのままいつものように駆け出した。
 青々とした草いきれが続く道の先、牧童たちがのどかにウールーの世話に追われている。その傍らで、この世のすべてを手に入れたような気分のダンデとソニアは、おおきな声で笑いながら走った。




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