夢小説
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今日、路上の端で行き倒れていた野生のポケモンを二人で弔った。お互いに初めての事ではなかったし、野生のポケモンが命を落とすのは珍しい事じゃない。それに比較的綺麗な亡骸だった事を考えると、きっと不慮の事故だろう。
全ての生き物は平等に、いつか同じ場所へ行く。
エンジンシティへと続く大きな橋の上。ゆっくりと沈んでいく夕日。
昼間の出来事を思い出して感傷的になった私は、足を止めてカブさんの背中をじっと見つめる。
自分が死んだらこの人はどう生きていくんだろう。この人が死んだら自分はどう生きていくんだろう。
この世界中全ての生き物が回避できない大きな問題。普段はそんな事は忘れて呑気に過ごしているけれど、一度考えてしまえば不安は止まらない。
気がつけば私は、不安の一端を口に出してしまっていた。
「ねぇ、カブさん。私が死んだらどうしますか?」
ゆっくりと止まるカブさんの歩み。私も彼も、あえて視線は交わさない。
遠くから聞こえるココガラの鳴き声が、やけにうるさく感じた。
「……それは考えたくないな。先に死ぬのは僕でありたいんだ」
予想はしていた。カブさんはそういう人だ。けれど私の心はそれを受け止める覚悟がまだできていないようで、その衝撃に瞳が揺れ動く。
「そんなの……」
「僕ももう若くないからね」
私が何か言う前に、こちらを振り向き穏やかに微笑むカブさんに制される。それと同時にあえて合わせないようにしていた視線がぶつかり、私を気遣うようにゆっくりと瞼を閉じる彼。
「カラテアくん、僕が死んでもちゃんと生きていくんだよ。僕よりもうんと素敵な人を見つけて、今よりもうんと幸せになるんだ」
残酷なほど優しいその言葉が、私の心の奥深くへと刺さっていく。私はそこまで彼の幸せを願えるだろうか。自分がいなくなった世界で幸せになるカブさんを、心から祝福できるだろうか。
私はいくら考えても頷けなかった。
「今以上の幸せなんて、絶対どこにもありません」
涙で視界を歪ませながら不貞腐れる私。彼を困らせてしまう事はわかっていたけれど、そう言わずにはいられなかった。案の定、困ったように笑う彼。
「絶対に、絶対に、どこにもないです……」
「うん。ごめんね、カラテア」
眉根を下げて、悲しそうに、だけど私を安心させるように微笑むカブさん。どうして笑顔を作るんだと怒りたかったけれど、こんなにも優しい人に怒れるはずもなく。彼との距離が近づけば近づくほどに、こうしていつも遠く感じてしまう。
どうしたらいいんだろう。どうしたらカブさんに私の気持ちが伝わるんだろう。
もう半分以上が沈んでしまった夕日。少しずつ暗くなる辺り。
ふっと答えが心に浮かんできた私は、カブさんを真っ直ぐに見据えた。
「カブさんのことは私が幸せにします。だから私のこともカブさんが幸せにしてください」
これしかないと、真っ直ぐに伝える私の気持ち。
しかしきょとんとした後、照れたような顔をして笑い出すカブさん。何がそんなに面白いのかと今度はしっかり責め立てようと思ったけれど、あまりにも幸せそうな顔をしているのでこちらもきょとんとしてしまう。
「ふふ、参ったね。まるでプロポーズだ」
「え……あっ、いや、そんなつもりはなくて……!」
プロポーズ。そう言われて確かにそうだと自覚すれば、顔が爆発しそうなくらい熱くなる。本当にそんなつもりはなかったのに。
「そんなつもりはないのかい?」
珍しく意地悪な顔をして、こちらを覗き込んでくるカブさん。
「カブさん、それはずるいですよ……」
「ふふ、ごめんね」
その謝罪の言葉と表情はさっきとは全く違うもので、私と彼の距離を遠ざけるものでは少しもなかった。
*
それから日が沈み切った橋の上。もうすぐ帰らないといけないのだけど、もう少し、もう少しと別れを惜しんで、私達は隣り合わせで話し込んでいた。
「今日のあの子、もし次があるなら幸せな一生を送ってほしいですね」
「うん、そうだね……」
「もちろんこの子達の幸せを守る事が一番ですけど」
