「どうぞ」

少女は、ぼたぼたと水滴を落とす男に、タオルを差しだした。

「嗚呼、ありがとう」

男は首を振って水を払いながら、少女が差し出したタオルを手に取る。
日暮れ時の河川敷。赤く赤く染まる町。人々は青い陰を伸ばしながら家路を急ぐ。そんな中で彼等は、実に奇妙な組み合わせともいえる。

「また死ねなかったんだ」

男は陽気に云う。少女に向けて放った言葉とも、独り言ともいえる、不完全で、空に消えていくような言い方で。

「そう、ですか」

少女もまた、不完全で微妙なニュアンスをたたえて、言葉を発する。彼等の言葉は、『会話』のために或るのか、はたまた。

彼等は暫く、河川敷の堤の草原で、座り込んだまま喋らなかった。時間だけが、彼等の間を、遠慮なく、ぶしつけに歩き去っていく。ますます彼等は赤く赤く染まる。太陽はまるで死のうとしているかのように、自身を燃やして、静かに沈んでいく。









「あの、」





少女は意を決して、口を開いた。