「リーガル様！」
　鈴の音のような柔らかく可愛らしい声で、私の大好きな人の名を呼ぶ少女。
「あ、アリシア……！！」
　亡くしたはずの恋人の名を呼び、彼女の元へ駆けつけるリーガル。
　私は独り取り残される。
「あり、しあ……」
　私が彼女の名を呟くと、二人が不安げな顔をしてこちらを見つめてくる。
　ドクン。心臓が、嫌な高鳴り方をする。
「だ、大丈夫、だよ、私はちゃんと一人で生きていけるし、アリシアからリーガルを奪うこともしないから、だから、」
　二人の邪魔をすることは許されない。
　私は必死に笑顔を作って弁明するけれど、不安げな顔のまま、憐れむようにこちらを見つめてくる二人。

　ああ、そうか、私はいなくならないと、ダメなんだ。

　その場から去ろうと一歩後退した瞬間、落ちるような感覚と共に見慣れた天井に出迎えられる。
「ゆ、ゆめ……」
　冷や汗を拭い、震えながら呼吸を整える。
　ただの夢。大丈夫。大丈夫。
　そう言い聞かせながら確認するようにして隣を見ると、リーガルが静かに寝息を立てながら眠っていた。
　そんな彼の顔を見たことで、一旦落ち着こうと耐えていた本心が一気に顔を出す。
「……ぃが、りーが、起きて、りーが、りーが、」
　張り裂けそうな胸の痛みを感じながら、私は必死に彼の名前を呼びながらその体を揺さぶった。
「ん……アイレス……？」
「りーが、りーがは、私のだよね、どこにも行かないよね、ずっと一緒にいてくれるよね、」
「どうした、何があったのだ」
「ああ、違う、違うの、わたし、わたし、最低だ、私があの子からリーガルを奪ったのに、二人の幸せを願ってるはずなのに、自分のことばっかりで、」
「アイレス、落ち着け」
「ごめんなさい、ごめ、ごめんなさい、」
　リーガルは泣きながら謝る私に少し困惑しながらも、私の体を引き寄せて優しく抱き締めてくれる。
　けれどこの温もりは、本来あの子を包み込むべきものであって、私はそれを借りているだけなのだ。

　だけど今世だけ、この生涯だけはそれを返したくない。なんて自分勝手で最低な我儘を心の底に飲み込むと、今度は酷い自己嫌悪に襲われながら、私は何度も何度もうわ言のように懺悔の言葉を繰り返した。