腰のボールを撫であげる。この子達とも、カブさんとも、きっとお別れの日は来てしまうけど、今そばにいてくれる大切な存在を大事に抱えて生きて行きたい。
少し悲しさを引きずって、けれど優しく微笑むカブさんを見て、私も優しく微笑んだ。
全ての生き物は平等に、いつか同じ場所へ行く。
エンジンシティへと続く大きな橋の上。ゆっくりと沈んでいく夕日。
昼間の出来事を思い出して感傷的になった私は、足を止めてカブさんの背中をじっと見つめる。
自分が死んだらこの人はどう生きていくんだろう。この人が死んだら自分はどう生きていくんだろう。
この世界中全ての生き物が回避できない大きな問題。普段はそんな事は忘れて呑気に過ごしているけれど、一度考えてしまえば不安は止まらない。
気がつけば私は、不安の一端を口に出してしまっていた。
「ねぇ、カブさん。私が死んだらどうしますか?」
ゆっくりと止まるカブさんの歩み。私も彼も、あえて視線は交わさない。
遠くから聞こえるココガラの鳴き声が、やけにうるさく感じた。
「……それは考えたくないな。先に死ぬのは僕でありたいんだ」
予想はしていた。カブさんはそういう人だ。けれど私の心はそれを受け止める覚悟がまだできていないようで、その衝撃に瞳が揺れ動く。
「そんなの……」
「僕ももう若くないからね」
私が何か言う前に、こちらを振り向き穏やかに微笑むカブさんに制される。それと同時にあえて合わせないようにしていた視線がぶつかり、私を気遣うようにゆっくりと瞼を閉じる彼。
「カラテアくん、僕が死んでもちゃんと生きていくんだよ。僕よりもうんと素敵な人を見つけて、今よりもうんと幸せになるんだ」
残酷なほど優しいその言葉が、私の心の奥深くへと刺さっていく。私はそこまで彼の幸せを願えるだろうか。自分がいなくなった世界で幸せになるカブさんを、心から祝福できるだろうか。
私はいくら考えても頷けなかった。
「今以上の幸せなんて、絶対どこにもありません」
涙で視界を歪ませながら不貞腐れる私。彼を困らせてしまう事はわかっていたけれど、そう言わずにはいられなかった。案の定、困ったように笑う彼。
「絶対に、絶対に、どこにもないです……」
「うん。ごめんね、カラテア」
眉根を下げて、悲しそうに、だけど私を安心させるように微笑むカブさん。どうして笑顔を作るんだと怒りたかったけれど、こんなにも優しい人に怒れるはずもなく。彼との距離が近づけば近づくほどに、こうしていつも遠く感じてしまう。
どうしたらいいんだろう。どうしたらカブさんに私の気持ちが伝わるんだろう。
もう半分以上が沈んでしまった夕日。少しずつ暗くなる辺り。
ふっと答えが心に浮かんできた私は、カブさんを真っ直ぐに見据えた。
「カブさんのことは私が幸せにします。だから私のこともカブさんが幸せにしてください」
これしかないと、真っ直ぐに伝える私の気持ち。
しかしきょとんとした後、照れたような顔をして笑い出すカブさん。何がそんなに面白いのかと今度はしっかり責め立てようと思ったけれど、あまりにも幸せそうな顔をしているのでこちらもきょとんとしてしまう。
「ふふ、参ったね。まるでプロポーズだ」
「え……あっ、いや、そんなつもりはなくて……!」
プロポーズ。そう言われて確かにそうだと自覚すれば、顔が爆発しそうなくらい熱くなる。本当にそんなつもりはなかったのに。
「そんなつもりはないのかい?」
珍しく意地悪な顔をして、こちらを覗き込んでくるカブさん。
「カブさん、それはずるいですよ……」
「ふふ、ごめんね」
その謝罪の言葉と表情はさっきとは全く違うもので、私と彼の距離を遠ざけるものでは少しもなかった。
*
それから日が沈み切った橋の上。もうすぐ帰らないといけないのだけど、もう少し、もう少しと別れを惜しんで、私達は隣り合わせで話し込んでいた。
「今日のあの子、もし次があるなら幸せな一生を送ってほしいですね」
「うん、そうだね……」
「もちろんこの子達の幸せを守る事が一番ですけど」
腰のボールを撫であげる。この子達とも、カブさんとも、きっとお別れの日は来てしまうけど、今そばにいてくれる大切な存在を大事に抱えて生きて行きたい。
少し悲しさを引きずって、けれど優しく微笑むカブさんを見て、私も優しく微笑んだ。